紙の本
芳醇なる教養ファンタジー
2005/11/18 08:47
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tujigiri - この投稿者のレビュー一覧を見る
さてさて今回取り出したるは、第5日本ファンタジーノベル大賞で優秀賞を授与された異境小説「酒仙」。
異境と言っても舞台は平成日本、しかして神仙界と密接につながりを持ち、酒を通じて理気合一、まこと玄妙なる世界が現出されております。
主役・暮葉左近は富家の裔なれど、その尋常ならざる酒量にて哀れお家は傾き、ついに用人に暇を出して明日には邸宅も処分されて無一文の身に転落するとあっては、手に職もなく呑む以外に能のないこの男、先に酒香の漂わぬ将来をはかなんで、いましも命を断たんとするところ。
そこに現れ出でたる抱樽大仙、熱酒風呂に沈んで酔死寸前の左近を拾い上げ、やにわに仙界に連れ帰る。
大仙、西嶽佳佳山は玉泉洞にて霊妙なる酒鏡をかざしてみれば、なんと左近の眉間に浮かび上がりたるは、末世の擾乱を救う酒星の印。かつて同じ星のもと西方に生を受けたるは、かのイエス・キリストなりと、居並ぶ仙人たちも騒然の気色。
すぐさま蘇生の秘儀を施され現世に送り返された暮葉左近、南総山中で密かに活動する秘教・儀金樽教団に預けられ、やがて来る終末の日までひたすら酒を呑み、酒徳を積むよう命ぜられる。
自らの使命を悟り、教団から賄い扶持とつまみ作りに練達した従僕をあてがわれ、日夜気持ちのよい飲酒にいそしむ左近。
西にうまい酒を出す店があると聞けば従僕引きつれてこれを堪能し、東に珍味のさきわう酒家あらば、行って舌鼓を打つ。
額に酒星を刻まれし左近なれば、いずれの場にても見事な呑みっぷり、魔酒に魅入られた魑魅魍魎の闖入にも酒徳の威力で堂々引導を渡すなど、赫々たる霊験を現す。
しかして魔酒の徒の陰謀これ尽きず、ついに教団の「酒城」から聖なる徳利が盗み去られる仕儀とあいなって、一転立ちこめる暗雲。
時ここに至って敢然と立ち上がる左近、はてさて魔王・三島業造との一騎打ちの結末はいかに。
古今東西の美酒麗食と古典、神話からの引用をちりばめて、酒呑みの桃源郷を紙上に映し出した稀代の異境小説、読めば陶然、あるいは抱腹絶倒間違いなし。
酒呑みも下戸もこぞって本書を読むべし、読むべし。
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つぶれた酒問屋の跡取息子は、酒風呂に漬かって死ぬつもりだった。ところがその心意気を仙女に買われて奥深い酒と食の世界に踏み込むことに。その裏には仙女の思惑があったのだが……。酒飲みでなくたって楽しい酔いどれファンタジー。
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うまくファンタジーとしてエントリーできた・・・世紀末の日本〜暮葉左近は江戸から続く商家の富貴をバブル崩壊で失ってしまい,紹興酒の風呂で酔い死のうとしたが,彼の額に救世主の印が発見され,聖徳利により酒仙として蘇った。酒によって世を救うと云われても何をどうするか分からない。安房の国にあった聖徳利は酒造りは旨い酒を飲むための商売だと考える三島酒造の剛三が盗んだと判明したものの手だては見つからない。イギリスにあると思われた聖杯が山梨にあると聞きつけて,左近と剛三は酒にまつわる歌比べを開始する〜蘊蓄部分がしつこいが読み飛ばせば,ファンタジーとして楽しめる。こういうものを書いていれば良いのに・・・余計なものを書いて困ったモンだ
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にこにこ楽しくなる酒飲みたちの聖なる珍道中の顛末。稀代の酒飲み暮葉左近が酒星のしるしをいただく救世主として見出されて美味しい飲み屋を練り歩く。やがて彼は酒によって説かれるこの世の理を知り、宇宙が生まれ変わる儀式〈聖酒変化〉を悪しき酒によって乱さんとする三島業造との対決へ至る・・・って自分でも何を書いているのかわからん。酒と食と東西文学、神仙世界を披露しながらも物語のメッセージは結構簡単。酒は楽しく呑もう、味わおうということ。かっこよく飲み屋を回って悪者を退治したかと思えば酒飲みの情けない姿もちゃっかりはみ出る。著者もまじっているような?文豪の酒にまつわる逸話もあって、色々興味が湧く。ルバイヤートにも興味が出た。「あれは宇宙が酒に醸される音だ。」なんて素敵じゃないですか。教養とファンタジーの小説だけどいたって気さく。ただし腹が減る。うーん春と酒が待ち遠しい。
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なんでかういふ本を絶版にするかなあ。センス疑ふよなあ。空腹時の服用はお避けください。禁酒時もね。やつぱ李白つて酒呑みだよなあ、と今更。そして、中村さんのやうに死ねたらいいなあと思ふたよ。
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漢詩、というか詩全般というのは良さが分からず。言葉から何のイメージも湧いてこない。分かったらまた違うものか。でも酒を飲むなら酔わなきゃってのはなかなか気に入った。お酒には悪いイメージもいろいろあるけど、本来楽しく飲むものだよなぁ、などと思う。
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久しぶりに、読後感が晴れ晴れとした本を読んだ。
それこそが、酒飲みの徳、なのかも。
日本文化は酒飲みに甘い、という。
この本はこの国だからこそ生まれた本なのかな。
自分自身は飲めないのだけれど、ここに出てくる竹酒は飲んでみたくなった。
それくらい、この小説は酒や料理の表現が豊かだ。
ストーリーは荒唐無稽だけど、こういった部分や、古今東西の文学作品がちりばめられ、とてもゴージャス。
なんというか、絢爛たる知識がふんだんに…無駄遣いされている感じ(笑)。
これで作者の南條さんが下戸だったとかだったら、すごくうれしくなってしまうかもしれない。
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酒がとてつもなく美味そうに思えてくる。
読後、下戸の自分でも飲みたくなる一冊。
「満漢全席」でも登場した仙人や人物もチラホラ登場。
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20年以上の時を経ての再読。
その時よりも楽しく深く読めたかな。
酒徳積んだからねぇ(笑)
美味しく呑んで楽しい酔いに身を委ねたいねぇ。
こういう作品を拾い上げてくれるファンタジーノベル大賞、大好きですわ。
それにしてもこの年の最終候補はヤバいね。
イラハイ(佐藤哲也) 、東京異聞(小野不由美)、球形の季節(恩田陸)って。