研究のフロンティア
2007/09/19 22:20
8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紙魚太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
20世紀、ローレンツ、ティンバーゲン、フリッシュらにより動物行動学が確立された。彼らは刷り込みや餌付けにより人に慣れた動物の行動を間近に観察することで多くの業績を上げ、その後の動物行動学の礎を築いた。猿に関しても今西錦司らを祖とする京都大学チームが自然、飼育下にある猿の行動をつぶさに観察、記録することにより大きな業績を上げた。その後、野生動物の行動を観察することとゲーム理論との比較によって多くの知見がもたらせられる。バイオテレメトリーの発達により対象は鳥類にまでも広がった。しかし、それはあくまで人間が直接観察できる世界に限られていた。魚類でも多くの行動観察をもとに様々な理論が作られたが、その多くは沿岸域の定着性の魚類に限られていた。海に住む多くの生物の生態は依然として、その大部分が謎なのである。考えてみればおかしな話だ。何万光年も離れた宇宙空間の様子が高精度の望遠鏡や観測装置でわかるようになり、それまでの惑星形成理論を覆すような太陽系外惑星の存在が明らかになる。宇宙という広大な空間から見れば塵のような惑星についてさえ仮説とそれに対する検証が行われる時代だというのに、大海原を生活にしている大部分の生き物たちについて観測をもとにした検証を行うことが難しい。海は宇宙という気の遠くなるような距離より厚いベールを人間に突きつける。本書はその謎を会間見ようとあがき続ける一研究者の、面白くもおかしい苦闘奮戦の記録の一部である。その行動を直接見ることができないウミガメやペンギン、アザラシに様々な記録装置(データロガー)を装着し、そのデータから彼らの行動の一端を明らかにしてゆく。本当に面白い。仮にペンギンの刷り込みに成功したとしても人間はペンギンと同様に深く潜り、早く泳ぐことはできない。各種記録装置によるデータ解析は隔靴掻痒の感はあるが、その隙間からみえてくる海洋生物の生態の多様さには、読者はみんな驚くべきである。また、アザラシの装着に関し日本の研究でも厳しい倫理委員会が設置されていることも一般啓蒙書としては始めた目にした。以前「死体に付く虫が犯人を告げる」で、厳しいアメリカの倫理規定に感心した身としては、南極のアザラシに対して行われた取り決めに、なぜかほっとしたのである。しかも、このハイテクが人間の日々の労力というローテクに支えられている現実。カミオカンデや、スバル、ゲノム、グレープなどのビッグプロジェクトだけでなく、このような、先にどのように使えるかわからない博物学的なデータを集めるという基礎研究にもなにがしかの予算が組み込まれていることはとても嬉しい。これが億単位ではなく数十億単位であったなら、日本もまだまだ捨てたもんじゃないと安堵できる気がするのだが。先端の研究は、それが基礎であれ応用であれ、理論であれ、実験であれすべてがフロンティアである。巻末の著者のおばあちゃんの意見もなかなか鋭い(どんな家庭だったのだろう?)。筆者の若い世代へのエールが行間から聞こえてくる好書である。難点をあげるとすれば題がやや長いか。著者の意気込みを買って「携帯圏外、ハイテク動物行動学」なんてどうだろう。これも長いかな?
投稿元:
レビューを見る
面白い。7章はちょっと違うのではないかと思いますが本としてのできもよく楽しめました。最後の最後も山他方が良いかも。
投稿元:
レビューを見る
水生動物に対して計測機器を取り付ける「データロガー」という手法を用いた研究の生物学的意義について熱く語られる本。ペンギンやアザラシなどの極地に生息する動物の話が多く、極地での研究の過酷さや苦労話が随所に鏤められていて楽しく読める。これまでヒトが水生動物のことを如何に知らなかったのか、そして、それがデータロガーの登場により少しづつ明らかになろうとしている様にはわくわくさせられる。優秀な機器メーカーの存在もあり、日本がこの分野では他国よりやや先んじていているというのは少し意外だったけれども、どうやらヒトにとって海の中というのは未だにフロンティアなんだな、と思わせる一冊。
投稿元:
レビューを見る
名前の通りの本で、主に南極におけ著者のペンギンとアザラシについての研究とその過程での試行錯誤が書かれている。
本題は恐らく7章で、バイオロギングというハイテク博物学が誕生したということと、
一見不必要に思えるようなこういった研究の意義が語られている。
また、最後には具体的な研究の内容から離れ、個人の手柄と責任を明確にすることがプランを成功させる方法であると説かれている。
まあペンギンとかアザラシの話が退屈しない人なら面白く読めるはず。
投稿元:
レビューを見る
生物学、博物学の世界が楽しい。
素人にとってわかりやすく、興味深い内容になっている。
調査、データの重要性を再確認した。
投稿元:
レビューを見る
アザラシは落下する、ペンギンは浮かび上がるなんて「へーっ」でした。自然科学の本はなかなか面白いというのが、最近の発見 :)
投稿元:
レビューを見る
題名から予想した内容とちょっと違ったけど面白かった。南極でのデータ採集の様子など、分かりやすく興味を引く。写真が多くていちいちカワイイ。ペンギンわさー!!
