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高額の競走馬が移送中に事故で骨折し、それを隠ぺいするために競走馬の身代金誘拐事件を偽装。倒叙形式で1日ごとにその様子が描かれ、その中に意表を突く出来事を2つ盛り込み、クライマックスである身代金引き渡し当日の土曜日へと突き進んでいく展開は無駄がなく、引き込まれる内容であった。
「第6章 金曜日」が終わった時点で、犯人がどうやって、安全に身代金を詐取するのかを考えてみて、ひとつの方法が思い浮かんだ。ヤマ勘にすぎないが、結果的にほぼそのとおりの方法であった(細かい計算はしていないし、詳しいシステム上のことまではわからなかったが)。映画「スティング」のような、意表を突く、鮮やかな手際だ。
主人公がその事実に気づいた後、さらにいくつかの疑問点が示されるが、そちらの真相の方は伏線があちこちに散らばっていて、わかりにくい。
主人公の朝倉は、事件のからくりを見抜いたり、犯人がこれから取る行為の危険性に気づくなど、鋭いところもあれば、北海道に行った際に尾行のことすっかり忘れていたり、ある人物の正体を勘違いするなど、迂闊なところもある。
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この作家さんは誘拐ものが得意なのだろうか。
99パーセントの誘拐も興味深かったが
意表をつくトリックでひきつけて次々と巻き起こっていく事態に目が離せない。
伏線の回収が少し曖昧だったのか、読後感がすっきりしないのが☆みっつ。
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「焦茶色のパステル」に勝るとも劣らない傑作。別の作品にあるのかもしれないが、オッズの仕組みを利用した身代金の受け取りなどは本当に鮮やかで、何か爽快な気分になった。終わり方が少し気に入らないが、そんなことは些末に思える素晴らしい快作。
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岡嶋二人、2冊目。前に読んだかどうかも忘れているが、多分これは初読み。
3億2千万円の2歳馬(今でいう1歳)が輸送中の事故で骨折し、共有する他の馬主にそれを隠すために、馬の誘拐事件をでっちあげる。
20世紀にセリで3億円以上した高馬というとサンゼウス(3億6050万円)を思い出すが、サンゼウスは1988年生まれなのでこの本が書かれたよりもずっと後。
時代的にイメージに近い馬というと1979年生まれのハギノカムイオーだけども、カムイオーは1億8500万円だもんな。まあ、いいけど。
どんな計画かも知らされていないながら、こちらも主人公になった感じで読み進め、警察の捜査に加えて謎のスカGの女が絡んで、結構キリキリする展開。
馬の誘拐というとシャーガー事件(1983年2月)を思い出すが、馬を誘拐してもレースに出したり種付けしたり出来るわけでもないし、飼っておくだけでも大変だし、あまりメリットはなさそうな。
まあ、本作は狂言だからあまり関係ないけど。
それにしてもこの本が書かれた頃は丁度私が本格的に馬券を買い始めた頃だが、青色のゲートなんて懐かしいね。東京に右回りのレースがあったことは知らなかった。
ユニット馬券やオッズ表示のことなど今から考えると隔世の感だが、それをうまいことトリックに利用していて、、、このトリックを見て、この本を読んだことあるのに気がついた…。
私の記憶には、このトリックと該当のレースが終わった後の寒々しい競馬場の風景しか残っていなかったのだが、一頭の馬に対する多くの人の思惑が二重三重に蠢いて事件を形作っていたことが明らかになる作りこそが、本作の値打ちだったのを改めて思い知った。
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過去の作品シリーズ。第27回江戸川乱歩賞を取れなかった作品。
3億2千万という、破格の値段が付けられたサラブレッド「セシア」。
4人の馬主が共同で保有し、将来を楽しみにされていた。
だがある日、そのセシアが誘拐されてしまう。
「我々はセシアを誘拐した」と犯人は脅迫状を送り付け、2億円もの身代金を要求してきた。。。
岡嶋二人氏の事実上のデビュー作とでも言うべきこの作品。
相当に古い(1981年の作品)であるが為に、当然のようにその時代背景は古いのだが
それ補って余りある面白さである。
いわゆる“メイントリック”は今現在では使用出来ないものだそうだが、
それでもその鮮やかさは競馬を知らない人でも驚くのではないだろうか。
ただし、競馬を本当に全く知らない人が読むのは少々厳しいかもしれない。
なぜなら、セシアという馬に対する価値や馬券に対する換金の仕組みなど、
若干その世界を知らないと「??」と感じる部分もある為である。
しかし、これがデビュー作だとは思えない程にプロットも良く練りこまれているし、
人間の欲深さ辺りもよく書かれていると思う。
馬好き人間としては、ちょっと馬が可哀想になってくるが…。
この作者(井上夢人氏のみでも可)には、もう一度競馬ネタでミステリーを書いてもらいたい。
現在を舞台にすると、一体どんな物語を書いてくれるのだろうか。。。
まあ、叶わぬ夢だとは思うが。
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まさしくノンストップ。次々と変化していく展開には一寸の隙もなく、読者を全く飽きさせない。
前半は倒叙モノ、そして犯人の計画外の事件が起こり、もう1人の犯人が捕まったら自分も捕まってしまうという動機により中盤からは犯人=探偵役の構図へとすり替わる。
徐々に朝倉に感情移入していき、気づいたときには"バレるな"と思っている自分がいる。
倒叙モノはあまり読んでいないのだが、やはりこれが倒叙モノの醍醐味だろう。
だがやはり本書の見どころは身代金の受け渡しのトリックだと思う。
犯人が馬券を買うことを指定してきたときにようやく気づいたが、このトリックにはかなり驚いた。
直接お金を受け取るというわけではなく、間接的に得をする。複合馬券の引き換えという問題は残るが、かなり安全性の高いトリックであることは間違いない。
岡嶋二人の良さが非常によく出た作品。
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はじめは馬の取り替えでホームズの銀星号事件かと思ったが全く違ってました。
二重に重なる流れは一気読みです。
最後に〇〇さんのその後が気になります。
なぜか江戸川乱歩賞を落選した、競馬界を舞台にしたミステリの最高傑作。北海道で3億2千万円のサラブレッド「セシア」が盗まれた。脅迫状が届き、「我々はセシアを誘拐した」で始まる文面は、身代金として2億円を要求してきていた。衆人環視のなかで、思いもかけぬ見事な方法で大金が奪われる。犯人たちの「裏の意図」とは。そして、「裏の裏」の出来事が! 『焦茶色のパステル』の前年に江戸川乱歩賞に応募、刊行はデビューの翌年1983年に刊行となった。(講談社文庫)