紙の本
小泉政権の功罪を鮮やかに分析!
2007/05/02 15:26
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
小泉純一郎氏が、2006年9月に政権を去って以来、多くの硬軟取り混ぜた小泉政権論が刊行されている。その中には、傾聴に値するものもあるが、単に政権を賛美したり逆に全面否定することで事足んとする書物が多いことも事実である。そのような中にあって、本書は、戦後三番目の長期政権である小泉元首相の5年5ヶ月の軌跡が、政治学や行政学の最新の知見を基に記述されており、極めて信頼の置ける書となっている。
本書の前半では、政・財・官の三者の鉄のトライアングル体制を打破して、郵政民営化・道路公団民営化・医療制度改革・財政改革・地方交付税制度改革などの諸改革が行われた過程が詳細に論じられている。これらの一連の改革の中でも、成功したものと不充分な結果に終わったものもあったが、それでもこれだけの改革を任期中にやり遂げたことは驚嘆に値する。
しかしながら、ここで注意すべきは、このような改革を実現可能にさせた政治制度の刷新が、小泉氏の首相就任前に行われていたことを著者が明確に指摘していることである。それは、小選挙区制度・行政府集権制度などであるが、これらの政治制度の刷新が就任前に行われていたからこそ、小泉首相の目覚しい一連の改革が可能であったとしている。俗書を見ると、一連の改革が小泉首相の強いリーダーシップと不退転の決意があったからこそ可能であったとしているものが多いようだが、政治の世界はそのような単純なものではなく、双方がタイミング良くからみ合って一連の改革が実現したというのが事実であろう。
著者は、このように小泉政権の光の部分を論じているが、同じ分量でその影の部分も明瞭に論じている。それは、内政では熟慮に熟慮を重ねた姿勢が見て取れるのに比べ、外交ではそのような慎重な姿勢は見られず、安易にアメリカが主導するイラク戦争に追随したり、国益を無視して自己の心情に従って靖国神社参拝を繰り返し中国や韓国の反発を招き、両国との外交関係を著しく損ねたことなどである。また、新自由主義的な政策を性急に導入した結果、社会格差が一段と広がり、将来のある若者たちに暗い影を投げかけたともしている。いずれも、小泉政権の負の遺産とも言うべきものであり、日本の進路に大きな禍根を残した。
著者は、このように小泉政権の功罪を論じた後、終章で、小泉政権以後の政治のあり方について次のように述べている。
『小泉の「成功体験」にとらわれて、政治の持つ可能性について視野狭窄に陥ってはならない。小泉の採用した政策方針や決定手法のみが正解だとは限らない。政治とは、勝れて「自己実現的予言」の性格をもつ活動である。われわれのもつ政治への認識や理解が、そのまま将来の政治へと反映される』。
将に至言というべきある。と同時に、政治を批判的に見る眼がいかに大切なことかということを本書は教えてくれる。
紙の本
5年5か月にわたり政権を主導してきた元小泉首相の政治とその考え方を綴った良書です。
2016/09/25 09:34
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
21世紀最初の4月、世論を背景に首相の座に就いた小泉純一郎氏ですが、靖国参拝、北朝鮮訪問、郵政解散など、政権の5年と5カ月は受動的なイメージだった日本の首相を、強いリーダーシップを発揮し得る存在に変えました。一方で、政権は「抵抗勢力」=派閥・族議員、官僚と対峙する上で、世論を頼みとして、人々の理性より情念に訴え続けました。そのような小泉政権の長きにわたる時期を、再考する良書です。
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小泉政権の業績などをまとめられた本。どちらかと言うと否定的な立場からの記述だが、事実を網羅しただけともとれる。
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小泉さんが首相を務めた、激動の五年間が書かれています。『自民党をぶっ壊す』という耳に残るフレーズから入り、『変人』とまで言われた小泉さんの政治方針や策力がわかりやすく記述されている。まだ、出て間もないから、記憶に新しいところが多く、抵抗無く読むことができた。小泉首相の改革の本丸“郵政民営化"に至る過程、ビジョンを政治背景を踏まえながら捉えているところは、読んでよかったと感じた。
政治とメディアをうまく結びつけたところは、素人目から見ても天晴れであったと言えるだろう。
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メモ
