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紙の本
人力と動力、二つの視点を持つ男の走り旅
2012/05/22 15:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:watarureport - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、坪井伸吾さんが今は亡き旅仲間への想いを胸に、家族・仲間の支援と旅先の街やモーテルや道路脇での出会いも絡みながら、自分の可能性を試す舞台としての北米を西から東へ進んだ走り旅の記録で、十数年前から人力移動の旅にこだわる僕は「人力」の要素を意識して読んでみた。
全体的には、各章の扉では旅で履き潰した5足の靴を写真で見せ、本文下には行程図をパラパラマンガ風に仕立てた工夫も面白い。
坪井さんの旅遍歴でわかるように最も得意とするバイクのような動力を使った移動では気にならない寄り道でも、二足で進む旅では進路の判断をひとつ誤るだけで精神的ダメージが大きく、生存の危機に陥る可能性も高まる。1日に進む距離の思案、飲料水の確保のタイミングや携行する分量、進路を想定しながらの靴選び、強盗や犬や見えない何か? に怯えながらのテント泊の場所決定、もっと細かい点では背負うザックの肩への負担を分散させる行為も含め、(動力の旅でも輸送や交通法規や駆動系の故障など特有の問題はあるだろうが)人力、特に歩き・走りの旅はバイクの旅よりも苦悩を重ねながら生死に直結する選択を迫られる回数は圧倒的に多いものだ(近年は旅の計画立案でグーグルアースに、行動中に通信機器に頼るか否かの選択もある)。
肉刺や歯痛のような人為的な問題、寒暖や異常気象のような自然的な問題への対応もひっくるめて、すべて自分の意志で決定してそれらの冒険的要素をうまく切り抜けて突き進んでゆくことが人力の旅の大きな醍醐味である。
また、一度は断念して時季を変えて再度挑んだモハベ砂漠の区間にも顕著だが、同じ道を往くにも季節や時間帯、装備、精神状態、そして何よりも人力という移動手段によって印象は大きく異なり、酷暑や、アメリカでも日本(特に北海道)でも見られる人力移動がまったく想定されていない100km/h超のクルマの交通の脇を通らねばならない状況もある人力特有の怖さも知りながら、目標に向かって前進し、動力利用で空白部分も作らずに太平洋から大西洋へすべて自分の足で踏破して生き抜いた(死ななかった)経験によって、坪井さんは身体能力とともに今後の旅の可能性も大幅に拡がったと読み取れる。
これまでの旅の経験で培った、良い意味で予定調和から逸脱した「なんとかなるよ」の精神と“老人力”による関西人気質の坪井さんらしい適度に脱力感のある振る舞いと、あえて人力で往くることの悲喜こもごもを余すところなく綴り、登山、自転車、筏・ゴムボート・カヤックなど、ほかの移動手段にも通じる人力の旅の本質を再確認できる秀作だ。しかもこれを、人力と動力という二つの視点を持った旅人が著したことにも大きな意義がある。
できれば坪井さんには僕好みの人力寄りの旅に傾倒し続けてほしいところだが、今後はどのように突き進むのだろう。
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