紙の本
圧巻の大作、全身に震えが走りました…
2011/08/29 15:58
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ジーナフウガ - この投稿者のレビュー一覧を見る
頁を繰る、とそこには『赤朽葉万葉(まんよう)が空を飛ぶ男を見たのは、十歳になったある夏のことだった』
冒頭の一文が、ピタリ決まっている。そういった作品に駄作なし!と信じている僕にとっては、
これはただ事ならぬ傑作であるに違いないぞとの予感が全身を駆け巡りました。
女三代の孫娘である赤朽葉瞳子(とうこ)の語りによって、山陰地方の小さな山村、紅緑(べにみどり)村にて、
戦後日本を必死に生き、死んで行った祖母万葉、母毛毬(けまり)の人生と
伝説が鮮やかに描き出されて行きます。【第一部・最後の神話の時代・一九五三年~一九七五年】
万葉が山陰地方の、更に辺境に住み暮らすと伝えられている【山の人】達から
紅緑村に置き去りにされた事から伝説は始まります。村の若夫婦によって拾われ育てられた
十歳前後からの生活。それはタイトルにも在る様に、戦後の日本が、それまではまだ辛うじて残って居た、
前近代的な風習や土着思想を凪ぎ払い、急激に画一化する中で、日本人としては、
何か大切な物を無意識的に捨て去った、大変な時代だったんだなぁ、と追体験する様な不思議な感覚に
震えたです。万葉の、と言うか、物語の舞台となる紅緑村は、だんだんに区切られていて、
下から見上げると、天上界に位置している様な赤朽葉本家。そして、その力を誇示するかの様に聳え立つ製鉄所。
村では【上の赤】と呼ばれ畏れと親しみのない混ぜになった想いで見られています。
反対に戦後に勃興した造船成金【下の黒】こと、黒菱家、ここの長女である、【出目金】黒菱みどり、
普段はいじめっ子で子分を侍らせている彼女は、万葉とは常日頃から、『いじめっ子』『拾われっ子』と、
言い争っていますが、本音の深い部分で互いを認めあう関係になって行きます。
みどりは終戦から十年近くを経た今もシベリヤにて抑留中の美しい兄じゃの帰還を待ち侘びて、
ただ一人泣きじゃくっています。この兄じゃを巡っての万葉の【予見】と、痛ましい事件、結果として、
みどりの流行歌に乗せた裸の恋心の告白には、フィクションを超えた圧倒的なリアリズムを感じました。
さて、その後、赤朽葉の【恵比寿さま】と崇められている大奥さま、タツに見初められた万葉は赤朽葉の
【千里眼奥様】としての人生を過ごし、次の世代の毛毬が激烈に登場してくる
【第二部・巨と虚の時代一九七九年~一九九八年】(彼女の短い生涯に関してはスピンオフ作品が出ているので、
そこで触れます)、赤朽葉の伝説や謎が孫娘瞳子の手によって丹念に解き明かされていく
【第三部・殺人者・二〇〇〇年~未来】へ綿々と継承されて行くのですが、
最終的な謎が解けた時に瞳子の胸に去来した『せかいは、そう、すこしでも美しくなければ。』という想いに、
この本が読めて心から良かったと思いました。是非機会を見つけて読んで頂きたい、大オススメの一冊です。
紙の本
一気読み必至なので、時間の余裕をみて読み始めてくださいm(__)m
2010/10/07 20:15
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mayumi - この投稿者のレビュー一覧を見る
山陰の旧家を舞台に、祖母、母、娘の三代にわたる物語。
面白かった。
続きが気になって気になって、手をとめることができなかった。
祖母は千里眼、母は漫画家、そして何者でもない孫、と孫は語るが、ようするに時代がそういう人物を望んでいたのだろうと、感じた。
そう、ただ女たちの三代を描いたのではなく、そこ根底には戦後から現代にいたるまでの社会があり、山陰の旧家であってもその荒波は容赦なく押し寄せてくるのだ。
と、同時に、祖母の悲しいまでに純粋な心の物語なのだと思った。
飛ぶ男を幻視したのが始まりで、結局は物語はそこに着地していく。
自分の気持ちも、相手の気持ちにも、気づくことも察することもできない程に純粋だった恋だったからこそ、祖母は孫娘にその結末を託したのだろう。
孫娘が自分で歩き始められるように…。
薄ら怖くて、優しくて、美しい物語だった。
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私は多くの場合、歴史に関心がない。日本史だろうが世界史だろうが興味がない。
自分の過去には関心がある。家族の歴史にも興味はある。
身近な人間のそのものにも同様に。
赤朽葉家の歴史には関心がない。でも「赤朽葉家の伝説」には興味がある。
著者がこの小説を書いたことがなにより面白い。
良くできているし、私には粗がみつからなかった。
惜しむらくは著者と私が同世代ではなかったことだろう。
もし同郷で同級生だったならば、もっと正しい角度で見ることができたかもしれない。
そういったことでより楽しめる、そういう小説だろうと思う。
余談。文庫版の発売を待ちに待っとりました、私。
のめりこみました。突き破るかと思った、表紙。
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文句なしに面白い。
山陰の旧家を舞台とする、女三代記であるが、戦後の日本史がかぶっており、いろんなブームや校内暴力・イジメ、バブル発生とその発生などのムーブメントが、当時の(地方の)若者たちや社会にどのような影響を与えたかが描かれて興味深い。まさに、「懐かしの70年代」・「懐かしの80年代」なのである。
