投稿元:
レビューを見る
饒舌でめくるめく作品世界の毛布を纏える文体かと思えば、ジャン=リュック・ゴダールの編み出した「ジャンプカット」の手法を取り入れたかのような『Tシャツ』まで。読者は著者が描く物語の眩しすぎるほど荒々しく輝く断片を両の目に叩きつけられるように提示され、軽い盲状態に陥るかのよう。しかし目が慣れてきた後に眼前に広がる作品世界に驚きと喜びを持って受け入れるのだ。
著者の持ち味である不条理な設定と現実の世界とは、もうあまり差異がないように思えてくる。木下古栗が作り出した世界の裂け目はすぐそこにあり、もはや我々読者は裂け目から向こう側へ移住している。救いようのない茫漠たる荒野が広がっていようとも、この本のこんな一文が乾いた希望を持たせてくれる。
「どう生きたって結局は苦しいことしか残らない世の中、たとえ束の間の夢であれ、こんなに気持ちのいいことがある。これがあればどうにか絶望をごまかしごまかし、余生を全うできそうだ。」
まだまだ木下古栗とは切っても切れそうにない生活が続きそうだ。
投稿元:
レビューを見る
一時は読み始めたことを後悔しかけたが、収録された三篇を読み終えた時には「消費税増税前にこの本を読んで、本当によかった」と思い直していた。
投稿元:
レビューを見る
全国の書店員を苦笑させた「本屋大将」作家・木下古栗、その新刊。
今作も全く人間性を感じさせない淡々とした描写を駆使して、IT社会に潜む闇、薄れ行く人々の繋がり、そして消費税増税という現代日本が直面する社会問題に、ギンギンに研ぎ澄まされた言葉のナイフでズカズカと斬り込んでくる。しかし斬り込むだけ斬り込んで切りっぱなしなので、こちらの傷口はもう、膿んで爛れてグッチャグチャである。
前作から2年半、待った甲斐があったというもの。と言うか、早く全集とか出してくれ。消費税10%でも買うから(多分)。
投稿元:
レビューを見る
今まで読んだことのないタイプの小説。激しすぎるストーリー展開に、完全に置き去りにされているにも関わらず、気が付くと逆に引き込まれていました。帯にあった「中毒します」は本当でした。
投稿元:
レビューを見る
戦慄に嗤た。最初、戸梶圭太ぽいとおもったがもっとタチ悪いわ!
「IT業界~」がスキ。あたしも時々、場違いなオンナをあぁしてやりたくなるから、とってもスッキリ♡ 妄想飛び越え、いつか自分もやってしまうんじゃないかって後味残る。いろんな意味で、マジ戦慄小説。
投稿元:
レビューを見る
やばい…この人はやばい……小説を読んで「やばい」しか感想がない、ってなかなかないことだけど、しかしやばい。
前から「頭のおかしそうな人いるな」と思って気にはなっていたのですが、やっと読みました。結果、樋口毅宏からかっこよさを抜いたかんじというか。舞城王太郎からさわやかさを抜いたかんじというか。会田誠の再来というか(まだ生きてます)。
まちがいなく馬鹿なんだけど、これこそが文学かも。とかいって違うかも。ただ、すごいくだらないことを書いてるのに上品なかんじがするのが見どころかなと思う。
友達が「こんなの書いた」と言ってもしこれを持ってきたなら「うん、いつか大物になる気がする!でもちょっと、店におけるかどうかは…店長にきいてみないと…ちょっと場所がないかも…ちょっと今忙しいから…」って逃げたくなるような、でも友情を誇りたいような、捨てたいような、でも次の日なんか気になってゴミ箱から拾っちゃうような作品。
いや、面白かったです。
投稿元:
レビューを見る
強烈!
先日「群像」で、「わかるだろう? 云々なやつは云々されて然るべきだ」という唐突な展開にくらくらさせられて気にかかっていた著者。
この本でも、くっだらないことくっだらないことを積み上げて積み上げてガラガラと崩落させる!
