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戦後の日本財政の歴史を考察し、現行の財政がいかにして破綻したかがよくわかる1冊。再建するための指針についても示されていますが、同時に実現のためには大きな障壁が多数あることもわかります。それをどう越えるか?なんですよね。
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読み進むにつれ、おやっ・・・と思う。
日本の財政というからには、経済の話一辺倒だと思っていると、著者の言うように、これは「人間の学」
日本国が取った戦後経済策は公共事業とともに減税だという。
減税をセットにされたものだったから、増税には常に抵抗を感じるのが現代の日本人。
なぜ租税抵抗が強いのか・・・・。
ユニバーサリズムなど意外な展開がなかなかおもしろい。
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確かに財政学の本ではあるが、財政学にありがちな技術的な話から出発していない。人間社会にとって財政はなぜ必要で何を目指すべきか、何に価値を置くべきかの議論を踏まえている。この点に非常に共感できた。標準的な財政学の教科書からすると、一段上がったメタレベルの議論を踏まえている印象を受けた。
そもそも、日本は先進国の中で「小さな政府」であるのにもかかわらず空前の財政赤字に陥っている。公共事業、企業による福利厚生の肩代わり、そして女性のシャドウ・ワークによる福祉代替が小さな政府を支えてきた。しかし土建国家として経済成長を与件としながら、公共投資と減税により利益配分をはかるシステムは限界を迎えている。企業も労働分配率を低下させてきた。
財政再建策には細かい技術的な政策一つ一つよりも、それらをパッケージングして負担と受益を包括的に議論することが必要であると筆者は主張する。
いかに削っていくのかの政治、財政破綻の喧伝に恫喝される政治ではない。人間の尊厳に対する配慮、社会的な信頼をいかに醸成するか、こうした社会の必要から出発して税収を構成しなおす財政、政治こそが目指されるべきと主張している。
この筆者はBSなどでもたまに見かけるが、精力的でわかりやすい語り口に好感が持てる。メッセージは「人間の学」だとする「あとがき」にもその人となりがにじみ出ている。財政の言葉に馴染みのない読者には理解に少し時間がかかる部分もあるかもしれないが、これだけの内容を新書によくぞまとめたものだと感服する。
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ソーシャルキャピタルとは人々の関係の中に存在していて、個人にある特定の行為を促すもの、その結果、それなしでは達成できないような目的を達成可能にするものとされている。
土建国家とは経済成長を前提とするシステムであったが、経済成長が前提とならなくなり、政府が成長のエンジンとなった時から、土建国家の苦難の歴史が始まった。
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自分は財政学の門外漢であり、基本的なこともわからず、著者が財政学上では主流派の考えなのかわからない。しかし、戦後の歴史の中の社会や生活の分析、政治の分析、小さな政府vs大きな政府の対立などの社会の進むべき方向の示し方など共感することが多く、非常に好感が持てた。
他書のような数学的な手法を使った説明や、著者の一方的な主張だけを繰り返すのではなく、新書の枠の中で、目指す方向性、歴史的な経緯、今後の提言等がうまくまとめられていると思う。財政に興味のある人にとって、1冊目として良いと思う。
内容は全6章。
1章は、財政の基本的な方向性の説明として、受益と痛税感の違い、配分的正義と調整的正義の違い、財政の再分配の意義、ターゲッティズムとユニバーサリズムなど、2つの異なる概念から、財政の基本的な哲学についてまとめている。
2章は、日本の財政を「土建国家の成立と凋落」として、社会保障を掲げた革新政党の対抗として、保守政党は公共事業として農村に仕事を与え、減税をする発想が、結果的に貯蓄等を通して高度経済成長を支えるという好循環になっていたことを示している。そして、その好循環がとぎれたときに、良い政策を出せなかったことをまとめている。
3章は、男性が賃金保障されて外で働き、女性が家庭を支える高度経済時の「家」のモデルが崩壊した時に都市と農村の対立などが起きたことを説明している。税収増が見込めない時代に、企業・家の変化に土建国家のシステムが追いついていないことに問題があったとしている。
4章では、新しいモデルを構築するための準備段階として、アメリやスェーデンのような財政再建に成功した国や苦しんだドイツやフランスを例にしながら、就労させるワークファーストモデルと就労可能性を高めるサービス・インテンシブルモデル等のワークフェアモデルを紹介している。その上で、日本型の総枠締め付けモデル(シーリング)は日本の気質にはあっているが、個々の支出を精査し、受益者負担を政策でワンパッケージ化することが重要であるとしている。