ペンギンは益鳥か?というおばあちゃま。アムンゼンを知らない学生。新しいモノを作る時に必要なもの。
投稿元:
レビューを見る
専門性に富んだ研究であり面白かったので☆4つ。
データロガーという最新の機器を用いることにより、海洋生物の新たな生態を調査した結果が載っている著書です。アザラシやペンギンを中心に南極での研究活動がどのように行われているのかわかります。タイトルは最後の方にでてくるグラフと完璧に結びついていて一本取られた感じがした。
投稿元:
レビューを見る
とても面白いです。研究という職業にとても興味がわきます。最後の方に話が大きくなりすぎて、どうかなと思いましたが、あとがきはとてもすばらしかったです。
投稿元:
レビューを見る
これは面白い‼ 娘に読ませようともう1冊購入したのですが、興味無し!理系の人なら最高とおもうのですよ!
投稿元:
レビューを見る
東大海洋研の准教授の佐藤克文先生の本。
前に情熱大陸にも出てた(のを見たことがあったのだが、同一人物だと気づかず、本のほぼ終わりで気づく)。
ウミガメやペンギンやアザラシにデータロガー(速度計、加速度計、カメラ etc. )を取り付けて研究を行っている。
このようなデータロガーを使った研究は、バイオロギングサイエンスと名付けられているそうだ。
本では、データからわかった、「ウミガメ(爬虫類)は実は恒温動物である」といった研究成果が紹介されている。生物学の学問上の分類はよく知らないが、おそらく動物行動学や動物生理学に関する成果で、高校レベルの物理の数式を使ったりしてわかりやすくまとめられている。
科学的成果だけではなく、南極へ幾度も足を運んだ経験から南極での生活の様子や、データロガーを動物に取り付ける際の苦労話などが、各章の最後にコラムとしてまとめられていたり本文の中にも散りばめられていて、これだけでも十分に楽しめる。
と、本の内容で十分に薦められるのだが、さらに素晴らしいと思ったのが、あとがきに書かれていた、主に将来研究者となる若者へのメッセージである。特に、「なんでも鑑定団」での鑑定家の中島さんの言葉の引用が印象に残ったので、以下に紹介する。引用の引用になってしまうが。
将来鑑定家になりたいというその中学生に対して、鑑定家の中島誠之助さんが、実によいことを言っていた。曰く、「中学生のうちから将来なりたい職業を限定せず、よい本を読んで幅広く勉強してください。すばらしい青春時代を過ごしたあとになお骨董の道に進みたいのであれば進んだらよい。この鑑定家の席はいつでも明け渡す用意がある」といって忠告していたのである。
この言葉に全て詰まってるよな、という気がした。小さい頃からの夢を叶えるために真っ直ぐ進んでいくのは素晴らしいことなのだが、小さい頃の夢なんて身の回りの数少ない選択肢から選んだものに過ぎない。固執し過ぎずに視野を広く持つことはそれ以上に重要。
生物系の研究者、フィールド系の研究者がどういう風に研究活動を進めているのか知れるので、多分野の研究者が読むと面白いかな。地球物理だとフィールド系の研究者が結構いたので割と近いのかもしれませんが。
ちなみに、タイトルにはクジラが出てくるが、中身にはほとんど出てこない。キャッチーなタイトルなら他にいくらでも付けられそうなので、別のタイトルにすればよかったんじゃないかと他人事ながら思ってしまった。
--
北極のアザラシはきょろきょろする→ホッキョクグマ
探検家
息子 博物学
投稿元:
レビューを見る
南極研行きたいな…!まじで。
内容を簡単にまとめる
爬虫類=変温動物
鳥類=定温動物
は嘘!
