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「美しい村」から始まり「風立ちぬ」まで、さわりを読んだだけでは一見そうとは思えないが一繋がりの話。
全体的に風景や人物描写のあとに語り手の感想等の記述があるとあう丁寧親切設計なので、私のように情緒の理解に乏しい人間でも話に迷子にならずに読むことができるのはよかった。
実体験をもとにした話は珍しくないが、そこに妄想という妄想を加えて究極的にピュアにした理想の最後を描いた、という印象を受けた。これが二人のやり取りだけで、もし広大で美しい自然の描写が無かったら胸焼けを起こして途中で読むのを放棄していただろう。
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映画を見たので読んでみた。全編通して、この本の作者の自然にたいする感受性が素晴らしい。この本が書かれた当時の日本の風景に思い馳せると、美しい情景がありありと浮かんでくる。さて、メインの『風立ちぬ』は映画と同じく死を取り扱っている。こちらの方がより、主人公とヒロインが限られた生の中で死を感じ幸福を見いだそうとしている日常が詳細に描かれている。静かに生を、愛を享受する姿は地味ではあるが、そこにしみじみとした味わいを感じる。
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どの場所で、いつの季節に、生きている自分を意識するのか?見つめる先にいつか死が訪れるのは必然。すぐそこに、隣り合わせに死があればこそ、生きることを心から求められる…大切なひとの影は森羅万象の中に宿る。強い風が止み、優しい風がほほをそっとなぜていけば、あの頃の無垢の心情が、意識の表層に浮かんでくる。
風立ちぬ、いざ生きめやも。
言葉が無力になる場所に歩んでいく。
どこまでもさ迷いながら進んでいく。
生きているならば、いつまでも。
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堀辰雄の代表作"風立ちぬ"は、スタジオジブリの映画"風立ちぬ"の原案の一部になっています。堀辰雄の作品といえば、軽井沢など信州の高原にあるサナトリウムが舞台というイメージを持っているのですが、まさにそれです。本作で描かれる自然はどこまでも瑞々しくとても明るく美しいのですが、登場する人物には死の影が、まるで対比されるように描かれています。生きることの意味、そして死ぬことの意味、幸福の形など、読む人によって受け取るものは違うかもしれないですが何かしら残ると思います。本作は作者の体験を基に描かれているます。
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すべてがそれぞれ,主人公の独白からなる短編集.
周囲の風景の描かれ方はとても緻密で
いかにも抒景的なのだけれど
何かを隠しているようで,何かをさらしているようで,
何か諭し教えてくれているようでもある.
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薄いベールに包まれたようなお話。
いろいろな意味で梶井基次郎と対照的に感じられた。
愛する人と二人でいるのに幸せかどうかなんて気にしている。
一人で山に居てもどこかに人気を感じている。
他人をとおして物事を感じる人なのかなあ、と思った。
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文体になれるのに時間がかかった。この時期に読んでると、「お前絶対映画の影響だろ!そして今まで読んでなかったのかよ!」というツッコミを免れることはできず、なかなかに恥ずかしかったけど、いいの!!
旅の絵がわかりやすくてよかった。
風立ちぬの節子の死はしっとりと静かだった。死のシーンはないのね。結核は、節子のとの思い出は、最後まで美しいのね。
2013/08/31読了。夏休み、ギリギリ!
