紙の本
罪の欠片。
2003/08/29 12:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オレンジマリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
文緒さんの醍醐味。この、軽快のようでぐっと切なさが押し寄せるような文章。日常であり得る身近な犯罪を、文緒さんらしく描いている。
本書は短編集で、私が気に入ったのは次の三つである。
ブラック・ティー、百年の恋、寿。
最初、ブラック・ティーとは紅茶の種類か何かだと思っていた。ところがそれは薔薇の種類で、とても高価なものだという。主人公は常識から外れ、山手線で忘れ物を盗んで生計を立てている。でも、そういう生活スタイルになるまでには苦痛や怒り、哀しみを味わっているのだ。先輩からミスを擦り付けられ、恋人には裏切られ、実際大金の入った自分の荷物を電車で盗まれ…。怒涛である。それでもやはり社会に背を向けないよう主人公なりに努力をした。凪ぐのを心待ちにして。
自分も周囲の女性のように、退職して結婚して子供産んで、普通のおばさんになるんだと漠然と思っていたのに…。
そしてブラック・ティーの花束を網棚から取り、下車する。すると男性に声をかけられ、花束の事を訊ねられる。泥棒だと確言され、主人公はそれをあっさりと認める。なんとも潔い。そもそも常識なんて、どこから発生したのだろうと考えた。
百年の恋、その言葉を何度か耳にした。本や映画、あるいはテレビドラマ。イメージとしては一途で、前世から因縁めいた繋がりがあるというものだ。
それを念頭に置いて読んでみる。主人公の恋人は潔癖と言える。男性がエロ本を読んだりAVを観たりするのを疎ましく思い、トイレの後手を洗って食器を拭くための布巾で手を拭うことを非難し、立小便は軽犯罪だと嘆く。そして意外と、そういうふうに神経質な人ほど、指摘されると安易に崩れてしまう。キセルだって立派な犯罪だ。それを棚に上げて恋人は捲し立てるのだが、主人公はそんなことを気にしないほど寛容である。頼れそうな人ほど、脆いものはないと思う。私もどちらかと言えば頼られる側であるから、切にそう思う。
幸福の絶頂、まだ味わったことはない。幸福というものは、それこそ人によって姿を変える。ベッドの中であったり、結婚式であったり、入手困難なものをゲットしたときだったり。ろくに連絡も取り合わなかった友人を招き、結婚式を盛大に行う。そこに昔捨てた恋人の姿を見て、幸福感は薄まる。そしてその人を連れてきた張本人に罵られ、確固たる信念は突き破られる。幸福への執着心、それは恐ろしいものである。笑顔で祝福しているように見えて、何を考えているのか。それでも主人公は、極上の笑顔を、幸福を振りまかなければならない…。打ち砕かれた幸福はさぞ眩しいだろう。
文緒さんの作品はどれも馴染み易い。恐らく、多くの女性が抱える闇を浮き彫りにしているからだろう。知らないうちに心の隅で芽生えた、微弱な闇。あり得ることを描いている。文緒さんの描く主人公は、痛くて切ない。共感できる何かを備えている。もっともっと咀嚼したいと思わせる。だからやめられない。
投稿元:
レビューを見る
大好きな山本文緒さんの短編集。
軽犯罪を題材にしたテーマ短編です
誰にでも起こりうる問題かもしれない・・・
投稿元:
レビューを見る
紅茶の話だと思っていたのだが、表題のブラック・ティーというのはバラの品種らしい。
収録されている10の作品、あるあるとうなづける部分が多いのだが、でも自分があんまり認めたくないドロドロした部分だったりするわけで、イタイところつかれますなあ。(2002.6.8)
投稿元:
レビューを見る
ちょっとした軽犯罪がテーマ。サクサク読めてしまう短編集。物語の展開の仕方が独特ですごくお気に入りの一冊になりそう。すごく身近で起こりがちなお話ばかりで、親近感を沸かせながら読めた。だけど普段罪だと感じないような罪ってたくさんあるんだなあと少し考えさせられる本。