5章では新しいグラウンドデザインとして、世代間、都市と地方などの対立の中での社会保障、地域のための公共事業、住民参加の意思決定などが必要であるとしている。
最終章の6章では、税の公平性として、配分的正義と矯正的正義に当たる、水平的公平性と垂直的公平性の概念を解説し、法人税、富裕層への課税、最後に社会保障についても含めて、財政における正義論を展開している。
財政用語の漢語の専門用語(テクニカル・ターム)が多いが、わかると財政の全体像がわかってよい本だと思う。
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日本の財政構造をわかりやすく時系列に述べられています。個人的にはとても「すっきり」しました。
そもそも、国が投資するのが何で公共事業ばっかりなの~?産業構造がこれだけ変わってるのに~。と、いつも思っているのですが、そのあたりも含め、現在の産業構成と、財政の使いかたがどうしてこうなっているのか?という話がとても丁寧に解説されています。
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一刻も早い財政再建が望まれる日本。なぜ財政再建ができないのか。本書は、政府債務が対GDP比で200%を超えている日本の財政構造を明らかにする。
我が国民は痛税感が強い。なぜか。税が債務の返済や低所得者ばかりに費やされているからである。そのため、多くの中間層は、受益なき負担を強いられている。ここに日本が増税をできない理由がある。
日本は「公共投資偏重型財政システム」であり、ここに減税による中間層への所得配分が加わった、いわゆる土建国家であった。公共投資が雇用を生み出し、一定の生活保障の役割を果たしたほか、中間層への減税によって受益感を与えていた。しかし、この土建国家のフレームワークが今や破たんしていると著者は説く。少子高齢化や不景気に伴い、財政ニーズが公共投資から社会保障へシフトされたからである。
とは言え、著者は北欧型の高負担・高福祉を目指すスタンスではない。救済すべき人の割合を減少させ、中間層への受益感を増大させることが大事であると説く。そのための手法として、高所得者や企業の課税強化を挙げている。法人税の税率アップなどは企業の海外移転に結び付きそうだが、企業の海外移転の主な理由は人件費や販路拡大にあり、税はあまり影響しないと分析している。
著者は、生活保護制度に代表される「ターゲッティズム」の領域を最小限にし、広くサービスを行き渡らせる「ユニバーサリズム」の重要性を説いている。しかし、そのためには財政構造の転換や政府の強いリーダシップなど、多くの難題が残されており、相当の歳月を要することは間違いないだろう。喫緊の財政赤字を解消する手法ではない。我が国の目指すべき1つの方向性程度に受け止めておいた方が良いかも知れない。
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タイトルが財政なので、経済の話が中心かと思って敬遠しそうになったが、どうして財政赤字なのか、何にお金を使っていくべきかが社会構造の変化と一緒に書いてあってわかりやすい。
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著者の井手先生をそれと知ったのは本年6月26日から日経新聞で連載された「やさしい経済学」財政を考えるシリーズの第1章「負担と受益」①~⑩を担当されたのを偶々読んだからです。
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バブル崩壊後の長引く不況のなかで日本は,他者を信頼できない社会になり,政治も信頼できない状況になっている。高度経済成長期以降,減税と公共投資で国民の生活を保障してきた土建国家モデルは限界に達している。現在の日本は,「連帯のパラドックス」に陥っており,中間層の受益なしには低所得層への政策をおこなうことが難しくなっている。
そのなかで,財政再建を声高に叫び歳出削減という国民に受益がなく痛みが伴う対策をするのではなく,中間層および低所得層が受益を受けられるようなユニバーサリズムに基づく政策への転換が必要だと,筆者は主張する。
筆者の言うように,財政再建が必要だと主張するだけでは,なかなか多数の納得は得られないだろうと思う。目指すべき社会の姿が明示されて,そのために財政において何ができるかを考える必要がある。
アメリカやスウェーデンの事例であったように,高所得層への増税と低所得層への給付削減・減税をパッケージでおこなうというのは参考になると思う。
