紙の本
意匠と本質
2013/02/23 21:36
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投稿者:ソレイケ - この投稿者のレビュー一覧を見る
他の作家でもそうなんだろうけど、特にこの人の場合は、脳のどこかにある「舞城を読むスイッチ」を入れないといけない。非常に独特なのである。このスイッチを入れないで読むと、「支離滅裂な、ムチャクチャな話」になってしまうのだ。およそ理屈と言うものの通用しない(というか、物語独自の理屈しかない)世界なので、それに抵抗せずに素直に受容するというモードにならないと読めないのだ。
主人公は三度登場、背中に鬣のある、めちゃくちゃ(物理の法則を無視できるほど)脚の速い少年「成雄」である。が、この「成雄」という人物は外見上の特徴は共通しているものの、全くの別人同士なので、前作を読んでいる必要はそれほどない。で、この成雄が、14歳ぐらいの少年の姿で馬から生まれるところから話が始まる。ここで、「え?」と言ってはいけない。「なるほど」と受容しないとこの後ついていけない。この少年は、後に大蛇の中に入って移動する「楡」という少女に恋をする。当然、素直に受容。この「恋」を縦糸、自らが何ものであるのかという成雄の問題を横糸に物語は進む。つまり、意匠は相当変わってはいるが、その本質は正統的な「青春小説」なのだ。変なものを読みたい人はどうぞ。
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『歯磨きというものは途中で終わらせることのできない営みなのだ。』
『悪いってそういうものなの。見た目には判んないものなんだよ』
『疑わない奴は考えられない奴だよ。賢くなろうと思ったら、まずはいろいろ疑いな』
『私がここで大変だみたいに勝手に言わないでよ。決めつけないで。私の状況は私が作ってる状況なんだから。』
『次第に涙も引いてくる。良かった。僕はゆっくり全身が溶けて全て涙になっちゃうのかと思ったのだ。』
『これは命令ではありません。トマス・ホッブスは言いました。「命令とは、それをいう者の意志以外の何らかの理由も予想せず、これをせよとかこれをするなとか言う場合である。すなわち、命令する人は彼自身の利益を望んでいるに過ぎない」のだ、と。「忠告を与えるものは、彼がそれを与える相手の利益だけを、望んでいる」』
『はじめまして。牛山罰太郎です。「罪と罰」のバツです』
『名前だの血液型だの生まれたときの星座だの、そういう属性や情報に意味を見出してくってのは自分の殻に閉じこもってくってことでさ、そういうのって人生の複雑さを無視した話だし、まあそもそも遊びなんだからさ、いつか飽きるのよどうせ。んでさ、飽きればいいのよ別に。』
『世界をちゃんと理解しようと思ったら疑わなあかんのやし、疑わな考えられんし、考えれんと信じられんやろ?まずは疑うことから始まるんや。だからほやで、疑うことは義務に近いもんでねえ?ちゃんと生きるためにさ。』
『僕は世界のことはまだよく判らないよ。知らないことばっかりだから、疑うことも難しいんだよ』
『そうじゃないんだったら放っておいてよ』
『…そうじゃなかったから、じゃあ放っておくわ』
『梨木由和や。ブルーフェアリーに頼らない、不屈のゼペットじいさん』
『新しい蛇には名前を付けました。ミッフィーです。ウサギのあれからとりました。』
『…成雄、何してもいいで、とにかく死ぬなよ。危ねえと思ったら、即座に逃げていいでな。恋愛も正義も自分の生き様も大事やけど、死んだら元も子もねえんやでな。逃げろ。死ぬな。これはお願いでなくて命令やでな。兄貴として命令するから、絶対に死ぬなよ』
『そうだ。楡は僕を裏切らない。僕は嬉しい。何もかもがあやふやで謎めいていて不安定で恐ろしげなこの世界で、僕には楡がいて、楡だけは信じていいのだ。』
『なあ楡、戦争がもしこれから起こるとしても、それは楡のせいじゃないよ。皆が楡の操り人形じゃない。皆自分で考えていろんなことを決めてるんだ。楡が責任を感じる必要なんてないよ』
『でも全てこれでいいのだ。僕の経験と感覚の全てに意味がある。』
『ある日、川のほとりで向こう岸に渡りたいのに泳げなくて困ってるサソリがいた。そこにカエルが泳いでやってきた。サソリは背中に乗せて川を渡すように頼む。そんなことしたら自分を尾の毒針で指すだろうとカエルは
拒む。そんなことをするはずがない、とサソリは言う。そんなことしたら自分も一緒に川で溺れてしまうじゃな���か。なるほど、と思いカエルはサソリを背中に乗せて川を渡り始める。川の途中でカエルの背中に激痛が走る。サソリがやはり毒針で刺したのだ。どうして刺したんだ、溺れながらカエルは責める。仕方ないじゃないか、とサソリも溺れながら言う。それが僕の性なんだから。』