■ウミガメは定温動物
ウミガメは代謝熱によって体温を保つ。これはウミガメの体積の大きさ(体積あたりの表面積が小さいこと)によって、体温を一定に保つことが容易であることが主たる要因である。(たぶん、ミドリガメなんかだと変温なのではないかと、書いてないけど)
定温動物であることのメリットは、昼夜や季節の違いによる外界の温度変化とは独立して一定の活動を続けることができるということ。
ただし体温は水温より1,2度高い程度なので内温性は低い。
■ペンギン(鳥類)は変温動物
ペンギンは潜水を繰り返すことにより、腹腔内(胃の中)の温度を10度以上下げる。(体温もそれにともなって多少下がる)
体温を維持するために酸素を大量に消費するとなると、多くのエネルギーが必要とされるが、ペンギンのような動物においては、餌のある深いところでの長時間の潜水が必要とされるため、体温を一定に保つのは効率が悪い。
そのため、潜水中にひれを動かすのに必要な筋肉の温度を維持するためだけにエネルギーを消費して、腹腔内の体温維持にはエネルギーを割かない(結果として体温は下がる)戦略をとる。
ていうか定温動物ってのは体内全体の温度を保つ動物っていう定義なのかな?これからいくと。知らん。
■ペンギンはグライディング浮上する
ペンギンは前ひれを動かすことなく浮力のちからのみで浮上する。これは浮力から重力を引いた上向きの力と、進行方向の逆方向の抗力と、つばさを広げたことによる揚力のバランスによるものである。
また、ペンギンは潜る前に潜る深さを決めておいて、それに応じて水面で空気を吸い込む量を調節している。メリットとしては、体内の空気量(浮力の大きさ)に応じて、中性浮力(浮力と重力が釣り合う状態)に達する深度が異なるため、事前に餌を探す深度を決めて潜ることによって、その深さでの餌とりに使うエネルギーをできるだけ少なくしている。
■アザラシは落ちていく
アザラシの場合はペンギンとは逆で、深いところに潜水するときには脚ひれの動きを停止し、浅いところへ浮上するときにはひれを懸命に動かす。これはアザラシがある程度重量のある動物であることが要因である。アザラシの場合、潜水を開始する際に空気を吐き出し、浮力を小さくして、重力の力により水中を「落ちて」いく。
また、この現象はアザラシの肥満度にも左右される。やせたアザラシの場合、グライディングで潜行し、浮上の際には脚ひれを動かすが、太ったアザラシの場合、潜行と浮上の両方においてストローク&グライド泳法(数回ひれを動かし、数秒間惰性でグライディングする)を行う。これは脂肪含有量によって、効率のよい泳法が異なるからである。(太っている場合、体の密度が海水とあまり変わらなくなる)
■アザラシが潜る理由
アザラシがもぐるのは、ひとつには餌取りのため(南極では深度250m程度が最も餌が多く、こ��あたりを目指してアザラシ潜る。なお、この程度の深度にもっとも餌が多く存在することは、これまでの知見とは異なる)また、子どものアザラシは5m程度の深度でちょこちょこと潜水を繰り返すが、これに付き添うようにして母アザラシが潜水を行うのが見られる。
■ペンギンについて
ペンギンの行動は、外敵の有無や環境の要因によって緻密にコントロールされており、そこにはペンギンの社会性がうかがえる。ちょっとこのへんは細かいネタが多くて若干まとめにくいです。
ただ、ペンギンがなぜあんなにも長い時間潜っていられるのか?というのはまだわかっていないのね。(23分!)それはすごく興味深いです。
■多くの動物の遊泳速度は一定である
つまり、体のサイズに左右されない。
これは、動物の種にかかわらず、筋肉はたんぱく質からできており、その素材に大きな差はないと考えられるため、そのもっとも効率的な収縮速度がすべての動物でほぼ一定だうからだと考えられる。
■バイオロギングとは
バイオロギングとは、「人の視界や認識限界をこえた現場において、動物自身やそれを取り巻く周辺環境の現象を調べるもの」であり、その多くはハイテク機器によって支えられている。著者の考えとしては、この分野は比較的博物学に近い。
投稿元:
レビューを見る
科学の基本はやはり観測にあるんだなぁ、と再認識させてくれる本。
中学生くらいの頃に読んでたら人生変わってたかもなぁ。
投稿元:
レビューを見る
著者は、東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センター准教授の佐藤克文氏。
バイオロギングサイエンスと呼ばれる分野における著者の研究成果がまとめられた本である。バイオロギングサイエンスとは、細かい定義は別にして簡単に言うと、野生生物にカメラや速度計・深度計などの記録装置をつけて日頃の動物たちの行動を研究するというもの。ウミガメの体温変動から始まり、ペンギン・アザラシへと広がっていく著者の研究内容とその成果は常識を覆すようなものばかりで非常に興味深い。研究成果などというと小難しいことが書かれているように感じる人も多いだろうが、全くそんなことはない。説明にはグラフが用いられているから数式は登場しない。したがって数学は殆ど不要。さらに、とてもわかりやすい文章で説明がなされているので安心して読むことができる。
そして、この本に楽しさをプラスしているのは、研究の過程で起こった出来事、舞台裏での苦労話などがあちこちに散りばめられているところ。現場での研究者と動物の間に起こるハプニングなんかは非常におもしろく、次は何が起こるのか、わくわくしながら読む事ができた。
タイトルに出ている「ペンギンもクジラも秒速2mで泳ぐ」話は最終章でやっと登場するのだが、読んでいて著者がどんな思いでタイトルをつけたのかに気付いた時は正直、感動してしまった。ただ単に研究成果を一般向けに書籍化したというのではない。もっと根本的な事、研究とは何かということまでひっくるめて、著者の思いが詰まった一冊。
これは、読まなきゃ勿体ない!
投稿元:
レビューを見る
■この本を知ったきっかけ
小飼弾『新書がベスト』で紹介されていた。
■読もうと思ったわけ
なんとなく面白そうだったので
■感想
科学的な話も面白いのだが、南極での生活の方が個人的には面白かった。