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子どもは哀しい。あまりに無力で、周囲の大人の都合で動かざるを得ないから。そして、子どもはやるせないほど視野が狭い。それは、知識の少なさからくるものもあるし、経験の少なさからくるものもある。手元にあるほんのちょっとの情報だけを頼りに世界を歩いていかなくてはならないのだ。
この作品の後半で企まれる行動はまさしく子どもならではの発想である。
ケーキ屋や学校から材料を持ち出すのは、確かにあまり褒められた方法ではないだろうが、しかし彼らに他の手段はなかったのだし、「あとでちゃんと返すから」とか「どうせもう使ってないし」とか「たくさんあるんだから少しくらいは」という考え方自体が、子どもならではだと思う。それを「視野が狭い」というのだ。
太輔の視点から書かれているために、全体が非常に曖昧になっている。子どもというのは、小さな穴から広い世界をのぞき込んでいるようなものなので、見えない物も多いし、見えても意味の分からないものがたくさんある。それがそのまま書かれているから、じれったくなるほど全体像がはっきりしない。
他の作品と違うのはそこだと思う。他の作品だと、ある程度自意識が生まれている人が語り手になっているから、詳しい描写も説明もできる。しかし本作は子どもが主人公であるため、なんとなくぼんやりとした子ども時代の感覚が呼び起こされてしまうのだ。
子どもは哀しい。自力ではどうにもならないことばかりで、そんな中で翻弄されていくしかない。
同じように子どもが主人公の物語を書いても、道尾秀介さんの小説だともう少し子どもに陰がある。そのあたりは作者の人柄が出るものなのかもしれない。
だからだろう、本作の子どもたちはみな、根っこのところで素直である。
いじめっこたちですら、素直にいじめっこである。
ラストで、子どもたちが新たな決意を語る場面が切なかった。切ないけれども、ただ哀しいだけでなく、世界に立ち向かっていく強さの萌芽を感じられて、泣きながらがんばれと思った。
逃げてもいいのだ、新天地を求めてもいいのだ、失敗したらやり直してもいいのだ。今ある関係性にこだわることを求める人が多すぎるし、すでに与えられたあり方だけに固執する人が多すぎる。
いじめっこはどこまでいってもいじめてくる。それは変わらないのだ。劇的に心を入れ替えるなんて、安直なドラマの中だけのこと。
どこかにきっと、自分を受け入れてくれる人がいる、どこかにきっと、自分が安心して生きていける場所がある。そう願う作者の痛切な思いが、ラストに結実していると思う。
「情熱大陸」を見た時に、編集者からの直しが入って「でもここは淡々と行きたいんだよな」とつぶやいていたのは、どの部分だったのだろう。
どこもみな、これでなくてはいけない、というトーンで描かれているように思う。
ふわふわとのぼっていくランタンの明かりのように、ほんのりと温かくやわらかい思いが残る作品だった。
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朝井リョウに勝手にジェラシー感じている文学青年はたくさんいて、例にもれず僕もそうなんだけど、そんな嫉妬心が綺麗さっぱり消えるくらい「すごい」と思った。特に第一章「三年前」は完璧だと思う。 http://shiomilp.hateblo.jp/entry/2013/07/13/181116
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さまざなな理由で児童養護施設『青葉おひさまの家』にやってきた、主人公の太輔を始めとする子供たち。中3の佐緒里はみんなに慕われるお姉さん、太輔と同級生の淳也と妹で小1の麻利、大人びた小2の美保子、同じ1班として一緒に生活しつつ、実はそれぞれに悩みを抱えている。
それぞれが抱えた問題は結構深刻、でもどの子も誰かに相談しようとはしない、それぞれその問題と向き合っているのが偉い。
3年後のそれぞれ、今後どう生きていくかの岐路に立たされる、そこで出てくるのが、佐緒里の好きな映画。その映画がみんなにとっても大切なキーポイントになりつつ、ラストのシーン、人との出会いの大切さと残酷さ、両面がありつつ、でも何度だってまた新たにいい出会いを求めていけばいい・・・と感じた。
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朝井リョウという人はこんな作品も書けるんだ。
描いていることが鋭いから、毎回読んでいて驚きがある。
児童養護施設で過ごす子どもたちの話。
はじめのほうでも、おわりも泣かされた。