『人間も結局自分の性に従って生きてるだけだ。自分に正直に、自分を偽りつつ、複雑で、難解で、でもそれを踏まえれば大まかには単純で、判りやすい性を。』
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突如庭に現れた馬の子宮から少年(主人公)が出てくる、という物語の冒頭にぐっと引き込まれた。以前の記憶が無い彼の成長(学習)過程や自らのアイデンティティに対する葛藤、感情の機微の変化は読んでいて面白かった。ただ、終盤で明かされるそれらの理由と物語の終え方は少し物足りなく感じた
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なんだろう、町田康と村上龍にラノベ要素混ぜ込んだ、みたいな。
すごい目で追うのが必死になるような、勢いがある文章で、非科学も科学も、現実も妄想も柔軟に跳び越えていく感じが読んでいて気持ちいい。
あと、主人公の泣くところとかが、好き。
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久々の舞城ワールド!なんかいつもより画が浮かび安くて読みやすかったような。実写はもちろんムリだけどアニメとかにならないかなぁ。最後の方は、まだまだ先が読みたいし解決してないのに残りページ数がどんどん少なくなって「ええ!ここで終わり!?」というかんじだったけど、つまりは物語の本質はそこにないってことだよね。時折クスッと笑えて、でも考える部分もたくさんあって、かなり楽しめた。そして「SPEED BOY」の方が先だったことを読み終わってから知ったので、急いで読まなくちゃ。
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終盤の急速な種明かしはこれで良かったのだろうかという疑問。
途中までが舞城さんにしては展開遅めの、丁寧な進め方だったこともあって上手く終わっていないように思いました。
面白かった。
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馬から生まれた少年の話。
…とこれだけで相変わらずの世界観なんだろうなぁと予想がつく。こっちの常識とか考えを全て取っ払って頭の中を真っ新な状態にして、いざ読書開始。
この作品は舞城さん独特のあの凄まじいスピード感があまりなくて読みやすい。文章的にもそこまで癖がないように思う。なので初舞城さんにオススメ…と言いたいところだが残念ながら後半はそれが普通どころか半端ないレベルにまで上がってしまっている。言うなれば絶叫マシンに片手だけで掴まっているような、いつ自分が飛んでいってしまうのか分からない恐ろしさ、寧ろ自分が掴まっているのか飛ばされているのかさえ分からない状態で完全に小説に置いてきぼりをくらっているような。そのスピードのまま話もどんどん複雑で難解になっていく。世界観ももっともっと滅茶苦茶になっていく。そして気付くと終わっている。意味が分からない。
舞城さんの作品の面白いところはこれだけ意味が分からない状態でゴールしたにも関わらず、読み終わった後に何故か何もかもを理解した気分になれるところだ。いつかは内容全部をしっかりと把握したいと思うけれど、暫くはこれでいいのかも知れない。
さて次は何を読もうか。
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『太郎君、よう憶えておけよ?『好き』って言葉は、相手から何かが欲しくて言う台詞では絶対ないんやで?』
『お父さん、子どもの名前をつけるのは親の役目、大人の役目ですよ』
『やはり名前っていうのは思いや愛情をこめてつけるものですから』
『背中の毛くらい触らしてやれば良かったやろうが』
『それは先生の意見です。僕は嫌なんです』
『そうかも知れんけど、皆に訊いてみ?そんなことくらい平気やって言うんでないか?皆が同じ意見やったら、それはお前間違えてるってことでねえんかな』
『・・・?僕の『嫌だ』っていう気持ちが、間違えてるってことになるんですか?つまり、本当は違う気持ちのはずなのに、僕は間違えて『嫌だ』って思ってるってことですか?』
『悪いってそういうものなの。見た目には判んないものなんだよ』
『疑わない奴は考えられない奴だよ。賢くなろうと思ったら、まずはいろいろ疑いな』
『俺とお前と、どっちが悪いんだよ!』
『正しさというのは複雑で不安定で曖昧で脆弱なものなので、僕にはまだまだ捉えきれない。』
『名前って、社会とか世界とかに、自分はこういう人間ですって伝えるために一番手前に設置される一番重要なものだって思い込んでいた。』
『名前だの血液型だの生まれたときの星座だの、そういう属性や情報に意味を見出してくってのは自分の殻に閉じこもってくってことでさ、そういうのって人生の複雑さを無視した話だし、まあそもそも遊びだからさ、いつか飽きるのよどうせ。んでさ、飽きればいいのよ別に』