あと,ユニバーサリズムの観点からみると,社会保険による国民皆保険・皆年金体制は限界があるということになるのか。ユニバーサリズムの観点から言えば租税を財源とした制度が良いのであるが,変えていくのは相当困難なように思える。国民皆保険・皆年金体制はある程度機能してきたのだから,より多くの人びとがその枠組みに入れるようにしていく方が良いのではないかと思った。
日本の財政および社会保障制度について色々と考えたいと思わせるような一冊であった。
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大佛次郎論壇賞で名前を知り、NHKスペシャルのマネーワールドの格差の回で顔を知り、いよいよ「経済の時代の終焉」を開く前に井手英策という財政学者を軽く知ろうと思って開いた新書です。でも全然軽くなくて財政という学問の重さに衝撃を受けました。ついついお金の問題としてしか受け止めて来なかった負担と受益の関係ですが著者は一貫して人間の尊厳の問題として捉えています。もはや機能不全となった土建国家、日本の税金の再配分の問題を垂直的公平性と水平的公平性、矯正的正義と配分的正義、国と地方自治体、ターゲッティズムとユニバーサリズム、二項対立でわかりやすく説明しながら、どちらにも与せず論点を提示していく語り口に強さと優しさを感じたのですが、それは財政学を「人間の学」と考える著者ならではのものでした。彼のアンセムである「あとがき」が実は本書のクライマックス?ルソーの『社会契約論』の中で説いた「人間とは新しい力を生み出すことのできない存在であり、だからこそ、すでにある力を結びつけ、方向づけることで、生存を妨げる障害に打ち勝つ力の総和を作り出すことが必要」という最終行に心動きました。
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財政健全化のためだけの議論ではなく、どのような国にしたいかという視点。
信頼に基づく尊厳と平等化のユニバーサリズム、垂直的・水平的公平性と国・地方税の税制改革、土建国家による社会保障を理解した上での新たな公共投資への移行等、骨太な議論が必要。
◯語られるのは望ましい社会の姿ではない。何をやってはいけないかということである。私たちの目指す社会は、見栄えの良い財政のある社会だとでもいうのだろうか
◯支出が横ばいの中の財政赤字の拡大
→原因を理解
◯痛税感は受益と負担のバランスで決まる
◯いわゆる社会的信頼度の比較であるが、先進国においてこの数値がもっとも低い国が日本
◯「政府への不服従」と「社会的連帯の欠如」、この二つの事実を結びつけると、日本の財政赤字の原因、そしてその背後にある深刻な問題が浮かび上がってくる
◯他者を信頼できない社会ではそもそも再分配の実現可能性が低い
◯連帯のパラドックス:低所得層の救済のためにこそ、より豊かな人びとをいっそう豊かにしなければならないという逆説
他、kindle
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〈感想〉
○著者のあるべき論が先行しており、裏付けの数字への担保が薄い。
・税収の拡大を許す根拠が虚弱であり、弱い。著者の展開する思想とあるべき論とセットで、具体的な財政プランと数字を提示出来ていれば、指針として説得感が増した。
・税収の減少や過去の日本財政の分析については興味深い。但し、分析が著者の構築したフレームワークに寄りすぎている感も否めない。
〈要点〉
○財政の理念とは:ユニバーサリズム
→・所得年齢や性別関係なしに、人間のニーズを果たしていく=○社会や政府からどのように扱われたか、という論点
○今までの日本財政は:「増税出来ない政府」
→◎減税が重要な利益分配
→・1990年以降の法人税、所得税の減税により、バブル崩壊後、一般会計に占める税収の割合が減少。
└1989年の消費税導入は所得税及び法人税の減税がセットであり、97年度消費税増税も所得税減税がセット。
→・減税分により福祉や教育などのサービスを購入。
→◎土健国家:財政投融資を中心とした公共事業への投資を通じて、雇用を創出
→・自民党保守政治を中心に、救済ではなく、働く機会を与えるという発想が多かった
→◎支出上限による締付け=支出構造の改革諦め:個別の資源配分を犠牲。有るべき論の欠如
→・大蔵省の戦略:禍根の残る個別予算での論争を避け、総枠で管理するため
←・予算性質で分けるアメリカとの違い:
○今後どういった施策が実施すべきなのか:
→◎国と地方の役割の定義と、それに沿った財源の割り振り
〈その他〉
・アメリカの予算制度改革
→・義務的経費と裁量的経費に対するルール適用
→1、義務的経費増大させる場合は、経費の節減や増税による財源捻出を義務。守られない場合、当該年度の開始年度に義務的経費の一律削減
└新たな立法措置が起因の場合のみで、高齢化・インフレによる自然増加は対象外
→2、裁量的経費は、予算に関連する委員会ごとで支出の上限を設定。
・鳥取県智頭町の事例
・累進課税:基準が恣意的になりがち=納得感が得られにくい