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教科書をよんでいるような感じもしたけれど、恋愛やミステリーではない日常的な小説は、あとからぐっとくるものがある。
大人になると大人の言い分で生きている。
子供だって子供の世界の中で必死に生きている。子供はその世界の中で闘っているのだと思う。
大人よりもずっと子供(この小説に出てきた子供たち)の方が強い。
そこでしか生きられない、選べない、人生を背負っている子供たちは、ずっとずっと強くたくましかった。
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朝井リョウの直木賞受賞後第一作。今までの高校生や大学生の同級生の話ではなく、小学生から高校生までの幅広い年代の話。学校だけではなく、施設での話も盛り込まれ、今までとは違った新しさを感じた。
スタジオジブリの人が書き下ろしたカバーイラストも素敵。
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情熱大陸の著者の回をたまたま見て、若さと本業・副業、直木賞などのキーワード気になって読んでみた。文章の切れ方がなんだか虚無感があって、展開も現実的で切ない感じだけど、でも暗くなくて前向きな雰囲気がいいなぁと。他の本も読んでみたい。
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テレビで朝井リョウさんを見かけて、初めて読んでみたいと思ったのがこの一冊。
訳あって児童養護施設で暮らす子供たちがテーマ、もうそれだけで
親と離れてどんな思いで暮しているかと思うと、胸が締め付けられた。
特に、太輔のキルト事件。
不器用でも一生懸命になっている彼らには、涙したり(特に我が道を行く麻利の口調、行動に)
笑ったり(余命を平気で変更して言い放った美保子)。
でも、イキイキして過ごせている。行動を起こせている。
読み始めの施設で暮らす子供と言う概念が、読んでいるうちに
どこかへ飛んでしまうほどだった。
彼らの下書きは、これからどんな世界を広げていくのかも気になる。
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子供たちの決断。
立ち向かうのでは無く逃げ出す事。
それは、どれほどの勇気が要ることなのか。
きれい事で簡単に片付けるのではなく、大切なメッセージが子供たちを通して届けられている気がする。
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『逃げる』を肯定してくれる本。ラストの情景とメッセージに感動しました。
ただ、メッセージを伝えたい小・中・高校生にこの本が浸透しているか疑問です……装丁は色彩が美しく素敵ですが、少し大人好みに感じました。
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う~ん、思ったより中身が薄い(無いのではなく厚みが)感がある。決して悪い話ではないし感情移入もそこそこできるのだけど、作者が伝えたいことがそれほど胸に迫って来ない気がして。まぁ、でもこれはこれでいいのかもしれない・・・かなぁ。そういう書き方をする作者ということかな。「わたしを見つけて」の方が重みはあった。
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いじめや寂しさ、複雑な家庭の事情、こころの葛藤を同じ児童養護施設の仲間たちと乗り越えていく成長物語。彼ら彼女らがどんな未来を描くのかー。後日談も聞いてみたい爽やかな読了感でした。
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それぞれに悩みがあって、それが解決したわけではないけれど、みんな前を向いていける結末で良かった。ただ、さらっと流しすぎているところももうちょっと丁寧に書いてほしかったかも。
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こんなにいろいろな事を考えないといけない小学生は、きっと素敵な大人になるだろう。と言う事で、大輔君のその後を読んでみたい。必ず出てくるイジメをさらりと流して、最後に転校という道を選ぶのも納得だ。大学進学をあきらめる佐緒里へのみんなの優しい想いが、ランタンに乗って飛ぶ様子が美しかった。
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『わたしをみつけて』を先に読んじゃったから、ちょっと浅く思えちゃったけど実際はどうなんだろう。
主人公が年齢のわりに達観しすぎてて、感情を寄せられなかった。こんなにかっこよくしなくてもいいのに。で、結局恋か…という。