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文藝春秋のエッセイ連載を纏めただけの本のわりに大仰なタイトル。せめて本として出版するのだからはじめにやあとがきくらいあっても良い気がした。時事問題に対する著者の視点も目新しいものは感じられず共感も少ない内容でした。
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☆3(付箋10枚/P253→割合3.95%)
歴史のチカラ。ヨーロッパの多様性を長い歴史を通じて見て来た著者の言はとても含蓄がある。だけど、それも結果から見れば運命のように思われるけれど、始めたときは必然では無かったそう。そういうものなんですね。
・今では多くの人が、イタリア・ルネッサンスや古代ローマの歴史を書くことは塩野七生の天命とでも思っているかもしれない。ところがその「天命」なるものは、娘時代の自信の無さをどうにかしなくてはという想いで始めた数多の悪あがきの結果にすぎないのである。
(試験されると落ちるので、一人ならば落としようもない)
・書類選考は通ったらしく、面接には進んだ。小さな会社だったので、面接は社長自らが行う。それで聞いてきた。英文タイプはできるか。私の答えはノウ。速記はできるか。それへの答えも否。社長は言った。いったい全体、あなたは何ができるのか。若かった私は、ニッコリして答えたのだ。六か月の間私をお使いになれば、おわかりになります、と。
これで、落ちたのである。だが、落胆もしなかったし、ましてや人格を否定されたなどとは少しも思わなかった。帰宅して報告したら、母が笑いながら言ったのだ。月並みでないあなたを月並みな男が採ったとしたら、そのほうがおかしいわよ。
・仕方なく、私のほうから「職」を作ることにしたのである。アルバイト先だった会社、絶対に私などは採用しない大会社の会長に、直接に談判したのだ。これまでに私がその会社のためにしてきたヨーロッパのモード情報を集めて送る仕事を、イタリアで続けさせてくれと言って。
その人とは一度だけ会って話したことしかなかったのだが、当時は経営の神様と評判の人であっただけに言うことが鋭い。
日本にいてもやれる仕事をわざわざイタリアへ行ってまでやってもらう理由は見いだせないと言う。だが、つづけてこうも言った。イタリアに行きたいほんとうの理由は何ですか。
このときくらい、イチかバチかと思ったことはなかった。それで私は、相手の眼をじっと見つめて答えたのだ。ほんとうは地中海を、自分の眼で見たいのです。そうしたら、実力会長だったこの人は即断した。あなたへの費用はハンブルグ支店の雑費から出すのです。だから、わが社のことなどは気にしないで、地中海を存分に見ていらっしゃい。
・未曽有の国難に際してて、勇気さえあれば「禁じ手」でも使えるという利点がある。EUの共通通貨の仲間にイタリアは入れないと、ドイツ連銀が強硬に主張していた頃の話である。
国の借金が多すぎるというのが理由だが、ときのイタリア政府の財務大臣は、中央銀行の総裁も勤めた人で、この人と首相が決断した。イタリアにあるすべての銀行口座から、預金の0.05%を徴収する、と。
・まず、50歳以上は「産地表示」すらも気にしない、で行ってはどうか。今さら放射能のちょっとやそっと、とでも思って腹をくくるのだ。ソクラテスやレオナルド・ダ・ヴィンチを持ち出すまでもなく、人間が人間である由縁は、どう死ぬか、ではなく、それまでをどう生きていくか、にある。
・日本��は誰もが疑いもせずに使っている言い方に、官僚を使いこなす、というものがあるが、私には不思議でたまらない。「使いこなす」なんて、ずいぶんと失礼な言い方だと思う。
