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中国、この厄介な隣人
著者は、上海総領事館の職員が中国のハニートラップに引っかかって自殺した時の総領事。また、自らが末期がんであることを知り、本書の執筆を決意したという。
外交官として文字通り中国と格闘してきた筆者の中国分析には、他の学者やジャーナリストの中国本にはない迫力、生々しさがある。それにしても、こんなに仕事をする外交官が外務省、それもいわゆるチャイナスクールにいるとは、率直に言って驚きだった。
中でも印象に残ったのは、ODAについてのくだり。大都市の巨大プロジェクトの場合では日本の貢献を必死にアピールしなければならなかったのに、地方の小さな要望をくみ上げて援助するようにしたら頼まなくても感謝してもらえるようになったとのこと。金は巧く遣いたいものだ。
全編に、中国の脆弱さが書かれている。環境問題、水不足、社会保障制度の未整備、官僚の汚職による経済の非効率、大都市の高層ビルの非耐久性などなど。そして何より、筆者が「義憤を覚える」というほどの農民搾取の実態。どう考えても、共産党はこれらの難問を解決できそうにない。面積も人口も中国は巨大すぎるし、地方政府や末端の官僚が中央のトップの意向通りに動かないからだ。
それにしても、我々は厄介な隣人を持ったものだ。だが引っ越すわけにはいかない。せめて我々は、中国がハードランディング、あるいはクラッシュしないように建設的な関与をしていくしかないのだろう。それが筆者である杉本氏の遺志でもあると思う。
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外交官が見た中国。
『大地の咆哮』というタイトルからなんとなくコアなドキュメントを想像したけど中国理解のための誰にとっても優しい指南書のような本。
対中ODA、反日運動、靖国問題、尖閣諸島問題等の今日も度々日中間で問題となる事柄の解説から、経済構造や格差社会、水不足問題といった国内の問題など十六の章に分けて広い分野をカバーしていている。余命僅かの中で執筆されたようで、著者はピンポイントで濃いものを書くよりも広く多くの人に伝えることを重点に置いた様子。
著者が参加する、中央の要請を通さない「草の根無償資金協力」によって学校建設のような教育支援や浄化装置設置などの自然保護という人道的に看過できない分野への活動には熱がある。
本来中国自身がすべき援助を日本のODAによってきめ細かくケアすることが国内の問題提起に繋がる。日本側から軍事費優先を糾すためには、そもそも外部より内部矛盾が脅威となる中国に対して、日本の活動によって国内援助を誘う姿勢をとるほうが、軍事費を増やすなら円借款を止めるぞと直に迫るよりも説得力がある・・・というように著者はODAが中国の質的変換を促す役割を強調する。そこに根ざしているのは長年自ら各地に足を運んで無残な状況を目にしてきた著者の正義感であることが読み取れ、弱者への視線、腐敗への警笛は本書全体を通しての特徴といえる。
とても役立った。気になったときに各章ぺらぺらっと読み返しやすいので手元にあると便利。
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いわゆるチャイナスクールの方ですが、読み進めていくと一般のイメージである売国的な方々とは全く違う人物であることが分かります。
おそらく凄くいい人だろうな~と思っていたら、上海に在住していた叔父さんが飯仲間だったのでビックリ。(やはりいい人だったそうです)
内容は国家間の事よりも、中国の現実や体験してきた出来事を終始淡々と書かれています。
でもこういう本に良書が多いんですよね、稚筆な感想ですいません。
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@yonda4
巨大な隣人、中国。隣の国なのに日本人の多くは中国をよく知らない。レッドクリフは観るけど、今の中国ってよく知らない。最近日本にも中国人観光客が増えたな~。位の認識だと思う。
内閣府世論調査によると、2008年の日本人の対中国好感度割合は約30%。1980年の78%に比べると、多くの日本国民が中国を快く思っていない。小泉首相の靖国神社参拝問題、04年サッカーアジア杯、毒入り餃子事件、など、中国関連の事件を見るとこの数字もそりゃそうだよな、と言いたくもなる。
ところが、嫌だな~と思っても国と国として付き合っていかなければならないことは事実。特に経済面にて中国依存は大きい。
本書は現在の中国を知る上で、日本人としての立ち位置をしっかり示してくれると思う。
現状の中国は、解決しなければ問題がたくさんある。
