紙の本
愛する魂よ美しく装え!
2011/11/07 18:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
一人の男と一人の女が出会えば、光と闇の中でさまざまな記憶がはぐくまれ、二人の間にはいくつもの時間が音を立てて流れはじめる。
これは五〇歳代の真ん中までてんでに漂流し続けてきた二人の作家が、来たるべき再会を前にして、彼らの過ぎこしと行く方をゆくりなく心をこめて語り尽くした真情あふれる魂の交流録である。
それは期せずして彼らの半生の呼び出しと向き合いの機会ともなり、男が幼き日々の父親への憎悪と軽蔑をあからさまにすれば、女は別れた夫の自滅の原因はおのれの不明にあるとする心も凍り付くような告白を行い、彼らの交換日記は単なる消息通知から突如お互いの全存在を賭けた魂の格闘技の様相を呈して読む者を慄然とさせる。
彼らが閲したあまたの生、そしていくたの死! 失われた時が一挙によみがえり、闇の奥に秘められていた彼らの実存が色をなして立ち上がる時、希望と絶望の鐘が鳴り響き、彼らはたしかにもうひとつの生を生きはじめるのである。
今日こそは毀れた夢を繕う日愛する魂よ美しく装え 蝶人
投稿元:
レビューを見る
往復書簡という形式は、いったいなんだろうかと考える。その内容に引き込まれて一気に読んでしまったが、果たしてそれでよかったのだろうかという思いがしている。お二人は、この書簡を書くためにかなりの時間を費やしたに違いない。書いては読み返し、逡巡し、また書き直すという行為の繰り返しがあったに違いない。そのような書物を短時間で読み終えてよいのだろうか。お二人とも詩人という肩書ではないのかもしれないが、詩人としての魂が共振して、こんな奇跡のような書物ができあがったに違いない。人生は、「再会と別離」で出来上がっている。
投稿元:
レビューを見る
四方田犬彦さんと石井睦美さんによる往復書簡集。もともと四方田さん目当てで買ったのだが読んでいるうちに石井さんも気になる存在に。
四方田さんの語りがなんだか劇場で台詞を言ってるのかと思うぐらい構えた感じなのに対して、口語に近い感じの石井さんの手紙が続く。往復書簡集というのはどこかお互いに距離をとった感じのするものをよく読んできたように思うが、この本は相手の方へぐっと迫ったり、どこか挑発するような言葉も交わされてとてもスリリングである。石井さんから四方田さんへ宛てた書簡の方がその傾向があるかもしれない。
軽く衝撃だったのは、四方田少年の生まれ育った家での両親とのエピソード。そういう過去を抱えている方だったとは… 石井さんも辛いご自分の離婚のことなどを語られている。お二人ともに言えることだが、胸のうちに抱えたものを丹念に練り上げられた言葉で綴ることで、どこか浄化されたり、整理されたりする部分があったのではないだろうか、と推測する。書くことによって救われる、というような表現があるけれどまさにこういうことなのかなと思える。
非常に濃密な読書の時間を過ごすことができた。語る言葉を持っている、というのはやはり素晴らしいことだ。
投稿元:
レビューを見る
別離と再会、ではなく。再会と別離についての往復書簡。再会とは、誰かと再び出会うだけのことではなく、自分とも再び出会うことでもあるのだなぁ、と。そして、誰かとの別離は自分の一部と別れることでもあるのだなぁ、と。
往復書簡という形は、相手に触発されるものがありながら、熟考という時間が間にあって、自らの思考を辿っている姿が思われ、対談とは違う面白さを感じた。