・疑心暗鬼に駆られたあげくに立ち止まってしまい、後から来る人たちに押しつぶされて死ぬか。それとも、危険を避けながらも走り続ける力は自分にだってあると信じて走り出すことで生きるか。
・もう一つ心に残ったのは、私たちはお願いする立場ですから、という言葉だった。あの未曽有の大災害に耐えてきた人々に、お願いする立場ですからなんて言わせて、心が痛まない日本人がいるのだろうか。
・第一は、早急な解決は期待しないこと。この想いで焦ってしまうと、誰一人、どの国、として満足しない結果で終わり、いつか再び問題が再発するのは眼に見えているからだ。
第二は、軍事力を脅しに使っての「押しくらまんじゅう」は、戦略戦術として利口なやり方ではない、ということ。もしも日本までがそれをやったら、欧米は日本に失望するだろう。韓国や中国には失望される危険が少ない理由については、読者の想像にまかせたい。
・8年ほど前だったか、2ヶ月かけてヨーロッパ中を旅していた息子から、ブリュッセルで売っていたという一枚の絵葉書が送られてきた。「パーフェクト・ヨーロピアン」と題され、EU参加の各国人を絵つきで並べて評したものだが、作者がイギリス人だけに、痛烈な皮肉にあふれている。つまり、完璧なヨーロッパ人とは、
イギリス人のように、料理をする人
ドイツ人のような、機知に富んでいる人
フランス人のように、車の運転をする人
イタリア人のように、自制心のある人
ベルギー人のように、進取の気性に富む人
フィンランド人のように、おしゃべりな人
オランダ人のように、カネ離れがよい人
スウェーデン人のように、柔軟性に富む人
ルクセンブルグ人のように、注目を浴びる人
スペイン人のように、控えめな人
ポルトガル人のように、技術大好きな人
ギリシア人のように、組織力のある人
オーストリア人のように、忍耐力に富む人
アイルランド人のような、酔っぱらわない人
とまあこんな具合で、8年前ですでにこれである。その後も参加国は増える一方だから、統一政策を立てるのも大変なのだ。まるでイタリアのマンションの住民会議みたいで、そのEUが全会一致で決めた政策となると一つしか思い出せない。喫煙は自宅内にかぎり外では厳禁、がそれである。ブリュッセルにいるEU官僚たちは、ノースモーカーばかりにちがいない。
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【すべての叡智は、歴史に通じる!】3・11大震災、ユーロ危機、指導者の目まぐるしい交代――危機に対峙するには何が必要か? 『日本人へ』シリーズ、待望の最新刊!
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日本で活動している方で、このぐらいはっきりと物を言う方もいないのではないかと思う。福島の瓦礫の受け入れについても、日本人の姿勢について、おかしい!と断言していて、私もそう感じていたことなので、溜飲が下がった。
ローマやギリシャなどの歴史を深く知っているからこその説得力のある話が続き、とても勉強になった。やはり自信をつけるには勝つしかないと若者へのアドバイスも深く胸に響いた。歴史をしっかりと学び、現代社会で働き、生きていくことに活かして、しっかりと発言、行動していける社会人でありたい。
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・12/7 読了.比較的最近の著書でちょっと前の政情が題材になってるからスラスラ読んでしまった.イタリアの情勢にはあまり興味は無いが、日本に向けての提言には外交面も含めて興味深いこともあった.でも他のシリーズ2作は読まなくてもいいかな.
