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帝銀事件が起きた昭和23年の日本は、連合国の占領下にあった。当時の日本人はもちろん、日本の様々な組織(検察・警察含む)にとってアメリカを中心とする占領軍は途方もなく巨大で、時には「壁」になったのだろう。
事件の犯人を旧日本軍関係者と睨んでいた警察捜査の主流は、「壁」にぶち当たってしまった。「壁」が旧日本軍のある一部に利用価値を見出し保護したからである。行き場をなくした主流が傍流の平沢貞通犯人説に殺到し、あれよあれよという間に平沢の死刑判決に至ってしまった。平沢自身、あまり素行がよくなかったことや脳の病気による虚言症などを抱えていたことがあり、自白重点主義の当時、心証の面で不利に働いただろう。
無関係の人が、時代や巡りあわせの悪さから想像もしなかった境遇に陥ってしまうことがある。これがフィクションでないことが恐怖である。
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帝銀事件について事件発生からその後の捜査までわかりやすく解説されている。小説というよりはノンフィクションで読みにくい箇所も多いが、事件への興味から割とすらすら読めた。平沢はどう見ても冤罪で警察の威信のためのスケープゴートとしか思えないが、彼自身が供述で引っ掻き回したり金の出所を明かさなかったりと、犯人にされても仕方ない状況を作っている。画界の興隆のために大量殺人犯の汚名を着せられてもいい、というのは理解できない。
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終戦後、旧刑事訴訟法最後の取扱事件である帝銀事件の真相に迫る小説。冤罪事件ではないかと言われており、死刑判決を受けた平沢死刑囚は無実を訴えつつ獄死。病気のため虚言癖があった画家の死刑囚に薬物を扱えたのか、見えかくれする陸軍特殊部隊とその記録をめぐる米ソのしのぎ合い、真実はどうであったかに松本清張が迫る。
時代の巡り合わせと当時の世論、ある警察官の執念、米ソの情報線でGHQの影響もあったかなどさまざまがあるとはいえ、無実の市民が突然逮捕、有罪にされる社会にはしたくないものです。
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作り話かと思うような事件だと思った。一部フィクションの部分があるので、タイトルに「小説」が入っているんだろうか。松本清張さんの取材力に圧倒させられる。GHQや731部隊など、史実を知る意味でも、読むべき作品だと思った。
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占領下の日本、青酸カリを飲ませ行員十数名を殺害し現金が奪われる。画家の平沢貞通が逮捕されるが…。最後の「しかし、とに角、個人的なおれの力ではどうにもならない」に「小説」とせざるを得なかった作者の無念がにじむ。
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★4.8
日本の警察捜査史上初という、モンタージュ写真が作成され、実際の捜査にも活用された。そして、横溝正史の悪魔が来たりて笛を吹くのモデルとしても知られている。
帝銀事件の予備知識はこんなところだった。絵空事ばかりに関心がいって、実際の事件を恥ずかしながら、調べたことはなかった。昭和史に関心を持つようになり、色々漁り始めて、冤罪の可能性が極めて高いことを知った。この作品を読み、それはほぼ、確信に近いと思えた。
「しかし、とに角、個人的なおれの力ではどうにもならない」
この、最後の一行は、松本清張自身の嘆息に思えて仕方がない。
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松本清張が描く、帝銀事件。
平沢は果たして真犯人だったのか。犯行の様子、平沢の暮らしぶりから事件が書き起こされる。そのあとの捜査では、生存者の記憶をもとに作られた似顔絵と本人の自供をもとに平沢犯行説が組み立てられた。
確かに怪しいところはあり、平沢が捜査線上に浮かぶのは無理はないが、犯行当日のアリバイや犯行に用いられた青酸化合物の入手経路が不明確。
また時代背景としてGHQの影響力がなかったとは思えない。戦後史の闇。