投稿元:
レビューを見る
ショートストーリーなんだけど、1話1話読み終わるたびに『う〜ん』って唸るものがあった。
仕事で失敗して、働く意欲を無くした主人公が電車の中の忘れ物を盗むことで生計を立ててる話、結婚式の当日に親友だと思ってた子から本当の気持ちを聞かされても幸せな花嫁を演じなきゃいけない話。物忘れの激しい主人公の希薄な人間関係の話など・・・。
終わり方はそんなに悲劇的な内容ではないけど、自分がこのシチュエーションになったときの事を考えてしまった。
ありそうでなさそうな内容にちょっとドキッとしてしまった・・・。
投稿元:
レビューを見る
ふとしたはずみで犯してしまう、
ちょっとした罪や不道徳な行いをテーマにした短編集。山本文緒の短編集は数多くありますが、私はこれが一番好きです。
特に第六話・「誘拐犯」が深く印象に残っています。
投稿元:
レビューを見る
あたしはあたしは。山本文緒がだいすきで。山本文緒に出会ってからは山本文緒の本しか読まなくなって。ほぼすべての作品を持っていますが、一番ブラックティーのなかの「ニワトリ」がすきです。まるで自分のことみたい。
山本文緒の小説にはちょっと危ないひとが沢山出てきますが、すべての人がそういう部分を内側に秘めているから、共感できるんだろう。あたしにもあるよ。そういうとこ。
投稿元:
レビューを見る
嘘をつく、借りたものを返さない、きょうだいの持ち物を壊す、キセル、電車の網棚の忘れ物を盗む…等々軽犯罪をテーマにした短編集。客観的に見ないと、自分では気が付かないことが人を傷つけているんだと気付かされる「寿」「少女趣味」「ニワトリ」に重みを感じる。
投稿元:
レビューを見る
人間にはこういう部分が少なからずある、と、思う。残酷というか、ひどく冷めてるというか。だから愛しい。だからこそ愛しい。
投稿元:
レビューを見る
誰でも犯してしまう事があるのかもしれない軽犯罪が題材
山本文緒さんの作品は結末の書き方が独特というか特長で、読者に委ねられるような感覚を受けるのもまた魅力だと思う
この結末をどう受け取りますか?
投稿元:
レビューを見る
私が今、もっとも好きな作家さん。
ブラックティーと言うバラは私も育てていて
内容も分からずタイトルで選んだものですが
短編にしてこれほど中身の濃い一冊は初めてです。
誰しもが遭遇して、そして行って仕舞い得る軽犯罪。
こんなこと絶対しないわよ!なんて
完全否定出来ずドキドキして読みました。
あとがきも面白かったし・・・。
やっぱり山本文緒好きです。
投稿元:
レビューを見る
様々な人の犯した「罪」がテーマの短編集。それは嘘であったり、軽犯罪だったり。でも罪を犯した人も一生懸命生きている。主人公や周りの人間の心をまっすぐに表現していて、また暖かみのある作品だと思います。
投稿元:
レビューを見る
読んだはずの本なのに、読み返してみると面白かった。なんで忘れてたんだろうな??今、読む。ということがピッタリだったのかもしれない。この作品は人が知らないうちに、または知りながら犯している軽犯罪をテーマに様々な短編集が入っています。これ、また思い出したら読んでみよう。
投稿元:
レビューを見る
ブラックティーって英語では「紅茶」のことなんだよね。。と考えて、この表紙の色に納得。でも、本の中で「ブラック・ティー」はバラの名前。今回もまた短編集。内容は軽犯罪。キセル・置き引き・窃盗からもっと身近な嘘とかまでいろいろ10話。これを区切りにしばらく山本文緒さんの作品から離れようと思った。きっとまた戻ってくるけど、しばらく時間が必要。でもいつもどおりよくまとまっていてい読みやすかった一冊。読んでよかった。
投稿元:
レビューを見る
誰にでも思い当たる軽犯罪を題材にした短編小説。
誰だって純粋でもなく賢くもなく、善意でもないが、ただ懸命にいきているだけ。
この一文はやられた。