「IT業界 心の闇」
「Tシャツ」
「金を払うから素手で殴らせてくれないか?」
どれにも社会情勢への怒りという観点をほのかにただよわせながら、実はそんなんどうでもいいというあっけらかんさ。
どこからどうしてこんな作者が生まれてくるものやら。
たぶんよく言われるように中原昌也の系列。文体は筒井康孝か。
しかしもっと突き抜けた感触もあって、帯で岸本佐知子のいうとおり、パースペウティヴの狂いが変な読後感をもたらす。
投稿元:
レビューを見る
分かるとか分からないとか、腑に落ちたとか落ちなかったとか、それらに一切頓着しない。
次々と展開していく世界にただただついて行くだけ。
投稿元:
レビューを見る
最高級の迷作。新作落語とアメリカンジョークと文学とをリミックスしたような作風だ。一行先の展開さえも分からないイリュージョンが、息をつかせぬ勢いで展開されていく。
3作品すべてが面白かった。
特に、文化的な住宅街にアメリカ人が来るところから始まる、大河中編小説『Tシャツ』は絶品です。まち子ラップは必見です。
投稿元:
レビューを見る
短編集3編。
消費税増税に反対しての自殺!とは、なかなか着地点の見えないままに引っ張り回されての落ちにびっくりした。
投稿元:
レビューを見る
刺激的な題名に惹かれて手に取りました。
独特のテンポで進む話し。最初は小気味いいって思ったけど、ちょっとついていけなくなちゃった。やっぱ、年はとりたくないね。
投稿元:
レビューを見る
この小説はなんと表現したら良いのだろう?
難しいことは私にはわからない。
ただ、また読みたい。もっとこの木下古栗という人の作品を読んでみたい。
そう思わせるこの気持ちは、…たぶん…アレ。
表題作『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』を含む、それぞれに個性的な3作品が収められている。
『IT業界 心の闇』
「今ではすっかり浮世の荒波に揉まれ(勿論、その間には幾人もの殿方に~)」で、心を掴まれた私は変態かもしれません。
えぇ~!さ、咲子!そうだったのか!ってか、えっ!えっ!どうした、時江ぇぇ…!
『Tシャツ』
…ハワードいつのまにか帰国。
『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』
ツラツラツーラとひとつの文章が長かったり(しかし、なんだろうこの読み心地の良さは)、2ページの間に、同じ文章が2度使われていたり(重要だから2度言った?)、一人だけ名前の出ない、いるのかいないのか存在感の薄~い人物が語り手(?)だったり(だからといって、その存在感の薄さに理由はないようだ)、なんとも奇妙な、感覚を刺激する文章。
作品どれもが深いのか浅いのか、皆目見当がつかない。が、心にガツンとくるものがある。
投稿元:
レビューを見る
正しいかわからないけれど、アバンギャルドという印象。松田青子さんとか日本の現代文学の文字・世界の混沌な感じ。(アメリカの創作課程系が20cm浮いた世界なら、日本は言葉・文字のカオスだと思う)
投稿元:
レビューを見る
簡潔な文が矢継ぎ早に畳み掛けられ、驚くほどポンポンと強引に話が進行。置いてけぼりにされないようテンポに乗りつつ、笑いを楽しむ感じの本でした。まち子の連発面白い。ただ個人的には物語がある方が好きで、ナンセンスというのもよく分かっていないので、特に表題作は内容のなさに途中で飽きてしまった。好みが分かれそうな本。
投稿元:
レビューを見る
「IT業界心の闇」どころの騒ぎじゃない話、神話的叙事詩のようで正反対なような「Tシャツ」、米原が米原を探してみんな巻き込んで右往左往する「金を払うから素手で殴らせてくれないか?」の3作所収。なんだこれ? 「ポジティヴシンキングの末裔」も読んでみるつもり。