『人生の面白さを知ると、名前なんかに乗っかって適当にやってたのがバカバカしくなるよ』
『・・・何ここ・・・』
『キメラマンション』
『おめえ、ありのままを受け取り過ぎやってことよ』
『結論じゃなくて、そこにいくまでに自分で吟味しろってこと。自分で考えて咀嚼して出した結論が『そう』ならほんでいいけど、おめえ、与えられたまんまじゃん』
『おめえには世界を疑う権利があるんやで?』
『僕に人間の真摯さや真心をどうやって判断できるっていうんだ?僕はそういうこころの問題について何も知らないしどんな答も持っていないのだ。まだ勉強の途中なのだ。頭をぶつけながら身をもって学んでる最中なんだよ!』
『なあ楡、戦争がもしこれから起こるとしても、それは楡のせいじゃないよ。皆が楡の操り人形じゃない。皆自分で考えていろんなこと決めてるんだ。楡が責任を感じる必要なんてないよ』
『でも全てこれでいいのだ』
『僕の経験と感覚の全てに意味がある』
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残りページ数がどんどん減っていってこれどう終わるんや~って思っていたらまさかの…。ちょっと終わり方が残念。設定は好きだっただけに!
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読み終わるまでだいぶ時間がかかった気がする。
読み終わりが見えてきた頃には、物語初期(成雄が記憶喪失だとか、中学校に編入したりとか、鬣触ろうとした同級生の皮膚をえぐったりとか)からはだいぶ成雄も変わっていて。
ボアダムスのワンサクの演説は、読んでいて、「まじよく書いたなー」と、帯の「凄まじい文圧!!」という煽りに納得。
楡が、頼まれたからやらせてあげちゃう、という舞城小説によく出てくるふつーの女の子だったところに私自身がっくりして、成雄の白けた気持ちにとても共感した。
罰太郎はどうなったの?とか、
結局義経と成雄はそもそも生まれが違うの?とか、
ボアダムスって結局なにがしたいの?とか、
最後まで読んでも気になる部分は多々ある。
成雄が、最後まで楡に会いたがっていたところは、嬉しかった。
シンクロニシティ、パウリ効果、ピノキオの物語、、、
気になるキーワードはたくさん出てきたけど、
個人的には、梨木サボロッカ牧場のサボロッカってなに?!と、思いました。
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よかった…終盤までは…よかった…。
いつも通りの不条理ファンタジーとボーイミーツガール、メインはもちろん大きすぎる事件の中で揺れ動いて確かなものになる「君と僕」。だけど事件の方、投げっぱなしすぎませんかね。舞城さんのこの傾向って年々強くなってる気がする。
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(*01)
人がどのように成っているのかのプロセスについての考えが小説の中で模索され展開されている。言葉、名前、動物、植物、家族、こうしたもう既に自明であるような範疇を揺るがせ、そのマージナルな領域に主人公を泳がせている。この作家の特徴でもあるが、福井という地域にどのように新たな物語を根付かせていくかという苦闘の跡も見られる。実在の土地を媒介に、ファンタジーが土着的にふるまい、ミステリーが伝奇的に語られることで、神話(*02)が綴られていくようでもある。荒唐無稽なストーリーは神話の必然でもある。
(*02)
ふざけたような擬音(*03)もこの作家の特徴であるが、神話化に欠かせない要素でもある。こうした擬音により神話世界が生き生きと見えてきて、逆に世界の音がこのような擬音に異化され抽出されると神秘の一端に触れた気にすらなる。
(*03)
擬音と先の地域や神話の問題を合わせて考えた時、宮沢賢治の文学と比較して、この作者の作品群を語ってみてもよいのかもしれない。
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馬から生まれた西暁太郎は人ではないのか。河原成雄の名前になって、恋した少女のために一途に奔走する。
大まかなストーリーとしては予兆を残しての終幕なのでどこかもどかしいけれど、成雄の成長譚としては、暗闇の中を僕自身として考えながら考えるのをやめながら走っていくし、嘘をついた楡をそれでも一頭大事にしていくのだろう。
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成雄3部作のトリで、今までの舞城作品全部載せをやろうとしているようだがうまくまとまっていない。ちょうど真ん中辺りまで面白く、そこから初期作の雰囲気に移行しようとするが急に面白くなくなる。言葉だけがごちゃごちゃ多くて、中身がない。迷走を感じる。