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どのようにして犯人に仕立てられていくのか、平沢が本当に犯人なのか?疑問が残る実際にあった事件を記者の目線から書かれた小説。事件についての真相はわからず、作者も想像するしかなかった。戦後、GHQ、細菌部隊、がキーワード。
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人生初の松本清張。
風邪ひいてた時にアマプラでNHKの「未解決事件」を見漁っていて、その中に帝銀事件を扱ったものがあった。ただ帝銀事件について描くんじゃなくて、あれは何かおかしかった、と真相に迫ろうとする松本清張の視点から描いていたもので、ゾクゾクする面白さがあって、そこでこの本を知った。
ドラマを観ていたせいかもしれないけど、小説というよりもほとんど松本清張のルポルタージュのようで、主人公のジャーナリストはほとんど松本清張本人だ。小説とは言いつつ、出てくるものは(たぶん)全部実名で、松本清張がこれが真実なんだと伝えたい一心で書いているのが分かる小説だった。調べ尽くして、最後の一手には辿り着けなかったけど、憤りに貫かれた本だった。
帝銀事件は、今回こうして踏み込んで知るまでは自分にとってはいわくつきの、得体の知れない怖い話的なイメージ(どちらかというと金田一的なイメージ)があったけど、ある程度の輪郭を知ると、市井の人がいきなり訳もわからず毒殺されてしまった悲しい事件で、その周りには冤罪(かもしれない)や、真実に辿り着けなくされる圧力や、日本軍部の闇がまとわりついていたりして、亡くなってしまったみなさんも、平沢さんも、大きな何かに巻き込まれてしまった時代のうねりのようなものを感じる印象に変わった。
そのあたり、「日本の黒い霧」に書かれていそうなので、いつかそれも読んでみようと思う。
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レビュー
歴史の教科書などで子どもの頃から知っていた事件ではあったが、都心で起きた事件だったのねという程度の認識だった。3年ほど前NHKスペシャルの未解決事件ファイルを視聴したことにより、興味の扉が開き、底なし沼に落ちていった。
さらにその頃実家の墓探しをしており、椎名町の寺に墓見学後、後日帝銀事件はその寺のすぐ裏手で起きた事件だったことを知り益々事件が身近なこととして感じられるようになった。
私にとって松本清張は若い時分にもちろん読んだことはあったが、代表作を数点読むのみで当時はあまりハマらない作家だった。
帝銀事件は松本清張の作品をまず基礎知識として読まないと始まらないというわけで、この作品から読み始めた。
丹念に調べ上げて一応フィクションという設定で作られている。
これを読む限り、警察の捜査は旧日本軍の731部隊関連まで追求していたにもかかわらず、名刺捜索班からあぶりだされた画家を犯人に仕立てあげられてゆく。
その画家は、性格的にも金銭的にも清廉潔白ではなかったことが災いしてしまったという筋書き。
個人的には名刺捜索班からあぶりだされた容疑者の中に歯科医がいてこの人のほうがまだ怪しそうだったが、事件後死亡していたのでそれ以上の探索はできなかったようだ。凶悪事件には生きている犯人の逮捕が必要なのだ。
物的証拠もないのに自白があったり、アリバイがない(実際はあるのだが家にいた、家族と一緒にいたはアリバイにならない)ことで犯人に仕立てられてしまう旧法の恐ろしさも思い知らされた。
当時から何でも犯人はGHQがらみだという結論に不満を訴える読者はいたようだが、GHQ占領後まだ日も浅い時期にこの内容を小説という形でも発表できた松本清張という作家はあらためてすごい。
満足度★★★★
小説帝銀事件 新装版
角川文庫
著:松本 清張1909-1992
ISBN:9784041227695
。出版社:KADOKAWA
。判型:文庫
。ページ数:288ページ
。定価:600円(本体)
。発行年月日:2009年12月
。内容紹介
占領下の昭和23年1月26日、豊島区の帝国銀行で発生した毒殺強盗事件。捜査本部は旧軍関係者を疑うが、画家・平沢貞通に自白だけで死刑判決が下る。昭和史の闇に挑んだ清張史観の出発点となった記念碑的名作。発売日:2009年12月25日
以上出版書誌データベースより引用