紙の本
スタイリッシュなコント、若干ビター。
2005/06/06 02:28
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
すでに入手不能になっている福武文庫から出ていた初期小説集『エピクロスの肋骨』『犬狼都市』に、全集のみに収録されていた「人形塚」「サド公爵の夢」「哲学小説」の三編を加えた新編集の作品集。澁澤の文章の特徴はその幾何学的といっても良いような明快さだと思うのだが、初期作品では明るさはそのままに、青年らしい鬱屈や、ちょっと上滑りするシニックなレトリックにかえって苦々しさを感じさせられもする。なるほどどの作品にも「ドラコニア」印がついているのだけれども、最初から完成している作家はいない、という当たり前の事実もそこに読みとれ、微笑を浮かべずにはいられない。もっとも、そこで幻滅や鬱陶しさを感じさせないのはやはり稀代のスタイリストで、私見ではモラリストたる澁澤の面目躍如だろう。
収録作で、「撲滅の賦」はちょっと軽めの埴谷雄高っぽいエロティックな観念小説。意外とサルトルの影響なんかも窺えるがこれは時代の流行から澁澤も無縁ではなかったということだろう。「エピクロスの肋骨」は軽妙酒脱な幻想的コントで、変身する少女やカラッと明るい空が素晴らしい。「錬金術的コント」は、アルフォンヌ・アレーの本家取りで、この手法を全面的に展開したのが、『犬狼都市』の表題作と「陽物神譚」で、それぞれ「アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの傑作「ダイアモンド」、アントナン・アルトーの『ヘリオガバルス』の本家取り。もう一つの作品「マドンナの真珠」は本ネタが解らないが(ないのかもしれない)、作中登場する可視化された赤道のイメージがあまりにも鮮烈。文庫初収録になる三編は、「人形塚」が「新青年」ふうのミステリ、軽い読み物ふう断片の「哲学小説」、あと「サド公爵の夢」で、これが意外に面白かった。ちょうどタブツキの『夢のなかの夢』を読んでいる途中でもあり、歴史上の人物の見た夢、というスタイルは二重化されたフィクションとして楽しめる。
投稿元:
レビューを見る
なんだか覚えてないのだけど、幽霊船の「マドンナの真珠」や「人形塚」がまだ読みやすかったような気がする。視点は好きだけど何度も居眠った。
投稿元:
レビューを見る
澁澤氏の作品で何が一番好きか?と問われれば私なら「犬狼都市」と答える。
狼の子を宿す(という妄想を抱く)女の話なのだが、その女と狼の関係性が好きで何度も何度も読み返している。
内容自体はありきたりと言えばありきたりなのだが、女の狼に対する献身や想いが澁澤氏がよく描く浮世離れした女性像そのもので気に入っている。
この「犬狼都市」のほかにも澁澤氏らしい短編がいくつも載っているのだが、「人形塚」という作品は毛色が少し違っていて推理小説のような雰囲気がある。
澁澤氏の作品を読むきっかけとしてぴったりな本だと私は思う。
投稿元:
レビューを見る
めちゃくちゃかっこいい。
もっと難しくてとっつきにくいと思ってたけど、意外と読めました。ちゃんと理解できているのかはさておき。
投稿元:
レビューを見る
初期作品を集めたもの。
文章が綺麗だなぁと思いながら読み方進めていったが、気に入ったのは"犬狼都市"位だったのが惜しい気がする。
インパクトが薄かったか…。
不思議な世界観と、尋常の様で尋常ではない登場人物。そのなかで、下品にならないエロティシズムが見事にバランスを保っているのは流石だった。
投稿元:
レビューを見る
やっぱり「犬狼都市」は良い。何年たってもそれほど感想が変わらない。しかし澁澤が小説で目指した世界っていうのは、他にすぐれた書き手が存在してしまっているので、小説としてイマイチを出ないな、と、やっぱり思ってしまうのでした。
投稿元:
レビューを見る
収録された九編が九編ともあまりに幻想的であり、雨の日に静かに読むに適していた
