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これは、1988年に朝日新聞社から出た本(1992年には朝日文庫に入っています)ですが、今年が花森安治生誕100年ということでそれを記念して、それに日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した作品でもあるということで復刊されたようです。
あれほど期待し信じていた民主党にすら、腐敗しきった自民党まがいに裏切られつつあるこういう時代だからこそ、花森安治は何度でも振り返ってあまりある重要な人物です。
実際に私も雑誌を2誌創刊して廃刊したり、本の代筆や編集に携わったことがありますが、迎合したり媚びへつらったり圧力に屈しないようにすることが、どれだけ困難でいかに大変かは身を持って経験してはいます。
雑誌『暮しの手帖』の創刊から30年間も、編集長としていっさいぶれることなく辣腕を振るった彼は、今も続く、どこからも広告を取らない載せないという、普通では絶対ありえない編集方針を持ってして、どこの企業の御用雑誌にもならないし、誰の提灯持ちもしないという、自らの自立を勝ち取ったのでした。
これは、何気ない単純なことのようですがきわめて本質的なことで、多額の広告収入が打ち切られないためには、自動車工場で行われている非人間的労働で精神異常をきたし自殺者が多発しているなどというニュースは報道されないのです。原発の危険性や事故隠しも、おおむねそういう利害関係者どうしの口裏合わせで、いつも真実から一番遠ざけられているのは私たち国民です。
1954(昭和29)年から始めた商品テストには、ただ消費者のために役立つ情報を提供する、という国民の立場にたつ雑誌を出すという意志に貫かれたこだわりのようなものがあることは確かですが、それもひとえに、かつて大本営発表の戦意高揚に協力したという自らの戦争協力者だった過去の深い反省にたったものだとすれば、その辛辣ぶりも頷けるかもしれません。
以下、例によって参考のために目次をかかげます。
◆編集長の二十四時間
伝説の人/暮しの手帖研究室/おかずの学校/三つの机/編集会議/編集部員/陽性の癇癪もち/花森の文章哲学/「手帖通信」/しかられた社長
◆大学卒業まで
生い立ち/松江高校時代/「帝国大学新聞社」時代/「パピリオ」時代
◆大政翼賛会のころ
大政翼賛会宣伝部/幻のポスター/報道技術研究会/「欲しがりません勝つまでは」/庶民感覚のなんでも屋/宝塚歌劇/もうひとつの見方/戦後への屈折
◆「手帖」創刊の前後
女の役に立つ出版/ベストセラー「スタイルブック」/「美しい暮しの手帖」へ/「一流の偉い先生」が執筆者/広告収入のない雑誌/スカート神話の虚実/編集も行商も/三羽烏の交友
◆商品テストへの挑戦
前人未到の分野へ/象徴ブルーフレーム/しろうとが編み出したテスト方法/三種の神器のテスト/完全主義のテスト/アメリカ製品の凋落/「コンシューマー・レポート」の教訓/花森の性格と商品テスト/「水かけ論争」の勝利
◆写真帖から
一銭五厘の気概
戦争についての発言/一銭五厘の旗/死の予兆/花森安治の遺産
あとがき
関係資料
文庫版あとがき
「花森安治の仕事」���酒井寛・・・・・・有馬真紀子
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『暮らし』を良くしたいならば、左とか右とか、関係ない。小沢一郎ほか政治屋さんは、『生活第一』をマニフェストに掲げて言う。しかし、暮らしと生活は別物だ。本書を読むとそれがわかる。暮らしだけは複数形になりうる。
これはあなたの手帖です
いろいろのことが 書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮し方を変えてしまう そんなふうな
これは あなたの暮しの手帖です 花森安治
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断片的に
読んできた
「暮らしの手帖」の
あれやこれやが
ゆっくり
つながっていく
どんな「仕事」にも言えることだけれど
やっぱり
行き着くところは
その「人」なんだなぁ
と 改めて思う
だから
「暮らしの手帖」が
存在したんだ
を 確信(!)できる
一冊です
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読んで良かった本。
何となく「暮しの手帖」というと今の『テイネイナクラシ』派の土台というか総本部みたいなイメージで敷居が高いような高くないような。憧れる部分もありつつぶっちゃけ面倒…というような、良く知ってる方には無礼極まりないイメージを持っていてすみません。
私は大いに誤解していたのだけど、戦後はそれより前のものを全部ぶっ壊して(あるいはぶっ壊されて)せーので出来上がったものだと思っていた。もちろんぶっ壊されなければ出来なかったものではあるのだろう。けれど、誰がつくったかというと戦前の暮らしをしていて教育を受けていてその中で価値観を育んできた人々だ。戦後の会社の大元は戦前からあるものだ。
明治の世は幕末の価値観を持った人々がつくった。連綿と時代は続いてきているんだなと実感としてこの本は教えてくれた。終戦を越えてきた人は無口ではあるけれど胸に一物を持っている気がする。大橋さんは「暮らしの手帖」を立ち上げた。「基本は暮らし」を担う哲学部分は花森さんも支え続けたんだろう。
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純粋に花森仕事にだけ集中した良品。
彼がどんなにすごい人だったかを書くんじゃなく、癇癪持ちで、怒鳴り散らし、時には仕事を気分じゃないというだけでほっぽらかしたというエピソードまで細々と書いてある。彼が超人でもなんでもない、ただただ人らしい人だったんだな、そんな印象を受けた本だった。
「一流の偉い先生」が執筆者の賞で、大橋がやっとの思いで当時の第一皇女に原稿を書いてもらったのに、ものの見事にダメ出しをくらい再度書いてもらったというエピソードが気に入った。
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『暮しの手帖』初代編集長・花森安治の仕事ぶり、生きざまを描いた一冊。
昭和の香りをたっぷりまとった信念のヒト。こういう人の下で働くのは、きっとその時は辛くて大変なんだろうけれど、後になってその意味がじんわり分かって感謝の気持ちでいっぱいになる、という感じなんだろう。
信念をもったヒトに仕えてみたいと思うと同時に、自分にはそんな信念があるのか…と考えこんでしまった。