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物凄く生々しく、グロテスクに感じる小説でした。いや、別にそういう内容でもそういう表現が出てくる訳でもないです。
ただ、人間の純真と諦念、男女の必然と打算、生きる希望と惰性、そういったものがまるで匂ってくるかのような。
勿論、舞台についてさしたる知識もないからこそフィクションを素直に楽しめただけってのも大きいんでしょうけど。
登場人物に嫌な奴がいなかったんですよ。かといって善人って事でもない。「ああ、人間らしいな」と感じたのは大きいです。
男と女の関係についてもそう。惹かれあうのは偶然なのかもしれませんけど、どこかで結末は分かってたりするもんですよね。
無理をしたり駆け引きをするんじゃなくさも当然のように関係が築かれていく。それが流れだからそうするような感覚。
それが恋だの愛だのは後から付け足す、単なる言い訳や自己満足のようなもんじゃないのかな、と。
春恋だって本当に中里を想う心情になったのはもしかしたら最後の方なのかもしれないですよね。
しかもそこには相手に対する情念よりも自分にとって必要か否かが大きく絡んでいるものだと思いますし。
老猿の足掻く姿が格好良かったです。扉から戻ってきたかったんでしょうか。
過去を話す際、すごく辛そうな描写が入るんですよね。いや、そりゃ辛い過去であるのは間違いないんですけど。
自らを他人から遠ざけるのも必要以上に皮肉めいた言動を取るのも、自分を守りたいが故だと思うんです。
それはマフィアもそうですが、何よりも自分の中のドロドロが再稼働する事への恐怖とでも言いましょうか。
恐れるから、抜け出したいから、老猿は老猿であり続けたのだろうな、と感じました。
本文に出てくるように、御伽話のような世界でした。スポットがお姫様や少年ではなく、壮年を迎えた男性ですが。