農村部と都市部の貧困格差。深刻な水不足。日本以上に急速に進む高齢化社会。経済倫理の欠如、金を借りるバカ、返すバカ。中国政府が行う反日教育。などなど、本書を読んでいると中国がどういう実情かがわかってくる。
この内容をふまえて、今後日本がどう付き合っていくか。国同士の問題であるが、国民一人一人が考えていないといけないことでもある。
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本書はいわゆるチャイナスクールに属し、長年、外交官として関わってきた著者が「現代中国をどう認識し、どう対応するのか、対中外交はどうあるべきか」まとめた本である。
内容は圧巻の一言に尽きる。ODAの問題、水不足、搾取される農民、役人の腐敗、反日、靖国問題など多岐にわたっている。
一言でいうと、とても面白い講義を聞いたような気分にさせてくれる。
大きな隣人が何を考えているのか理解を深める一助となる事、間違いない。
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病気により死期を予感しながら書かれた、元上海総領事の渾身の一冊。等身大の中国、中国と日本の抱える問題を語る。愛国者、かつ、冷静な視点。最近の日本で失われつつある、中国の立場をも斟酌した日本に求められる国際的態度を、論理的に説く。特にODAを巡る価値観の衝突は、我々が基本認識として保持すべき視点。靖国参拝に対してもそう。妥協するのではなく、言いなりになるのでもなく、偏らず、歩み寄る。新たな知恵。花を持たせて、実を取る。そういう解決策が必要だ。
バチカンと中国の国交の必要性は、今、私の興味である、歴史の監視役という視座からしても、面白い考え方だ。ただ、カトリックの拡大可能性や、実際的かというと疑問は残る。そもそも、貧困層が宗教にすがるという著者のロジックに従うなら、監視網としてのカトリックネットワークが機能すべき富裕層は、その枠組みに入らない。国際警察やインテリジェンス機関のように、積極的姿勢を示すなら、別だが。
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【きっかけ】
元「日本マイクロソフト」の成毛眞氏のブログ
4/27「ゴールデンウィークに読むべき本」を見て、アマゾン・クリック
http://d.hatena.ne.jp/founder/20090427/1240792374
2006年発売の本で在庫がなく、中古を注文。(中古だと安い分、送料がかかる)
上海での仕事のこともあり、コミックの「島耕作」の中国進出編で感覚をつかんだ。
で、今回は歴史も含めて、外交官の眼からの様子がわかる。
「靖国」の説明・見解も良くわかる
【ポイント】
7/中国共産党が支配する「中華人民共和国中国」の現体制と「中国人一般」を同一視しないことが肝要。
10/中国が攻撃的とも言える対外政策を進めるのは、国内の不安定さゆえという面がある。
10/日本では信じられないほどの信頼を寄せてくる中国人がいることもまた事実。
・・ともあれ、これほどまでの信頼は日本人にとっては息苦しいと思われるのだが、これもまた中国人の一面である
222/中国人の深層心理、DNAの中に、中国は外国から常に疎まれ、苛められ、辱めを受けたという「義和団コンプレックス」がある
223/反日教育とは、愛国教育であり、さらに言えば、「その愛する国を統治している共産党を愛しなさい」という愛党教育である
人口13億うちわずか5-6%しかいない共産党員が「この国を統治していること」の「正当性」「正統性」を
常に中国人民に認識させなければならないからにほかならない。
224/中国共産党は、「国を豊かにし人民を満足させる」という統治の正当性の面で人民を満足させられないという根本的な構造を抱えている。
226/上海に戸籍を持たない『外地人』の置かれた状況
259/中国では農民とは農業に従事する職業的なカテゴリではなく、「身分」を表している。
279/底なしの不良債権問題:企業経営者側が資本主義経済の中での企業経営が理解できていない。
企業の裏側にいて実権を握る共産党幹部の思惑がある。
289/「情けは人のためならず」仲良くできなくても最低限喧嘩しないで尊重しあう関係を維持しておく
289/農民のおかれた状況は、現在の中国の経済的実力からして正義と道徳の基準を逸脱している。
中国の歴史的風土的に組み込まれている末端の行政機構の腐敗・汚職は目を覆うばかりである。
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上海総領事が描く中国との交渉体験。
2004年春、上海の総領事館でハニートラップにかかった電信員が自殺した。
本省はこの件を抹殺しようとしている。
さらに、自分も末期癌のようだ。
これは自分の生命を賭け中国の光と影を書き上げた遺書である。