2007年3月時点(あとがきの日付)の小泉評。
内政(新自由主義的改革あれこれ)・外交(こんにちはアメリカさよならアジア)・と歴史的意義、功罪。キーワードは「強い首相」「パトスの首相」。
族議員、官僚、利益集団、の鉄のトライアングルを内閣官房で縦横にぶちぬいて、官邸主導を実行できたのはなぜか?<内政改革進めて内閣権限強化+ポピュリズムを味方につける>ができたから。外交について、戦略不足だったのはなぜ。首相の関心の乏しさと竹中氏的な人がいなかったから。
パトスあればこそ、あのスピードであれだけの改革を断行しまくれたわけだけど、それは「排除」の構造を産んでしまう。理性に基づいてじっくり話し合う「包摂」と両立するのが大事。でもそんな理想的な政治、想像できない・・・。と思ってたらラストに「政治のもつ可能性について視野狭窄に陥ってはならない」とあった。反省します。
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小泉政権の分析と総括を試みる書。
小泉元首相を「パトスの首相」、「強い首相」という二つの側面から捉え、小泉元首相の政治手法や彼が進めた構造改革の特徴を分析している。
小泉元首相の「強さ」の源泉として、制度的要素と個人的要素の両方があったと主張している。同感である。
筆者は、内政の構造改革については、その戦略性を高く評価しているが、外交については、戦略性に乏しかったと指摘している。
「パトスの首相」である小泉元首相は、政治家に求められる「責任倫理」ではなく、「心情倫理」に依拠していたとも指摘されている。
直近の人物、出来事が対象にも関わらず、本書の分析はなかなか深みのあるものであると思う。筆者の見解に同意する点も多かった。
また、本書は、小泉政権における構造改革や外交の内容がコンパクトにまとまっており、小泉政権について調べたいときにも重宝する良書である。
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現・東京大学大学院総合文化研究科准教授の内山融による小泉純一郎政権の概説と分析。
【構成】
第1章 小泉純一郎の政治運営
1 ポピュリスト的手法と「パトスの首相」
2 トップダウン型政策決定と「強い首相」
3 小泉の行動様式-時間軸の短さ
第2章 内政-新自由主義的改革をめぐる攻防
1 経済財政諮問会議の機能
2 財政改革-予算編成プロセスの変化
3 道路公団の民営化-族議員との対立と妥協
4 不良債権処理と金融再生
5 医療制度改革
6 三位一体改革-補助金削減・税源移譲
7 「改革の本丸」郵政民営化
8 戦略的政策決定の条件
第3章 外交-近づく米国、遠ざかる東アジア
1 外務省の混乱-田中真紀子外相と鈴木宗男
2 対米協力の強化-自衛隊の海外派遣
3 混迷する対中国・韓国関係-首相の靖国神社参拝問題
4 北朝鮮訪問と拉致問題
5 自由貿易協定(FTA)の遅滞
6 内政と外交の対照性
第4章 歴史的・理論的視座からの小泉政権
1 戦後政治史のなかの小泉政権
2 首相のリーダーシップと制度
第5章 小泉政権が遺したもの
1 「強い首相」の功罪
2 「パトスの首相」の功罪
3 日本政治の将来像
本書出版の前年に同じ中公新書から出された竹中治堅『首相支配』が小泉政権に至るまでの「政局」を丹念に拾いながら、<55年体制>から<2001年体制>への変化を論じたのに対して、本書は小泉政権期の「政策」を主に論じている。
上記構成から見てわかるように、内政と外交に二分して、様々な政策・トピックを取り上げている。竹中の著書ではほとんど取り上げられなかった外交政策について言及されているという点で評価できる。
ただ、肝心の内容については面白味はほとんど無い。内政・外交については新聞や雑誌のトピックを追っているだけで、改めて知り得た事実などは見あたらない。この程度の内容ならそれこそ大学院の博士課程の学生でも、もう少し面白く書けそうなものである。「果たしてこの著者は実証研究をしたことがあるのか?」という疑問すら湧く。事実関係を羅列するだけで内容になると思ったら大きな間違いである。
さらに、学者としての本領発揮である分析についても、首をかしげるところがいくつかある。例えば筆者は靖国問題に端を発する対東アジア外交の不調などを引き合いにだし、内政に比べて「戦略性が乏しかったと言わざるを得ない」としている。ただ筆者は、この「戦略性」という言葉を、「達成すべき目標とその実現手段を綿密に検討した上で実行に移すという意味」で使っている。本文を読めばわかるが、よく検討すれば戦略的で、時間をかけなければ非戦略的という言葉の定義である。これはもう語義の曲解であろう。