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ローマの歴史を熟知した上で、日本の様々な問題について筆者の鋭い見解が述べられている。エッセイ風だけれど、複雑な事柄を深く熟孝してきちんと言語化できているからさすがだ。
*若者のやる気のなさは負けへの怖れから→勝って自信を持つべし
*競争相手のいない分野を狙う
*想像力を自由に羽ばたかせたいと思えば、母国語にまさるものはない
*拒絶されることへの反応が過剰過ぎる
*上からの圧力に立ち向かわず左右に逃す
*イイ顔になってる人はイイ仕事をした人
*自分一人でやれるとは思わないこと。年を重ねれば自然の勢いで、自己生産能力が低下する。若手の能力を見透かし起用。
*「働かないのも疲れるもんなんだよ」
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いちばん格好イイお姉様のひとり、塩野七生氏による文藝春秋のコラム集第3弾。2010年5月号から2013年10月号までというから、ずいぶん最近のものが収められている。
イタリアの多くの歴史を俯瞰し、どっぷり浸かって書き進めた著作が示す通り、彼女の現代を見る目は、冷徹で鋭く、それでいて熱い。イタリアと日本をただ比較するのとは違い、特質にあった対処法や指針を明確に示しているところに多くの共感が集まるのだろう。
そして、ここに彼女の作家としての特質が見て取れる。
すなわち、小説家ではない、というところに尽きるように思う。
塩野氏の評価と讃辞を集めてあまりあるカエサルを主人公とした小説を、なぜ彼女は書かなかったのか。
本来、歴史書であれば、誰かに肩入れすることなく、冷徹に、事実のみを、という姿勢が必要なのだろう。そこへ行くと、先述の通り、カエサルへの肩入れは尋常ではないし、同時代人として有名なキケロに対しては、あれれというほどに情けなさを浮き立たせた書きぶりが「ローマ人の物語」ではみてとれる。
このスタイルをデビュー当時に司馬遼太郎が評して曰く「歴史小説でも歴史研究でもないその中間」とのこと。人のいない道を突き進んだのである。それすら、娘時代の自信のなさからくる悪あがきの結果に過ぎないのだから、がんばって欲しいという、「若者たちへ」のエール。この方の年齢を考えれば、もしかしたらわたしだって「若者たち」に入れてもらえるのかも知れない。
様々な事柄について書かれているため、わたしのレポもとりとめもなく流れていくおしゃべりになったが、このことは一つ書き加えておこう。
日本人の英語教育も、どんどんと早期化していくようだが、イタリアに住んで長い塩野氏とて、やはり思考は母国語である日本語で行うのがいちばんだという。すなわち、母国語の豊かさが、思考の豊かさになるというもの。
言語そのものが豊かであると共に、その習得具合の豊かさもまた、思考を支える一柱となる。日本語以外――会話に不足のないイタリア語を話すことですら、ストレスになるのだともいう。
別に外国語習得が必要ないといっているのではない。ただ、以前の日本のように、足元の豊かさを見失い、踏みにじるようなことがないように、とだけ気をつけたいと思ったのである。
他サイトより転載
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塩野さんはほんと読ませてくれます。読んで面白いだけでなく、必ず考えさせられる。そこが良いですね。衆愚政治は一人一人の声が大きくなったからだという意見は、特に考え込んでしまいました。
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戦争は、血の流れる政治であり、外交は、血の流れない戦争であるから
危機の打開に妙薬はない。ということは、人を代えたとしても目覚ましい効果は期待できない
ユダヤ教の法とは、法に人間を合わせる考え方であり、反対にローマ法は、、人間に法を合わせる考え方になる
軍隊は国際政治の駒なのです、そして、駒になりきることこそが、軍隊の健全さを保つ上での正道なのです
今や、敵と味方の区別が簡単ではない時代になった。この荒海で舵を操っていくには、見方さえも冷静に分析する視点が必要ではなかろうか
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短編エッセー集。筆者のウィットに富んだ、且つ専門家でない部分でも思いっきりスタンスを取る姿勢に微笑ましくなりながら読む。
日本人にはずる賢さが足りない、とか危機感こそ重要、という根本的な主張は多くのエッセーに共通しており筆者の強い気持ちを表しているものなのだろう。
