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吉里吉里国に移民した古橋健二の身に、さらなる椿事が出来します。吉里吉里国で開発されたという新薬を争奪しようとする争いに巻き込まれたかと思えば、吉里吉里国に新設された文学賞を次々に獲得し、新大統領の地位に就き、ついには脳移植手術の第一号患者となって、美女の殺し屋ベルゴ・セブンティーンの身体に脳を移植されてしまいます。
一方、吉里吉里国の独立を阻止しようとする日本国は、吉里吉里国の最大の切り札である4万トンの埋蔵金の隠し場所を突き止めようとします。古橋はふとした偶然から、埋蔵金の在り処を知ることになります。そして、この軽率な男に金の在り処を知られてしまったために、吉里吉里国独立という夢は空しく潰えることとなります。
著者の筆の勢いは最後まで衰えませんが、読者としてはさすがにちょっと飽きてしまった感もあります。が、いずれにしても、全編に渡って著者のエネルギーの横溢を見ることのできる、快著にして怪著だと思います。
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井上ひさしの博識と問題の切り口、設定の仕方の巧みさにただただ脱帽だった。
本書を著したのが1985年と自分が生まれる前年にも拘わらずテーマとしている問題意識が全く古めかしく思えない。
期せずして安保関連法が物議を醸した正に同じタイミングで読んだことで井上ひさしの訴えようとしている課題の一端を強く共有することが出来たと思う。
個別には特効薬、特に虫歯(および歯医者)に関する論点が素敵だった。
虫歯の特効薬が発明される。
すると「全世界の歯科医師や歯科技工士が失業しますよ。残るのはごく一部の、美容師まがいの歯科医師。つまり細々と派の手入れをさせてもらうしかなくなります。歯科用の医療機器商も潰れましょう。世界的な社会問題になりますよ。」(pg.55)と厚生省の役人が嘆く。
特定分野の技術開発がもたらす社会的な影響に考えを巡らせてくれるきっかけを与えてくれる。ラングドンウィナーの「技術の政治性」を日本的視点から論じているようだ。この視点は「組織の自己保存」にも繋がるのではないか。歩留まりの改善を主業務にしている技術者が、仮に100%の歩留まりを達成する技術を開発したら自分の職を潰すことになるその技術を果たして公にするのだろうか。また、そのような技術を開発するインセンティブは発生するのだろうか。
率直に面白かったのは以下の記述。
「わたしはね、七十や八十の老人がマラソンなんかして体を鍛えているのを見るとぞっとするんだ。薄みっともない、恥を知りなさいってんだ。いったい、いくつまで生きてりゃ気が済むのか。自分と同じ世代の人間で、戦争や病気で早死にした人たちのこともちっとは考えてみるがいい。また自分より若い人たちの邪魔をしていないだろうか、たえずそう反省して、ひそかに余生を送ってはどうなのだ。」(pg.68)
こんなこと、空気を読むことが絶対の今の世の中では思っていたとしても口になんてできやしない。それを小説の中で痛快に言い放ってしまうあけすけなこの小説は読んでいてとても楽しかった。
※ちなみに★三つ評価は少々長すぎて読みつかれてしまったから…。
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再読。と言っても、あらかた話は覚えてなかったので新鮮な気持ちで読めた。改めて、一流の作家の先進性、世の中を見る慧眼に驚かされた。
細部では今となっては、古臭く効果を減じている部分もあるが、物語が提起している話題は全く古びていない。逆に言えば世の中変わっているようで変わってないわけだが・・・
個人的には、余りにしつこい下ネタに辟易するところもあったり、現実離れした人物設定、饒舌すぎて読むのに苦労した点はあったが、概ね楽しめた。東京で育った私には農家の苦労も怨念も分からないが、元は両親の出は農家である。遺伝的には、多くの日本人同様百姓である。仕事で、東北に行くと、荒れ果てた休耕田を見て心が痛むこともある。井上氏の想像した「ユートピア」の実現は困難だろうが、生きるために一番大事なものが農業である事も間違いない。
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中二みたいな下ネタてんこ盛りの語り口に、大人な農業論、政治論、医療論の食い合わせに頭がクラクラしました。ストーリー全部ばらしちゃう解説に気を付けましょう。
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展開が劇的に変わりますね。わずか1日半での話。病院で働いていた主人公はたちまち戦いに巻き込まれることで、脳味噌の移植手術されて、男から女になる。そして、大統領となる矢先にまたしてもやられました。展開が劇的に変化しますね。
