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遠藤周作の小説は、読みやすいけど重い。
タイトルからして明るい内容ではないだろうとは思って読み始めたのだけど、こういう流れと結末が待っていることは予想できなかった。
大学生の吉岡努が2回目のデートで身体を奪って棄てた森田ミツは、不美人だけど無垢な、田舎生まれの苦労人の娘だった。面倒になった吉岡はミツとの連絡を断ち、月日は流れた。
大学卒業後、吉岡は勤め先の社長の姪との結婚を決めた。一方ミツは、孤独で貧乏な生活に耐えながら、吉岡からの連絡を一途に待ち続けていた。
そしてミツは、さらに過酷な運命に弄ばれてゆく。
吉岡はエゴイズムの権化で、一方ミツは自己犠牲や愛の化身、という印象。ミツは容姿だけ見るとけして美しくはないものの、心は純真無垢で、つい自分よりも他人を優先してしまい、そしてそれを彼女自身の無意識の徳として生きているような人間。
登場時のミツの印象が文章からすると美しくなく薄汚れたように思えたので、物語が進むにつれ、聖女さながらの彼女の姿が神々しくさえ思えてくる。
確かにミツは吉岡に棄てられ、そしてミツは純粋に吉岡のことを待ち続けたのだけど、最終的にはミツよりも吉岡の方がそのダメージを多く負ったように見える。ミツの神々しさが、そんなことは彼女にとってはダメージでも何でもない、と思わせてしまうのかもしれない。
物語のネタバレになってしまうので後半については言及しないけれど、ミツにとある病気の疑いが掛かったことが、彼女の運命をまた深い場所へと連れていく。
1人の男を愛し、それが相思相愛どころか棄てられたという結果であっても、一途に待ち続けたミツは幸福だったのかもしれない。端から見れば不幸な顛末なのだけど、人の心の中はその本人にしか分からない。
シンプルに吉岡はクズ男だと思うし、そんな男を想い続ける価値など…とは思うものの、吉岡がそういう男だからこそ、ミツの徳の高さが際立つのだろう。
遠藤周作とか三浦綾子とか、キリスト教の自己犠牲的な物語は賛否両論あるだろうけど、あくまでも実体は愚かで美しくはないままだったミツを描ききった前者の方が、リアルなのかもと思った。
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非常に面白い作品でした。遠藤周作作品にしてはかなり読みやすいらしいです。僕は海と毒薬しか読んだことないのでよく分かりませんが…。遠藤周作は純文学作品の著者として高い評価を得ていますが(沈黙、海と毒薬など)、本作品はそれらに比べて通俗的な、所謂、大衆文学的な要素が多く含まれています。
物語は、一人の男と二人の女で構成されています。
貧乏大学生の主人公吉岡は、日頃の鬱憤と溜まりに溜まった性欲を晴らすために、たまたま知り合った田舎娘のミツと関係を持ちます。田舎臭く、容姿も悪かったミツを吉岡はゴミのように棄て連絡を断ちます。大学卒業後、吉岡は就職し職場で知り合った社長の娘と結婚。ミツは吉川への想いを捨て切れず、孤独で貧乏な生活に耐えながら彼からの連絡を待ち続けます。ミツの状況は一向に悪くなるばかり。そんな中、ミツに降り注いだ一つの不幸が、吉岡とミツを思わぬ運命に導きます…。
物語は、「男女の関係」という入り口から「信仰」「愛」という出口へ抜けていきます。作中ではハンセン病などにも触れており、非常に重く辛い内容ではあります。ただ、運命とは、神とは、信仰とは、そして愛とは、などの普遍的なテーマを打ち付けてくれる力強い物語でもあります。真の愛には多くの定義がありますが、僕的にこの物語で描かれている愛こそが真であると思います。もしかしたら僕のその考えも、信仰という土台の上に成り立っているのかもしれません。クリスチャンではありませんが…笑。
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この本は、多くの人に多かれ少なかれ似たようなことを行なっていることを気付かされる。かつてはミツのような純真な心を持っていた乙女もいるのだろうけれど、その多くは生きていくうちに太々しい女性に変わっていくのだから、ミツと結婚していたとしても果たして幸せになっていたとは限らない。
ただ、純真な女性をボロ切れのように棄てるような生き方をしても幸せにはなれない
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ミッちゃんの素直も、吉岡のあざとさも、どちらも心を抉ってきた。
私にとってこの物語は、ずっと独りぽっちだったミッちゃんが、最後に愛に溢れた居場所を見つけることができたハッピーエンドの物語でした。
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ただただ、ミツの愛に生きる姿に対して理解に苦しんだ。これが隣人愛ってものなの?この物語で出てきた、「人生をたった一度でも横切るものは、そこに消すことのできぬ痕跡を残す。」というメッセージはずっしりきた。重い。
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■美しい魂が宿す悲しい運命が切ない。■
疑うことを知らず、馬鹿がつくほど正直でお人好し、母性の塊のような女ミツ。彼女は誰かの不幸せが自分のことのように悲しく、自分を犠牲にしてまで助けてしまう。彼女はその美徳ゆえの悲しい性を背負って生きていくしかないのか。
一方の吉岡は、勉強して大学に入り、背伸びしてちょっと世間を知ったつもりの男子学生。若者にありがちな見栄、傲慢さ、無責任さ、そして抑えがたい性欲を持つ。根っからの悪人というわけではない。
誰しも(もちろん僕にも)思い出すのも恥ずかしくなるようなほろ苦い経験や深い悔恨がある。若気の至りってやつだ。
吉岡はミツの性格を利用し、遊んだ後はボロ雑巾のように捨ててしまう。
その後、それぞれの運命がたどる軌跡が対照的でやるせない。
人と人の人生が交差するとき、残した痕跡は消えることがないという。
確かに、人が僕の中に残していった痕跡は、僕の人生に確実に影響を与えている。