軽い気持ちで隙間時間、気分転換に読むにはいいが、優先順位を高めてまで読むほどのものではないので星3つ。
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塩野七生の「日本人へ」第3段。
太平洋戦争を体験し、イタリアという異郷の地から、日本を眺めている彼女からの、祖国へのメッセージです。
東日本大震災からあとの日本を、危機ととらえていて、政治力の欠如をなげいています。
終章に、明治維新が成功したのは、改革者がイデオロギーにとらわれなかったこと、かれらを動かしたのは危機意識であったことをのべています。
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「日本人へ 危機からの脱出篇」塩野七生著、文春新書、2013.10.20
253p ¥893 C0295 (2024.03.02読了)(2019.07.16購入)
「文藝春秋」に2010年5月号から2013年10月号まで掲載した分をまとめたものです。日本とイタリアを行き来しながら日本のことイタリアのことをあれこれと述べています。時々「ローマ人の物語」「ローマ亡き後の地中海世界」「十字軍物語」「海の都の物語」で書いたことを援用しながら書いています。
【目次】
Ⅰ
「スミマセン」全廃のすすめ
民主党の圧勝を望む
車文化のちがい
日本には、本当の情報は届いているのか
若者たちへ
なぜ人々は、マスコミから離れるのか
ほか
Ⅱ
今こそ意地を見せるとき
ぶつかるよりも、逃がしてはいかが
遊びのすすめ
つぶやき
ローマから、日本を想う
一愛国者からのささやかな願い
ほか
Ⅲ
スポーツとバトルの間
善政の例
イタリア式メダル獲得法
危機を好機へ
そして、誰もおカネを使わなくなった
民主政と衆愚政
ほか
☆関連図書(既読)
「ローマ人への20の質問」塩野七生著、文春新書、2000.01.20
「日本人へ リーダー篇」塩野七生著、文春新書、2010.05.20
「日本人へ 国家と歴史篇」塩野七生著、文春新書、2010.06.20
「海の都の物語(上)」塩野七生著、中公文庫、1989.08.10
「海の都の物語(下)」塩野七生著、中公文庫、1989.08.10
「ローマ人の物語Ⅰ ローマは一日にして成らず」塩野七生著、新潮社、1992.07.07
「ローマ人の物語Ⅱ ハンニバル戦記」塩野七生著、新潮社、1993.08.07
「ローマ人の物語Ⅲ 勝者の混迷」塩野七生著、新潮社、1994.08.07
「ローマ人の物語Ⅳ ユリウス・カエサルルビコン以前」塩野七生著、新潮社、1995.09.30
「ローマ人の物語Ⅴ ユリウス・カエサルルビコン以後」塩野七生著、新潮社、1996.03.30
「ローマ人の物語Ⅵ パクス・ロマーナ」塩野七生著、新潮社、1997.07.07
「ローマ人の物語Ⅶ 悪名高き皇帝たち」塩野七生著、新潮社、1998.09.30
「ローマ人の物語Ⅷ 危機と克服」塩野七生著、新潮社、1999.09.15
「ローマ人の物語Ⅸ 賢帝の世紀」塩野七生著、新潮社、2000.09.30
「ローマ人の物語(27) すべての道はローマに通ず」塩野七生著、新潮文庫、2006.10.01
「ローマ人の物語(28) すべての道はローマに通ず」塩野七生著、新潮文庫、2006.10.01
「ローマ人の物語Ⅺ 終わりの始まり」塩野七生著、新潮社、2002.12.10
「ローマ人の物語Ⅻ 迷走する帝国」塩野七生著、新潮社、2003.12.15
「ローマ人の物語(35) 最後の努力」塩野七生著、新潮文庫、2009.09.01
「ローマ人の物語(36) 最後の努力」塩野七生著、新潮文庫、2009.09.01
「ローマ人の物語(37) 最後の努力」塩野七生著、新潮文庫、2009.09.01
「ローマ人の物語ⅩⅣ キリストの勝利」塩野七生著、新潮社、2005.12.30
「ローマ人の物語ⅩⅤ ローマ世界の終焉」塩野七生著、新潮社、2006.12.15
(アマゾンより)
3・11大震災、ユーロ危機、指導者の目まぐるしい交代――危機に対峙する��は何が必要か? 『日本人へ』シリーズ第三弾!
「3・11」 直後に執筆された「今こそ意地を見せるとき」では、 〈未曾有の国難は、新旧世代の交代にはチャンスでもある。戦争どころか、戦後も知らないと言う世代には、これが「戦争」であり、この後にくるのが「戦後」だと言いたい〉 〈耐えるのはよい。だが、背筋を伸ばし、視線を正面に向け、毅然として耐えて行こうではないですか〉と日本人の姿勢を問う。
大震災に原発事故、民主党から自民党への政権交代という国内問題に加え、EU危機やローマ法王のバチカン問題など、世界中が揺れ動いた時代に向けた、歴史に裏打ちされた深い考察が光る。