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上中下巻に渡る大作。
日本が抱える様々な矛盾や課題を、農業政策と医療政策を切口に皮肉りながら、ドタバタでガタガタでハチャメチャでハラハラに書き進めるコメディ。
ハッとするような指摘を、軽妙なコメディタッチで書き上げているのが面白い。
40年近く前の作品でありながら、今の日本への提言として遜色ないのは、内容が普遍的で不変だからなのか、日本という国が成長していないからなのか…
そして、読んでいるうちに、脳内は“吉里吉里語”に汚染されていく。
それにしても、主人公・古橋健二のダメ人間ぶりがものすごい。フィクションだから、あえて極端に振ってるんだろうけど、それにしてもひどい。それが面白いんだけど。
そのダメっぷりが、最終的には吉里吉里国独立運動を失敗的終焉に導くんだけど、なんだか終わり方がグロテスクで、最後の最後でビックリしてしまった。
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読破!内容が下巻になると、内容が気になって気になって寝るのが惜しい。それぞれの人に個性がありまくりだからなのか、主人公がだめでおもしろい。ただの田舎者の集まりではなく、未来にいきている人たち。教育、医療、仕事、風俗、、田舎なのにどうしてこうも未来に生きているのか。この人たちだからこそ独立国家を作ろうとしたんだなと考えさせられる。
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滅茶苦茶、破茶滅茶大騒動も、遂にフィナーレ。
ダラダラ、無駄の多い長ったらしい物語だが、それが苦にならない。
無駄に長い文章は、苦手なのだが、スっと頭に入り込んできた。
不思議と物語にのめり込んでいた。
本当に不思議な物語。
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上中下巻と、面白くて一気に読んだ。吉里吉里人を読みながら、日本の内部で吉里吉里国が独立するという設定がイスラム国の比喩のようにも取れたし、また『横浜駅SF』を思い出しもしたし、あらゆる吉里吉里に関する要素が百科事典的に記されている様はメルヴィルの『白鯨』のようでもある。それにしても、日本で『白鯨』のような大きな物語を持った古典に『吉里吉里人』が相当すると考える人はあまり多くないかもしれない。国の内部で国としての独立を立ち上げる視点は大江健三郎の『芽むしり仔撃ち』そのものだし、日本は日本国内での独立、地方の自立をカノンとして持っているというのは、英文学やフランス文学にはあまりない特徴のように感じる。
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下巻に入り、更にテンポアップ。面白さにグイグイのめり込む。吉里吉里国の独立の戦略である、医療立国、金の隠し場所に迫る。
相変わらずの言葉遊びと、荒唐無稽のストーリーだが、段々と中毒になってきた様に面白いと感じる。
そして、一気に物語はラストのクライマックスへ。
ラストで、この物語を紡いできた記録者がキリキリ善兵衛であり、百姓どもに朝が訪れることを待ち望んでいたことが明らかにされ、この物語が、百姓の解放を通底とした独立物語であるというテーマが浮き上がってくる。
ここで言う百姓が朝を迎えるというテーマは、現代消費社会、国際分業といったシステムから降りて、自給自足をしながら文化を守り医療を享受し独立して生きていくという、自然資本によって生きるローカリズム宣言や、半農半X、ダウンシフターズの生き方に通じるものだと気がつかされる。バブル期前の昭和56年時点で、2020年現在、走りとして動きはじめた自然資本、ローカリズム宣言、ダウンシフターズといった運動の主題を、吉里吉里国独立物語として描き出した作者の力量に唖然とする。そして、ラストまで、そうした消費社会システムからの解放、自然資本に則った定常社会の実現を目指すという主題を感じさせずにエログロナンセンスの装いで娯楽小説として描き出したことも驚愕。
喜劇として描かれてきたこの物語が、吉里吉里国独立の失敗、自然資本に基づく定常社会の確立という挑戦の失敗、すなわち、百姓が朝を迎えられなかったという悲劇に終わったことを、とても残念に思う。
喜劇が、悲劇やシリアスを描き出したというところで、岡本喜八の喜劇を見たような満足感を味わえた。
上巻で辞めずに、読み切って良かった!
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上巻感想参照。
この容量での上中巻、一切だれる事なく面白しろさが続く最強(狂)のブラックエンタメ作品だと思った。
ラストも完璧、とてもいい読書体験だった。
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作者は日本に不満をもっているのか?