では、僕が人の中に残した痕跡は、その人の人生をどう狂わせたのだろうか。
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困っている人を見ると助けずにはいられないミツと、自分の幸福のためなら他人を利用することを厭わない吉岡の視点が双方向から描かれていて面白かった。
ぼくは完全に吉岡側の人間だけど、ミツのような人に憧れを抱くこともある。ミツは修道女や患者にとって忘れられることがないと思う。
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友達が読んでた本をその直後にたまたま見つけたので買った。少し読んで、そのあとしばらく読んでなかったけど、一度読み始めたら、思ったより面白くて一気に読んでしまった。
遠藤周作って難しい話を書く人だと思ってたから、この本も主人公についてだったり考えがツラツラと続いていく感じかな、と思ってたら、物語も転がるし、色んな人が絡まってくるし、どんどん読み進められた。
どこかで交錯した人の痕跡はどこかに残っている、そうなんだろうなあ。それにしてもミツは切ない。
昔の本を気まぐれに読んでみるのもいいな。
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職場の先輩が読んだというので、手に取ってみた作品。
「人間は他人の人生に痕跡を残さずに交わることはできない」は刺さる言葉。
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少し前にテレビで紹介されていて、興味を持ったので読んだ本。
切なくて辛くて、でもほっこりするような話だった。
いい本だなと思った。
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とても読みやすい。
私は男だが、作品の吉岡と少なくとも同じ経験をした事があるのでは。
遠藤周作はやはり面白い。
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遠藤といえば、『沈黙』というかもしれない。
それに異論はないが、
個人的には『女の一生・キクの場合』と本著が遠藤の隠れた名著ではないかと思っている。
『私が棄てた女』
この本を手にしたのは大学時代だった。
もう所在も連絡先もわからないが、法学科に友人がいた。
彼女の感性は、独特だった。
そんな友人からある時、本をおすすめされる。
それがこの『私が棄てた女』。
最初は、ページを捲れど、鬱蒼とした大学生活に
共感が続く。何をして過ごせばよいのやら、やたらに長い夏休みへのうんざり感を本著に重ねて、非常に低いテンションでありながらも心持ち良く読み進めていた。
そこで登場する圧倒的主人公「森田ミツ」。
湿り気と臭気溢れる展開に、最初の心持ちはすっかり憂いとミツに支配されてゆく。
聖母「ミツ」とサイコ「吉岡」。
聖性というのは、その神聖さをもって人に魔法をかけるかのように心を満たし潤す性質を持っている。
その一方で、自分の状態と一致しなければ、
聖性というのは一気に「鬱陶しく野暮ったい」
ものに成り下がる。
ミツにはその両方が描かれていた。
三つ編みの鈍臭いミツに、「母性に近い優しさ」を感じつつも、そこまで尽くす必要はないじゃないかと「邪険に突き飛ばしたくなる」瞬間が読者側に充てられる。
実際、読者と同じ思いでいた吉岡も
ミツを石ころ同然、無碍に扱う。
ミツのような子は、現実存在するし、多くの読者の過去に心当たりがあるのではないだろうか。
前半では、このように鈍臭く、その聖性を汚い人間たちに利用されまくりのミツだが、
後半はミツ挽回のターンに入る。
見下していた存在が「聖なる存在」に変わる瞬間である。
これは、パウロとイエス(キリスト教)の関係性にも重ねることができる。
吉岡はどことなくパウロっぽくもある。
最近はミツを馬鹿にし、ミツの人生そのものまでめちゃくちゃにしておきながら、あとでその存在いから「救われる」のだから。
吉岡も、『キクの場合』の伊藤もなかなかの畜生で、特に伊藤に関しては救いようがない。
しかし、これはどちらも「人間の本質」を描いているとしか思えない。
この薄汚い連中どもめと、やや上から読んでしまうのは危険で、こうした連中にこそ、「私」が描かれていると自戒する必要があるだろう。
イエスも悟っていたように、人は「裏切る」し、「自分が一番可愛い」。
でも、イエスはそれを責めなかった。そうした人間の全てを愛し、罪を負った。
その全てを一身に背負って、赦したことに「贖罪」の本質があると思っている。
こうしてみると、ミツは聖母でもありイエスでもある。
読了して残り続けたもの。
それは「ミツ」という人間だった。
ミツの最後はある意味「贖罪」でもあるかもしれない。
そう思うと、より一層「ミツを探したい」という衝動に駆られるのである。
吉岡のように。
この本をこれからも手に取って、「ミツ」
の存在を人生に取り込んでゆきたいと思う。
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僕らの人生をたった一度でも横切るものは、そこに消すことのできぬ痕跡を残す。
神はそうした痕跡を通して僕らに話しかける。
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主人公吉岡の生き方を批判はしないし、かといってミツのような女性が素晴らしいのかどうかもわからないけれど、ただただひとりの男を愛し
平等に人間を愛し、孤独と戦いながら死んでいったミツは哀しい女性だなぁ、という印象。
現代では「重い女」と排除されてしまいそうな一途さだけれど、他に拠り所のない人生において何かにすがりたい想いはわからなくもない。
せつない。
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昔読んだのでね
なんだろうね、遠藤周作って表現が秀逸とかそこまでじゃないんだけど読みやすくてリズムがよくて読んだあと不思議な気持ちになるんよね
戻ってくるのはいつもここなんかね