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紙の本
ひょっとしてこれは11月に文庫本になった池宮彰一郎『天下騒乱ム鍵屋ノ辻』のアイデアではないか。タイトルまでつまみぐいして、きちんと「原案」程度のことわりはするのだろうね。
2005/12/12 16:46
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
毎年の正月2日にテレビ東京で10時間の時代劇ドラマが放映されている。豪華キャストで金もかけているし、筋立てもおおむねはすでに知っているお馴染み系で、はなやかな見せ場がいくつも用意されているから通しで見ていなくとも楽しめる。うつらうつらとほろ酔いながら観るには格好の番組だ。
今回は『天下騒乱〜徳川三代の陰謀』だという。中村獅童の柳生十兵衛が家光暗殺を阻止し大活躍するお話しばかりかと思っていたら、それだけではなくて最近でははやらなくなった荒木又衛門の仇討ち、決闘鍵屋ノ辻がコアになっているようだ。
ところでカタキウチと言われてわたしがすぐに思い浮かぶのは。
ますテレビのなかった子供のころの「花見の仇討ち」という落語。この面白さは敵討という武士階級にのみ許された公認の私闘を庶民が笑い飛ばすところにある。モウキノフボクウドンゲノ、この口上はいつまでたっても忘れないものだ。「盲亀の浮木、優曇華の花咲きえたる今日の対面、いざ尋常に勝負、勝負」。
それと落語だけでなく講談でも有名な決闘「高田馬場」。忠臣蔵番外編。中山(堀部)安兵衛は大方の庶民にとって身近な英雄として迎えられている。あれはノンベエで長屋住まいの素浪人だったからであろう。これは天に代わって悪逆無道を懲らしめる痛快活劇のジャンルにある仇討ちです。
大人になってわかってきたのが、親のかたきを討つのは一貫して子の義務との儒教の教説にもとづいて 武士道の勇武、忠義の尊重などを鼓舞する幕府公認の、制度としての敵討ちでした。たいがいのオハナシが殿様から武士道の鑑であると許可状ををいただき勇んで国元を旅立った未亡人や遺児が敵を見つけることができず、気持ちも萎えて身を持ち崩し落魄の運命をたどることになる武士道残酷物語でした。
そしてこの36人斬りで知られる剣豪荒木又衛門だ。荒木又衛門が義弟の渡部数馬を助け武士の美学を貫き死地に赴くオハナシ。伊賀上野鍵屋ノ辻の白鉢巻きに手裏剣を束ねた勇姿が映画の記憶にもあります。残酷系ではなかったが子供の時から親しんできたこの仇討ちにはいま思えば庶民性はありませんでした。が、わたしにとっては痛快活劇のカタキウチでした。
ところでこの作品はこれまでのカタキウチものとはひと味もふた味も違う。まさか荒木又衛門にこれほどの奥深い大人向けの背景があったなどとまったく知りませんでした。忠臣蔵が幕府を告発する仇討ちならば、これは幕府が仕掛けた敵討ちなのです。池宮彰一郎の独自の発想なんでしょうね。びっくりしました。
まだ戦国混乱の延長で政情が不安定な幕府開闢間もない時代である。いつ戦乱の世に戻ってもおかしくない。幕府としては天下騒乱の芽があればなんとしてでも早めに手を打たねばならないところだ。そして家康の三河以来の家臣団・旗本と関ヶ原の戦い以降に徳川についた外様大名の抗争がいま一触即発の状態にあった。直参旗本と外様大名の抗争に終止符を打つべく。徳川権力の中枢が仕掛けた政治的謀略が進行する。柳生宗矩、柳生十兵衛、大久保彦左右衛門とこの時代に欠かせない人物も登場する。幕府側謀略の仕掛け人は土井利勝。わたしはあまりなじみのない人物なのだが、土井の隠された出自についての作者のアイディアもなかなかのものでした。
池宮彰一郎 『天下騒乱ム鍵屋ノ辻』。 せっかくだから正月までに読んでおいたらいかがでしょうか。
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