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井伏文学には他にさざなみ軍記という作品がありますが、時代こそ違えど、これも同じようなスタイルで、巡査の駐在日記として描かれていて、さざなみ軍記よりもなじみやすくはあり、それでいて公務に就くものの定めを守り、村民の秩序の維持に忠実な甲田巡査の責任感を演出する描写がうかがえます。
おまわりさんといえば、たいていどうしようもない村民とホトケさんの対応に追われるもの、としての思惑を持ちますが、その印象は当たりつつ外れていて、それは極端な話で、その中間にあるようなものを目の当たりにした、甲田氏の悲喜こもごもとした感情が伝わってくるようでした。
人情ものとして読むには淡白だし、ドキュメンタリーとして見ると主人公の姿がいまひとつ見えないので、物語そのものが湿ってなくてひたすら乾いてるんですが、このおはなしの最終章である水喧嘩の件では、イチ巡査が村の揉め事を解決する為に話し合いの場を設けてまで村のために尽力する姿が描かれ、物語をうまくしめくくっています。
現代にも、変わらず自分たちの身近でお世話になっているおまわりさんがいます。きっとそういう人たちの表にでてこない『日記』もこれと似たりよったりなのかもしれませんね。