山の民出身の千里眼・祖母万葉、レディースを率いたその娘・毛毬は売れっ子の漫画家、そして個性派の中でなぜか生まれた凡人・瞳子。彼女達がそれぞれの個性を現わす。
第三章の推理小説がちょっと余計な気もして、4ツ星かなと思うが、まさに桜庭一樹さんの「初期の代表作」であり、この作家の今後の代表作を期待
したくなるような出来のいい作品である。
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カテゴリをミステリにしちゃうと肩すかし。というかミステリとしては正直何程もないなと。むしろミステリってしちゃうと勿体ないですね。
あと『ビューティフル・ワールド』って三章の終りでいきなり。…結局テーマはそれなのでしょうか?そういう小説には読めなかったんですが…どうもしっくりこない。
佐々木丸美著作へのオマージュ、という意見を何かで見て文庫化を楽しみにしていたのですが。期待は外れたかな、という印象です。
装丁は創元社としては破格に(笑)素晴らしい。
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桜庭一樹作品では一番のヒット。
こういう年代記っぽいのは元々上手い気がするが、こった構成ではなく普通に三代記にしているので取っつきやすい。
「ブルー・スカイ」とか「私の男」みたいに凝ったプロットで迷子になる感じはない。
そうかとおもったら、最後いきなりまさかのミステリ展開で、解決編までついてくるあたり、まんまとしてやられた。
素直に面白いといえる桜庭一樹作品は珍しいかも?
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三話とも毛色が違う。
それぞれ桜庭一樹っぽさが出てる。二話がラノベっぽい。
空を飛んでるのか、地上に落ちてるのか。
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鳥取の旧家に生きる女三代の物語。
ストーリーとしては面白いが、もっと掘り下げて描いてくれたら、もっと面白かったかも。
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感想はブログでどうぞ
http://takotakora.at.webry.info/201009/article_13.html
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桜庭一樹さんの本は何冊か読んだけどその中でダントツで好きな本。
スピンオフの製鉄天使も読んでみたい。
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山陰の旧家を舞台に、祖母、母、娘の三代にわたる物語。
面白かった。
続きが気になって気になって、手をとめることができなかった。
祖母は千里眼、母は漫画家、そして何者でもない孫、と孫は語るが、ようするに時代がそういう人物を望んでいたのだろうと、感じた。
そう、ただ女たちの三代を描いたのではなく、そこ根底には戦後から現代にいたるまでの社会があり、山陰の旧家であってもその荒波は容赦なく押し寄せてくるのだ。
と、同時に、祖母の悲しいまでに純粋な心の物語なのだと思った。
飛ぶ男を幻視したのが始まりで、結局は物語はそこに着地していく。
自分の気持ちも、相手の気持ちにも、気づくことも察することもできない程に純粋だった恋だったからこそ、祖母は孫娘にその結末を託したのだろう。
孫娘が自分で歩き始められるように…。
薄ら怖くて、優しくて、美しい物語だった。
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これは良い小説。
桜庭一樹さんの作品は「わたしの男」で知り、これが二作目になるわけですが、もう一気にファンになりました。
家族三代に渡る物語ですが、飽きることなく全部読めます。いつかまた読む日が来そうな作品です。
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時代と、人。描ききってる。
「寝取りの百夜」とか表現も面白くて、不思議と痛快。
これだけ女を描いて、あっけらかんとした雰囲気なのが良い。
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時代、家族、女としての生きかた。大きな、多様なテーマを孕んでいてお腹いっぱいになるかと思いきや、始めに投げかけられる『謎』が、最後の最後に切なく解かれ…。色々印象的なエピソードもあったけれど、やっぱり万葉さんの心情というか、世の見方、人の見方が作品通して一番印象的。
赤は一族の色で、血の色で、滾る思いの色なのかなぁ。どっぷり赤朽葉一族の世界にはまってしまった!
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桜庭一樹、本当に最近はまっとうなもの書く方なんだなぁとか思う。女系家族親子3代の家族物語。これがまた、とんでもない家のとんでもない女達。
割と時代描写が律儀にきちんと描かれていて、そういうとこは若干読むのが難儀だったり。。また読み飛ばす病が出てしまいました。
でも最後に空を飛ぶ男の謎が悲しく解けるのが、良かった。
最後の瞳子は自分くらいかなぁと思ったら、不思議な感じだった。
描写を読むのが面倒臭くさえなければ、なかなか重厚で面白かったと思う。