投稿元:
レビューを見る
いい小説に出会った。主人公の浩遠がどうにもせつない。何事にも屈託なく飛び込んでいける友に対する引け目のようなもの、好意を抱いた相手がその友と仲を深めていくのを見ていなければいけないこと、何かを求めながらちっぽけな毎日で精一杯なこと……。そうでいながらも、学業に対して、国に対して、これほど熱い思いを抱けることがとても羨ましい。離れ離れになってもずっとつながっている人々がいることが羨ましい。誰か……というのは妻子なのだけど、彼らのためにささやかな日々に甘んじることが羨ましい。でも、物事はこんなふうに落ち着いていくのだろう。夢破れた末の今かもしれないけど、それは幸せと呼んでいいものだと思う。
大学に入り、学問の楽しさに目覚め、民主化運動に傾倒していく前半も勢いや熱さがひしひしと感じられよかったけれど、最初はちっぽけになってしまったなと思ったその後の話は、決して「その後」ではなく、やはり今のことであり、生きていくとはそういうことなのかもしれないと思わされた。大言吐いても今日が生きられないようでは意味がないということ。
投稿元:
レビューを見る
何となくもやもや感のあるアジアの大国の状況を感じとることができる。芥川賞受賞作というのに圧倒されることなく、素直に感情表現など、我が身にも通じるような感じで、いい作品だと思いました。中国の人とつきあっていくのにも参考となる一面を表現していると思います。
投稿元:
レビューを見る
「日本語を母国語としない作家として始めて芥川賞を受賞した」作品ということで、文庫になったら読みたいと思っていた小説。
中国人自身が天安門広場から北京オリンピックまでをどう描いているのかという興味もあった。
意外に(悪い意味ではなく)、「爽やかな」と表現してもいいような読後感だった。著者のあとがきにある『その時代とその時代を生きた私、その時代に青春を捧げた大勢の中国の無名の小人物の記念として』書かれた、まさにその通りの物語。
熱に浮かされるかのように民主化運動にのめりこみ、挫折し、やがて仕事をもち、結婚し子供が生まれる。日常のふとした瞬間に、あんなに何かに熱くなったのは何だったんだろうと当時を振り返る。これは青春小説以外の何者でもないよね。そう思った。
投稿元:
レビューを見る
中国人が芥川賞を受賞したというので興味があり読んでみた。思っていた以上によかった。89年の天安門かぁ。90年に大学に入ったのだが、その時まだ中国への留学禁止の貼り紙がついこの前のようだ。
投稿元:
レビューを見る
中国の天安門事件から北京オリンピックにかけての激動の時代に、荒れ狂う濁流のなか生きた無名の男の話だ。
これは2008年の芥川賞受賞した作品
前から読んでみようと思っていたところ、図書館で思わず見つけて手にとりました。
話のところところに出てくる詩が染み入る
元活動家だった父親との電話に涙する主人公が父に諭され、翌日の朝日を見るシーンはまさに今までの月日を一瞬に凝縮したような重みがある。
投稿元:
レビューを見る
「中国人の目線で見た天安門事件」という小説の題材は、ただ日本文学を読んでいるだけでは出会わなかっただろう。楊逸氏が日本語で書いてくれたから、この視点に出会えた。だから、斬新に思えた。
日本語も丁寧で、文体に強い癖もなく、読みやすかった。
しかし結局、日本文学として、純文学として面白いのかの判断がつかなかった。
投稿元:
レビューを見る
天安門事件から現代まで。
時代の変化と、それを拒み続ける中国政府との間で翻弄される
特別何者でもない在日中国人の、今をそのまま描いたような作品。
芥川賞受賞作。
前半、学生時代の光に満ちた鮮烈な時間が、
後半思い出のように蘇って切なくなる。
学生寮で眠る前の30分だけ、
布団の中で身をよじりながらテレサ・テンを聴く感じとか。
ぐぐっと来ます。
中国の民主化運動、というアングルもあるけど、
若い頃の夢をくすぶらせながらも日々の生活の確かさに安堵する、