個人的な印象からすれば、小泉政権の対外政策は極めて明確で十分に戦略的である。小泉は「国際社会における日本のプレゼンスを高めること」を主たる目標としていたのではなかったか。筆者は小泉の��動を中長期的な視野が欠如しているというが、小泉が何度も繰り返していたようにたかが歴史教科書や靖国参拝ごときで首脳交流を断絶させる中国、韓国の方がよほどおかしいのであって、戦略的でないのは彼らの方だろう。もちろんそのような「対立」を招いたことで逸した国益はあろうが、それを「中長期的」リスクと言う根拠が一体どこにあるのか、著者には明らかにしてもらいたいところである。
第4章、第5章は戦後政治史の中の「小泉政権」を総括しているが、戦後政治外交史をよく知らない人間が総括などできようはずもなく、「アイディアの政治」という曖昧な概念でお茶を濁している。クリック、アレント、丸山真男、ネグリなどなど著名な政治学者の言を引き合いにだしながら政治思想的な分析を試みているが、引用のされ方も唐突であり上滑りの感が強い。
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[ 内容 ]
21世紀最初の4月、世論を背景に首相に就いた小泉純一郎。
靖国参拝、北朝鮮訪問、郵政解散など、政権の5年5ヵ月は、受動的イメージだった日本の首相を、強いリーダーシップを発揮し得る存在に変えた。
一方で、政権は「抵抗勢力」=派閥・族議員、官僚と対峙する上で、世論を頼みとし、人々の理性より情念に訴え続ける。
新自由主義的政策を強く進めた内政、混迷を深めた外交を精緻に追い、政権の功罪と歴史的意義を記す。
[ 目次 ]
第1章 小泉純一郎の政治運営(ポピュリスト的手法と「パトスの首相」 トップダウン型政策決定と「強い首相」 ほか)
第2章 内政―新自由主義的改革をめぐる攻防(経済財政諮問会議の機能 財政改革―予算編成プロセスの変化 ほか)
第3章 外交―近づく米国、遠ざかる東アジア(外務省の混乱―田中眞紀子外相と鈴木宗男 対米協力の強化―自衛隊の海外派遣 ほか)
第4章 歴史的・理論的視座からの小泉政権(戦後政治史のなかの小泉政権 首相のリーダーシップと制度)
第5章 小泉政権が遺したもの(「強い首相」の功罪 「パトスの首相」の功罪 ほか)
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小泉内閣の特徴と功罪を分かりやすく解説していてためになった.
今の震災後の状況で必要とされているのはあれくらいのぶれないリーダーシップなんじゃないだろうか.
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小泉政権では何が行われたかの、全体の検証には非常によい本。
題名にあるように、パトスの首相であり、そこにはロジックなものではなく、情感のみに訴えた政治手法については、やはり議論の余地があると思う。
小泉政権全体を知るためには、おさえておく1冊。
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小泉政権の研究。道路公団や郵政公社の民営化を果たした小泉の実行力の根源を、アクターに焦点を当てて分析。
経済再生諮問会議という「場」の創設による、党の頭越しでの政策決定、時間軸の短さによる派閥均衡無視、そして情念(パトス)を前面に押し出す姿をメディアで活用するなど、小泉の行った手法がよくわかった。
反面外交考察に関しては小泉自身に関心がなかったと述べられているに過ぎず、拍子抜け。
本書はアクター中心の本なので、制度が小泉のリーダーシップにつながったという論と合わせて読みたい。
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小泉元首相の政治的人格を概説した上で、内政、外交と話を進め、
政治史における立ち位置と利用された制度の成り立ちを解説する。
最終的に日本社会に残されたその影響をまとめたもので、
構成が非常にスッキリしておりわかりやすい。
エピソードも政策の中身にページを深く割くものではなく、
あくまで小泉元首相のスタンス、手法を主眼においた上で
取り上げられておりブレが少なく感じる。
個人的には「時間軸の短さ」という語が印象的だった。
こうした態度がなければこれほどまでに名を残す首相には
ならなかったんだろうなぁ。
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劇場政治
トップダウン型政治決定
時間軸の短さ
道路公団民営化
不良債権処理
医療制度改革
郵政民営化
田中真紀子 vs 鈴木宗男
自衛隊海外派遣
中国韓国北朝鮮拉致
アメリカよりの政治 国力が低下した