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多数派キン族の支配下、経済成長に沸くベトナム。
だが中部高原には少数民族モンタニャールの存在がある。
ベトナム解放三十周年記念番組のロケ中に、女性タレントが誘拐された。
叛乱の萌芽か。
元戦場カメラマンとともに、奥地へ向かう菱沼大介。
そこで目にしたものとは?弾圧と蜂起、壮烈なる魂の黙示録。
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今週は飲みが続いたので、読むのに時間がかかってしまいましたが、久々の船戸与一の未読作です。
もうほとんど全て読んでしまっており、未読は多分『満州国演義』しかないかな?っていう状態です。でも久々の船戸節を堪能したい!ってコトで、チェック未であった『蝶舞う館』を見つけることが出来てラッキーでした。
これは東南アジア5部作のなかの一つです。
南米3部作のほうが衝撃的で良かったなぁとは思うのですが、東南アジア5部作のほうが円熟しておりますね。相変わらず尖がっておりますが…。
この作品の舞台はベトナムで、中央高原に住む少数民族の武力闘争とベトナムの公安、更に日本のTV局のロケ隊が絡み合って進んでいく物語です。
ベトナム戦争終了30周年記念番組のロケ隊の人々とそのアレンジを行うベトナム在住の日本人。胡散臭いベトナム公安。武力闘争委員会の代表でベトナム名を名乗る日本人。
武力闘争の拠点となるのは、蝶が乱舞する大型の洋館…。
と、道具仕立てはかなり良いかんじです。
ところどころに散りばめらているセリフも、いつものググッとくる船戸節。
安心して楽しむことが出来ました。
でも。
なんで蝶が舞ってるの?
結局なんで誘拐したの?
ネットで配信することで何したかったの?
珍しくその後が書いてあるけど、わざわざ書く意味あったの?
と、不満な点も残ってしまうのでした。
好きだから不満な点も残ってしまうのでした。
『満州国演義』、イッキ読みしたいなぁ…。
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10年か15年ぐらいまえに読んだことがあった。特に印象はなかった。他の船戸与一本と区別がつかない。川下りしてて射殺されてたな・・ってぐらいしか覚えていない。
あれから幾歳月、ベトナムに住むようになり、今丁度この本の舞台の中部高原地帯を徒歩旅行している。なので、なじみの土地を舞台にして繰り広げられる船戸与一ワールドはどんなものだろうと思った。
先日旅行した時、本当に蝶で、そういやあの本はそんなタイトルだったな、と。
読後感だけど、うーん、残念・・・
日本を舞台にした「007は二度死ぬ」を見た時みたいな気分だった。
それは在住者からしたらそんなものなのかもしれない。意地悪というものなのかもしれない。
しかし、この物語はプロットが破綻してないか?
この物語には、「知念マリーの理不尽な誘拐」と「車椅子の岸谷浩司の川下りへの招待」という2つのミステリがある。それはなぜなのか!? というのがこの本の縦軸なのに、途中ですっかり忘れられている。
戦略的にも心情的にも全然合理性がないじゃん。
舞台設定もおかしい。いくら枯れ葉剤が撒かれていたからって、いくら僻地だからってさ、国境近くに200人からの武装組織が20年も割拠して、ばれないわけないじゃん。
熱帯の川の奥に頭のおかしな外国人の独立王国があるって、よく似た話を知っているのだが、この物語ではベトナム政府と公安局(「国家」)はすごく有能なんだから、すぐ見つけるんじゃないかな。
それにさ、船戸与一に今更だけど、「密殺」の手口が雑過ぎ。密殺するのはいいんだけどさ、それじゃまずいだろう。
結局のところ、「国家と反逆」という船戸与一ワールドをむりくり舞台に押し込んだら、接合面であちこち不整合を起こしたので、それをセックスと密殺でヤスリ掛けたってだけなんじゃないか。
そう白けて思ったのも、舞台を私が知っているからである。「フーニョン区のアパートメントでセックスしたあと8月革命通りをタクシーでニューワールドホテルに向かう」とか言われたら、なんかすごそうに見えてしまうのだけど、セックスはともかくとして、「あそこからあそこにタクシーね。はいはい。40分ぐらいかな。」と思い浮かべながら読んでしまうと、凄さが抜け落ちるところはある。
だから、「その殺し方は雑すぎ」とか「その計画は当初の設定と違うだろ」みたいなところに目が行ってしまう。
これは読み方が悪いのであって、小説を小説として楽しめていないのだと思う。時代劇で時代考証をするようなものだ。
それは分かっている。
だけど、結局、ベトナム人もモンタニャールもモブじゃん。舞台の背景の書割じゃん。
破綻したプロットを継ぎ接ぎするために、ただよくわからないグークを演じているだけじゃん。
それって、文中で岸谷浩司が繰り返し反省する「ベトナム戦争の時の報道姿勢」と同じだと思うよ。
書いてみて、自分でもあまりに辛口なので、補足。
二度目なのに600ページを一気読みしたのだから、やはり読み物としては面白いと思います。