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「私たちはそういう日は、いつもと少しも変わらない日課の魅力を、
もっと細心に、もっと緩慢に、あたかも禁断の果実の味を
こっそり偸みでもするように味わおうと試みたので、
私たちのいくぶん死の味のする生の幸福は
その時はいっそう完全に保たれたほどだった。」
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ジブリ映画『風立ちぬ』公開記念読書第二弾。表題作の「風立ちぬ」を始め、「美しい村」など五編が収録されている。
「美しい村」(1933)
初夏の軽井沢に滞在した主人公の体験が綴られる。四部構成で、それぞれ順番に発表されている。作者の実体験を元にして順次書かれているので、作者の予想しなかった方向に話が進んでいった。前半では、まだ人気の少ない軽井沢の自然が丁寧に描写されている。日本の高原地帯の自然描写の美しさでは右に出る者がいない堀辰雄の才能が存分に発揮されているが、全体的に憂鬱な空気に包まれている。後半では、絵描きの少女と偶然知り合いになり、俄かに雰囲気が明るくなり始める。この少女こそ、後の「風立ちぬ」の節子のモデルになった人物。つまり、この作品は「風立ちぬ」の前日譚と言える。かの作品誕生の裏に、このような流れがあったとは何とも不思議だ。
「麦藁帽子」(1932)
作者の若かりし頃の初恋の思い出がモデルになったと思われる話。十五歳の夏休み、海辺に逗留している友人家に遊びに行った主人公が、幼馴染の少女を意識し始める。物語の最後の関東大震災で被災したシーンが印象的であるが、本書収録の他の作品では震災について触れられていないところからすると、映画の『風立ちぬ』でフィーチャーされる関東大震災のシーンは本作がモデルの可能性がある。この話、中学の頃に文章題の問題で読んだことがあることを、読んでいる途中に唐突に思い出した。
「旅の絵」(1933)
神戸を訪れ、古ぼけた外国風のホテルに滞在した主人公の短い旅行記。港町である故に、昭和の時代から多くの外国人が居住していた神戸は、異国を旅しているかのような錯覚を主人公に起こさせる。この不思議な雰囲気を主人公と共に味わいたい。どうでもいい感想だが、同じ港町である神戸と横浜は地名も結構被っていると思った。山手、元町、外国人墓地などなど。
「鳥料理」(1934)
主人公が自分の見ていた夢を思い出し、詩のように写生する。上述した「旅の絵」の内容も少し関わってくる。本書の作品の中でも一風変わった、エドガー・アラン・ポーのような幻想的な描写が特徴的。少女を葡萄酒にするって、どんな深層心理が作用してるんだろう。
「風立ちぬ」(1936)
(レビュー途中)
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療養中の恋人とサナトリウムで過ごす日々を描く。几帳面に、真剣に描いている。息が詰まるが、好きな人は好きなのだろう。小さな結晶の様な生活。
小説を描き、小説の世界に生きる私小説家は、生きているのに虚構に存在する。
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繊細で柔らかい小説。叙情的。舞台の景色が水彩画を鑑賞しているように浮かぶ、表現。
愛する人の死に向かう日々。。なのに、単に暗い悲しい物語になってはいない。
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『美しい村』、読了。『風立ちぬ』同様、優しげな耽美的気風が全編をつらぬいている。登場人物における心理描写の、繊細さと巧みさは、十九世紀欧州文学、とりわけフランス文学を思わせる。
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軽井沢とサナトリウム…そして死。現代のイメージとは全く違うけれど、別荘街を歩いていて感じたことがあるのを思い出した。
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『麦藁帽子』が美しくてとてもよかった。あれだけなら☆4.5としたいところだけれど、他の作品は純文学に慣れた私でも退屈だった。
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「美しい村」
前半は田舎の情景描写が主だが後半は専ら絵を描く少女との交流を通したものが主になる。全体的に散在してる印象。実際に起きたことをぽつぽつと書いているような。
「麦藁帽子」
夏を背景に少女に対する想いの移り変わりを描いた作品。彼女への想いにまた気づかされるシーンは印象的。二人はもう交わることはないのだろうか。昔を回顧するものが多い?
「旅の絵」
堀辰雄の神戸旅行の様子を描いている。形容しがたい鬱々とした心の沈みを感じる。その分ハイネの詩が深く感ぜられる。
「風立ちぬ」
常に漂う死の気配と、しかしその中で感じられる生の喜び。死を感じながらも、2人が共有する愛、幸福があまりにも儚くて愛しくて号泣してしまった。心理描写と共に描かれる情景描写も秀逸。素晴らしい生の物語だ。