現代でも納得いく国への批判に対する皮肉が効いていて、何とも言えない気分に。
娯楽小説として一読の価値はあるかと。でも、不要な描写に感じてしまう部分も多く、とにかく長い!でも、設定が細かくて凄い。
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抱腹絶倒とにかく面白い。ジャンルを言うなら妄想小説R15指定。主人公のオッサンにイラッとしながらもぐいぐい引き込まれていきます。
出会いは行きつけの大型書店。奇抜なタイトルが目に入って書棚から手に取り、表紙の絵に惹かれてペラペラ捲って見る。ルビが多い小説だと思ったらなんと東北弁訳。期待値マックスでレジへと直行でした。
物語はと言うと・・・これが実にえぐい話なのです。小説が醸し出す独特の世界観に酔います。まずはご一読あれ。
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吉里吉里人が並べ立てる理論はどれも骨太で,何よりも愛国心に満ちている点で一見手強そうに思えるが,天上からの暴力には無力であった。この筋が何を示唆しているのかは,現代だと少し意味合いが変わってくるだろう。
文章の大半は悪ふざけの域であり,ここは読者の好みの分かれるところだろう。私は読んでいて面倒だと感じることのほうが多かった。
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文庫本(三部作)に改訂する前の単行本で読んだ。
読みはじめ、何度も「何でこんなのを読まなければならないのか」の自問に襲われ、エンジンをかけるのに手こずった。
この作品は壮大な構想のもとで、奇想天外・パロディ・下ネタエロ・ダジャレ・ギャグ・ユーモア・類語反対語羅列‥‥冗談のようなノリの文章が延々と続き、常識をひっくり返しまとめ上げたユートピア創造の長編小説である。話題の事柄や背景を克明に説明し作者の浩瀚な知識をこれでもかと描く。一国独立の法的根拠などいろいろなことをよく調べその描写がとにかく長い。読んでるのが馬鹿らしくなり、ついていくのを止めようと思う。読者の許容範囲の限界ギリギリを挑発し、楽しんでいる作者のしたり顔が目に浮かぶ。いつの間にか独特の異世界に引き込まれ、途中の迷いが嘘のように共和国の応援団になってしまう。国の建て付けや運営のアイデアに共感し、よくこれだけのことを思いつくなと感心する。
全編を貫く作者の思考の破天荒さが伝わってくる。
まさに「正論は大声で言うべからず」である。
中央に対する地方・辺境からの視点、少数民族や方言の価値、権威・権力からの独立、老若男女民衆の力、医学・医療の重要性、直接民主主義の可能性‥‥。
作者の考える理想郷や思想にはまったく同感であり、
振り落とされなくてよかったと思う。
リアルとイマジネーション、深刻と呑気の両極端ではあるが、『レ・ミゼラブル』や『ジャン・クリストフ』『白鯨』など世界の長編文学作品に通じるものを感じる。
東北岩手県の四千二百人の小さな村が吉里吉里国として日本国から独立する話である。標準語の文章にはすべて東北弁のルビがふられ、ズーズー弁の独特な世界を創り出す。藤原三代の埋蔵金4千トンを「金隠し」にして隠し、それを通貨の裏付けにして金本位の国家運営をする。愚人会議という村人10人で構成する移動政府があり、政治経済や教育・農業・軍事・法務等々各省が機能し、小学生から老人までの男女がいろいろな役割を担う。多くの多国籍企業が支店を置き地球規模で注目される。現実社会の問題点を解決する理想的な仕組みで共和国が運営される。
最先端技術の医科大学病院を中枢に据えて、その開発技術を世界中の少数民族独立の武器にする。偶然紛れ込んだ三文作家の目で、驚きながらこの国の成りたちを発見していく。大統領は「タッチ制」で継承することになっており、移動政府の運転手から彼が引き継ぐことになる。日本を中心に諸外国の破壊工作が圧力を増す。
最後の終わり方が鮮やかだ。
少年時代に兄弟や友人達と隠れ家を作り掟を決めてごっこ遊びをした時の興奮や、大学のバリケード封鎖で仲間同士のコンミューンのような生活、その自由と清々しさが彷彿される。権威から独立して仲間で役割を決めて理想郷を作る高揚感である。現実からの隔絶、体制からの自立に興奮し燃えた経験は強烈で決定的な記憶である。
やはり井上ひさしは凄い。この作品はユーモアと揶揄や皮肉は満載だが悲観は皆無で底抜けに明るく爽快で読者に希望の夢を見せてくれる。
読み切ってよかったとつくづく思う。