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紙の本
森は樹海とも言うべき迷路ながらも
2012/01/23 11:19
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
福島原発、草食男子、秋葉原無差別殺人等、最近の日本の事例を著者なりの切り口で読み解く著作である。読んでいて、内田らしい快刀乱麻ぶりに感心した次第だ。
哲学、若しくは哲学者とはどうあるべきかということを考えさせるのが内田という方の持つ魔術である。
僕らが普段「哲学」と聞くと、まさに「象牙の塔の中での空中戦」であり、僕らの現実との接点は無いような印象を受けてきた。「哲学科」に進む学生とは一種の変人であり、哲学者とは一体何をしているのか分からない人であるということが一般的な理解である時代もあったと思うし、今でもそうかもしれない。
これは哲学若しくは哲学者側の問題でもあったし、あると僕は思う。哲学書の多くはジャーゴンともいうべき専門用語に満ちており、何を言っているのかは容易には読めない。「容易に読もうと考える事が間違っている」と哲学者は言うかもしれないが、「簡単に理解出来され得ないことは 往々にして最後まで誰も理解しない」ということはあると思う。難しいことを簡単に説明することこそがプロというものだと僕は思う。むしろ多くの哲学書はわざと難しく書いているのではないかと勘ぐってしまうくらいだ。
その中で内田というお方の立ち位置は非常にユニークである。
内田という方で哲学に親しみを覚えた方は間違いなく多いと思う。そうではない限り、著者の書いた本の多さや売れ行きは説明出来ない。装丁や題名を幾分カジュアルにして門戸を大きくし、書いている文章にも難しい専門用語は出てこない。身近な例から書き起こしてくるので頷きながら、僕らはみるみる哲学の森に入っていくことになる。森は樹海とも言うべき迷路ながらも、内田は「けもの道」を歩きながら僕らに手招きしてくれる。その「手招き」の絶妙さが彼の最大の魔法であると僕は思っている。
森林浴という言葉がある。内田の本を読むことはその体験に近い。読み終えてなんだかすがすがしい気持ちになる。
哲学が、これほど現実の社会を観る際に役に立つものだとは、内田が登場する前には想像出来なかった。その意味では内田に感謝すべきは僕ら一般の読者ではなく、哲学側だと思う。哲学は実に世俗的に役に立つことが分かってきた。
紙の本
なるほどと思わせる現代の世相批判
2012/10/23 08:53
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:W124 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて内田さんの本を読みましたが、思想家として、あるいは道徳教育を指南している(ご本人は意識していらっしゃるかどうか)方として、尊敬に値する人だと思いました。何気ない思いやりを忘れてしまっている、われわれ現代人にとって、「思いやり」とは何かを考えさせられる本でした。
紙の本
人を呪わば穴ふたつ
2012/01/04 13:38
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書が誕生したきっかけは、著者がある日編集者に「現代は呪いの時代である」と呟いたからだそうだ。これを切り口にして「婚活」「草食系男子」など「日本辺境論」以降の日本および日本人の動向や病根や震災や原発に関する著者独自の文明論が続々と繰り広げられていくのだが、それはぜんぶ本書を読んでのお楽しみということにしましょう。
それで最初に戻って現代は呪いの時代かと自問すれば、わが国は平城平安の時代からずずっと呪いを基軸にして社会全体が変転してきたのだと考えられ、平成の御代になって急に呪いが時代のキーワードになりあがったのではけっしてない。呪いとそのフォローがなければ、古事記も日本書紀も源氏物語も平家物語も太平記も法隆寺も北野天満宮もけっして正史に登場しなかったし、本邦の光輝ある文化文明の本源はじつにこの呪いにあるのである。
翻って我が身を顧みれば、呪いこそが知情意を牽引し、そのダイナモ役を仰せつかってきたことは火を見るより明らかである。胸に手を当てて静かに考察すれば、呪いの前には優秀な他者への絶望と羨望と嫉妬が先にたち、これの不可能を知るに及んで、おもむろに恐るべき呪いの発動がやってくる。
呪いは人間として最悪最低の悪い意志、否定的な情動であるが、いちばんよくないのはその核心部分に他者の全面否定と破壊と殺意が内蔵されているからである。他者への憎悪と殺意は己自身を猛毒で傷つけるのみならず、未来への希望と世界への友愛を損傷し、その挙句に人を呪わば穴ふたつ。呪う人はみずからも墓穴を掘るのである。
著者は本書で閉塞状態にある社会と暗欝な人心に光をもたらすものは、「おはよう!」「こんにちは!」など祝福の言葉の交換・交流と、クールな市場の「交換経済」から友愛あふれる「贈与経済」への転換である、と力説しているが、密室の奥でどす黒い呪いに自縄自縛されているわたくしの耳目には、それがどこか遥か彼方の寄る辺なき夢物語のように響くのであった。
紙の本
「呪い」が社会を消耗させていくことを考えさせられる本
2012/02/12 21:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わ☆たぬき - この投稿者のレビュー一覧を見る
「あとがき」によると、「呪詛」と「贈与」を全体の主題に2008年から不定期に寄稿されたエッセイ集であり、思想家・内田樹氏の視点で現在の日本が読み解かれています。
前半の「1日本のことを考える」が、書名と同一の「第1章 呪いの時代」で始まります。ネット論壇に代表される攻撃的で破壊的な批判の背景にある自尊感情の肥大化に言及し、「呪いの時代」を解く方法が提示されます。著者によれば、こうした「呪い」は1980年代半ば以降に際立ってきたそうですが、時代的には「失われた20年」と符号することになり、先達がそれまで営々と築き上げてきたものを瞬間に破壊してきたのが、あの時代の一つの姿だったのかと思うと暗澹たる気持ちになりました。
第1章を受けて、第2章では呪いと反対にある「祝福」について考察し、以降、停滞する日本の政治、英語、婚活、草食系男子などが、次々と語られていきます。哲学というと、単純なことを言うために必要以上に難解な言葉を捏ね繰りまわすイメージがありますが、平易な言葉で論述する著者に導かれ、自分にはなかった視点から別の風景が見えてくるようでした。
後半の「2未曾有の震災の後に、」では、「第10章 荒ぶる神を鎮める」には多くの紙幅を割かれています。福島原発の事故をテーマに、一旦事故が起きてしまうと制御不能になる危険を見ないようにしてきた杜撰さが指摘されています。阪神淡路大震災を経験している著者だからこそ、今回の大震災で被災された方々の心のうちや、あるいは危機的状況に対応できなかった今回の原発事故への怒りが伝わってきました。
テーマは多岐にわたりますが、非寛容が信頼関係を壊していく恐ろしさと、自分を理解するためにも他者を受容していくことの大切さを考えされる一冊です。
紙の本
呪いというのが今の時代にぴったり
2013/01/01 19:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ロッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
想定外とかまったくの赤の他人から被害を被ることが多くなった時代、どうしてそうなるのかを広い見地から諭してくれる。なるほどと思うところが多く、読んでておもしろい。ただ、どうでもいいことを考えすぎだと人によっては評されるかもしれない。