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おろおろ草紙というタイトルが、この作品集全体の内容をとてもよく表している。
何が悪いわけでもなく、誰かのせいでもなく、かといって虚無感に襲われるというのでもなく。ただ、何かがあって、そういう状況の中で右往左往して、それでも、ただ、生きて。
流されているというわけではない。ぼんやり生きているというのとも違う。
状況は壮絶だ。ばたばたと人が倒れていき、「死」がごろごろしている状況だったり、一歩違えば生死の狭間であったり、そして、他人を喰わないと自分が死ぬ状況だったり。
とても日常的とは言えない。むしろ、地獄のような状況だ。しかし、それなのに、人はどこまでも人で、それ以上には決してならない。また、世界が奇跡を起こすこともない。時間の流れも人の能力も、どこまでも変わらないまま、ただ、淡々と季節はめぐり、冬が終われば春が来る。
人は生きる、しかしそれと同じくらい人はどこまでも死ぬ。
そんな状況を静かな筆致で描写するこの本の作者、三浦哲郎さんは、6人兄弟の末っ子だそうだが、この5人の兄・姉たちのうち、なんと4人が自死、あるいは失踪しているそうである。
人は死ぬ、しかしそれと同じくらいどこまでも人は生きる。
少々読み通すのは辛い本だったものの、そんな生い立ちを持つ作者のあとがきが印象的だったので、読む際はぜひあとがきまで。