ごく普通の男性像でもあるので、共感できます。
投稿元:
レビューを見る
生活、運命、人が生きること、相対的な考え方、
いろいろ悩みもがき自分の運命?とかに翻弄され
進んでいくのが人生。
そう思う本でした。
投稿元:
レビューを見る
日本語を母語としない作家で初めての芥川賞受賞作。89年天安門事件前夜から2008年北京五輪前夜まで。大志を抱いて大学に進学した「二狼」の物語。
作者はまだ文化大革命の残滓に成長した青年だった。「あとがき」では「革命しないとは、すなわち反革命である。反革命は死刑になるほどの罪だ。そんなロジックを元に、与えられた選択肢は常に「赤」か「黒」かの両極端のものだった」という田舎で育った人だった。だからこそ、「民主」(選挙による政府)は、総てをばら色に変える合言葉だったのだろう。
「大学の寮の中でこっそりテレサ・テンの歌を聴いた経験や、尾崎豊の名曲「I love you」から受けた衝撃などは、むしろ私自身の体験に基づいたものだといえよう。」
アメリカをバラ色の国ととらえ、日本を自由な国だという中国青年たちの「普通さ」を20年たってやっと私たちは文学として読むことが出来る。
矛盾の中で世界史は動いている。もちろん、俯瞰の目で見ることは必要だ。けれども、それだけでは世界は見えない。
日本はこれから曲がり角を曲がる。曲がらなければならない。
「赤」も「黒」も選ぶことの出来ない「普通」の庶民にとって、中国の経験は他山の石ではないだろう。
投稿元:
レビューを見る
芥川賞作品。
日本語を母語としない作家として初の受賞として話題になった。
彼女の講演を聴いたことがあるけど、とてもユーモラスでソフトな人だった。
そんなわけで、読む前からすごく興味はあった。
89年の天安門事件から北京五輪まで。
民主化への夢・希望とその挫折を地方出身の2人の青年を軸に描いた作品。
文章自体は特に好みではないけど、特にひどいわけでもない。
私はこれまで恥ずかしいくらい中国について無知だったので、そんな私がこの作品を評価するのはちょっと難しい。
芥川賞に値したかどうかはどうあれ、テーマとしてはとても興味深かった。
大学というものがもつ社会的意味や学生たちの気風、
さらには実際の言動、その末路、
どこか日本の60年代の学生運動にも似た当時の中国の動き。
もう少し知りたいと思った。
この作品自体は民主化云々描かれているけど、政治的な色よりも青春小説っていうテイスト。
でも個人的には「祖国」とは人にとってどういうものか?というところをテーマに読んだ。
天安門事件後に退学になり、残留孤児二世と結婚し、妻と共に日本に渡る主人公。
日本から祖国を見ていく後半は特に良かった。
ラストはずしーんときた。
作者自身、日本で結婚・子育てをする中で突き当たったことだったらしいけど、先にそんな作者の講演を聴いていただけに思わず泣けてしまった。
投稿元:
レビューを見る
2008年の芥川賞受賞作。
ありがちな文をこねくり回して書かれていない、わかりやすい文体に好感が持てた。
中国の留学生にぜひ読んでもらって感想を聞きたい。
学生だからこそ夢中になって何かに打ち込める懐かしさ切なさが少し蘇る感覚を味わった。
投稿元:
レビューを見る
中国人の視点による天安門事件。
若い時しか出来ないことがあるんだなぁ・・・ジーっとそれだけを見つめることが出来る年齢というのは、愛おしい。
投稿元:
レビューを見る
いかにも中国人の手によるものといった感じが芬々と漂う。本にはいつも日本語の美しさを求めている。最後まで馴染むことはできなかった。
投稿元:
レビューを見る
一日で読んでしまいました。久しぶりに、心に感じ入るものがある小説でした。作者の気持ちが籠もった渾身の一作です。
投稿元:
レビューを見る
2012.8.13読了。
ドラマティックな国の歴史と、個人の歴史はどのようにクロスしていくのか。思ったより面白かった。