ただし、解説は言いたいことは理解できるものの、本書の最後に持ってくるには少し不足な感じが否めなかった
投稿元:
レビューを見る
サナトリウムから逃げ出したコマスケ。東京行きの汽車の中で出会った、ものすごく眼の大きな痩せた女の子は、夜ごと都会の街角や酒場に立ち、その線香花火のようにきらきら燃える眼で男たちの吸う煙草の先に火を移し、わずかなお金をもらって生活していた。
しかし少女のふかい眼の底には、一点毛のさきで突いたほどの、半透明の真珠母色が油の澱みのようによどんでいた──。
シニカルなメルヘンチック小品『エピクロスの肋骨』ほか、『撲滅の賦』『錬金術的コント』の三作品を収録したものですが、私が読んだのは福武文庫から出ていた初期小説集。装丁が良いのです。
この福武文庫刊の本は既に入手不可能なので、古本屋さんか図書館でどうぞ。
投稿元:
レビューを見る
世田谷文学館『澁澤龍彦ドラコニアの地平』
http://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4582286127
観覧後、既読作を読み返したくなって書棚を漁り、
Tasso再読祭(笑)。
昔、福武文庫から出ていた『犬狼都市(キュノポリス)』
収録3編を含む短編集。
晩年の作に比べると文章の質感は硬めだが、
作者自身が称揚した「幾何学的精神」が感じられて、
これはこれで面白い。
「撲滅の賦」
恋人の心を掴む、小さな鉢の中の金魚に嫉妬する男の惑乱。
サイズの大小にかかわらず、
目玉というのはいかがわしい器官である。
「エピクロスの肋骨」
サナトリウムを脱出した青年と不遇な少女の出会い。
タルホ的ロマンの雰囲気を醸しつつ、
ラストはブラッドベリ風の不気味さ。
「錬金術的コント」
バーテンダーの切ない悲恋。
「犬狼都市」
父も継母も婚約者も冷やかに見下す麗子と、
ファキイル(断食僧)と名付けられたコヨーテの交感。
それにしても4カラットのダイヤの指環なんて、
凄いな婚約者君(笑)。
ところで今回久々に読んで、
どことなく倉橋由美子作品に似た趣を感じたが、
そういえば福武文庫版『犬狼都市』の解説は倉橋さんだった。
「陽物神譚」
ローマ帝国第23代皇帝ヘリオガバルスの物語を、
異なる語り手の叙述――
但し、一人称は全員「おれ」――で綴る。
・皇帝の命令で古い神殿を破壊し、
新たな「玉葱」の神像を作る彫刻師カリクレス。
・女陰を穿って両性具有者となった
皇帝ヘリオガバルスの思索。
・奴隷によるヘリオガバルスの淫蕩かつ悪虐な所業の描写。
・彫刻師カリクレスに刺された哲学者
――キュレネ派ヘゲシアスの弟子と称する――の
今わの際。
・高級将校による祭の狂乱の描写。
血の匂いに酔った彼は
自ら何者かを殺害しようと思い立ったが……。
「マドンナの真珠」
遭難者を引き入れた幽霊船の船長以下、
亡者の乗組員は、
健康な生者に対する嫉妬と娑婆への未練に苦しむ。
憐れで滑稽だが同情が湧く。
「サド侯爵の幻想」
バスティーユに投獄されたサド侯爵の白昼夢とフランス革命。
稲垣足穂「ヴァニラとマニラ」参照。
http://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4309402879
「哲学小説・エロティック革命」
近未来SF日記。
「人形塚」
およそ適性があるとは思い難い、
冷酷な小学校教諭・島谷24歳・独身の奇妙な体験。
傷んだ人形の供養塔=人形塚に放置された「少女」を
立て続けに下宿の部屋に持ち帰った彼だったが……。
訪ねてくる友人の名が「種村」の箇所は
何度読んでもお茶を噴きそうになる(笑)。
投稿元:
レビューを見る
2008年10月22日~24日。
面白い!
既によんでいた「高丘親王」「ねむり姫」「唐草物語」とは少し違う世界だが、やはりはずれなし!
投稿元:
レビューを見る
デビュウ作みたいなので、「皿へ苺とミルクを入れスプーンで果物の方を潰す」描写がある。これが「時代だなぁ」なものらしい。ふん。
『マドンナの真珠』赤道の描写がいい感じ。