紙の本
おどろおどろしい感がするが産霊山、<むすびのやま>と読む。30数年も前に書かれた半村良を代表するSF伝奇小説である
2006/04/18 17:00
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近ではあまり読むことがなくなったサイエンスフィクション(SF)も少年時代には空想科学小説と呼ばれジュール・ヴェルヌ、H・G・ウェルズやコナン・ドイルに夢中になっていた。
エドモンド・ハミルトンやE・E・スミスの宇宙大活劇を読みあさったこともあった。やがて、ちょっと小難しいアーサー・C・クラークやアイザック・アシモフの宇宙創生、宇宙年代史といった叙事詩ものに興味を覚えていた頃に日本のSFの名作が幅広いジャンルで開花を始めた。
その中には宇宙の誕生から現代にいたるまで森羅万象をつかさどる「巨大な力」を「神」「創造主」あるいは「宇宙の意志」と擬人化して人類の運命を左右するという当時としては、とてつもないスケールと想像力でびっくりさせられたものがあった。たとえば小松左京の『果てしなき流れの果に』と光瀬龍『百億の昼と千億の夜』がそうだった。ただその発想の奇抜さが記憶に残っているだけであらためて読み直してみたいとは思わない。
ところが半村良のこの作品はSF的手法では同系統にありながら、あきらかに人間の普遍的苦悩を基本テーマにして心打たれる思いがした異色作品だった。
ほとんど筋書きを忘れてしまっていた作品だったが読み返してみてあらためてその突出したエポックメーキング的傑作性を感じた。
『古事記』巻頭の天地創造。高天の原にある高皇産霊神。その神の子孫と信じられた「ヒ一族」。彼らは国家動乱期に歴史の裏舞台に登場し、鏡・玉・剣の三種の神器による超能力(テレパシー・テレポーテーション)によって平和を求めて行動する。
「物語は戦国の世、織田信長の比叡山焼き討ちから始まり、関ヶ原、幕末、太平洋戦争、そして戦後の混乱期へと四百年の時を越える。」
全国各地の民間伝承を巧みに織り込んだ伝奇歴史小説の傑作でもある。
万民のために平和を希求する天皇の守護神として生まれた彼らはやがてそのために世俗権力と結びつかざるを得ない。そして新たな殺戮の時代が生まれる。彼らは挫折しまたよみがえるが、現代にいたるまで庶民の安寧ははかない夢と化すのだ。いやむしろ彼らの働きがこの世のさらなる地獄を招く結果となる。庶民が救いを求め、祈りを捧げる「神」はいったい誰なのか。食うか食われるかの大競争時代の今この冷酷な現実感覚は多くの人の共通認識であろう。
私は半村良が作り出したこの広大な宇宙観、世界史観に感嘆するのだが、半村良の値打ちはそれだけではないことに気づかされた。この非情世界にあってなお庶民のたくましさを描き、夢を追うことをあきらめないことへの賛歌を高らかにうたいあげている。それが半村良のやさしさなのだと。
四百年の時を越えて現代に移動した「ヒ一族」少年のラストの祈りには我々が忘れてはならない力強さが込められている。
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日本の伝奇小説の第一人者。歴史の影で暗躍する一族の物語。ここから恩田陸の遠野物語に繋がるものも感じます。
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確かこれも中学か高校の頃に読了。これがキッカケで日本史好きになったようなもの。
明智の血縁関係とか、銀座線がなぜ日本で最初に作られたかというエピソードに感動し、友達に切々と説いていたっけ。馬鹿だったなあ。
どれもこれもムチャクチャな話ではあるが、だからこそおもしろい。これを映画とかドラマ化したらたぶん台なし。
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2012/08/28:歴史の裏で暗躍する特殊能力者一族の話。ツッコミ所は多々あるものの戦国時代からアポロ計画まで出てくるスケールの大きさに引き込まれました。
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厨二病時代の1冊を30年ぶりに再読。今でこそありふれたアイデアに思われそうな内容だが、むしろこれが元祖だろう。約40年前に書かれた伝奇SF小説の時代劇。とにかく発想の豊かさとアイデアは当時としては革新的。今現在において似た作品が存在するとしたらそれらは全部これの真似だと思う。
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破天荒。痛快。戦国、幕末、昭和に関する基礎知識があれば楽しめます。
文庫一冊に収まるのが残念な気もする。それくらい終わるのが惜しく感じられた。
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先年、集英社より再刊されているのは、気づいていた。出張先の横浜は日吉駅の書店で積み上げられているのが目に留まる。おお、これならば読み返せそう。
頻度は多くなかったが、これまで復刊されるごと、幾度となく読み返してきたもの。今回、そのインターバルは長く、ストーリの詳細は頭から抜けきっていた。今の年齢で再読してみても、やなり超特の面白本との感想に変わりはなし。本能寺の変の意味付けを天皇制の擁護としたのは、本書が嚆矢ではなかったか。そういやあ、只今の大河ドラマも同じだった。
SF小説が現在よりも更にマイナーなジャンルだった頃に、SFの定番的手法を網羅して綴られた時代・伝奇小説であり、尚かつ大衆小説としても成功した希少な例でありました。
(2006年記)
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好き。 〈ヒ〉一族は凄いねんけど、意外に呆気ないねんなぁ・・・。『仮面の忍者 赤影』的なんを想像してたんやけどなぁ・・・。 実在するのかどうか知らんけど「ヒ」に絡めた地名はオモロイ。希望としては卑弥呼まで遡って欲しかった。 教科書程度の有名な歴史上の人物を知ってて超古代文明とか好きな人にオススメ。 物語に関係無かったけど作中に登場する、名前に『東大寺』が隠れてる『蘭奢待(らんじゃたい)』を検索したら実在してたのでビックリ。 ここで『藤堂』を持ってきたか!と感動した。
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表紙のイラストを見た時には、一瞬読むのをやめようかと思ったが、諦めてしまわなくてよかった。
章は戦国時代から始まり、以降、江戸、幕末、昭和と下っていく。
中盤辺りまで読み進めるまでは、あまりに奇抜なごった煮感にいささか面喰らい気味だったが、終いまで読めば物語がきちんと一つの連環のなかに収まり、完結していることが分かり、カタルシスを得る。
とにかくスケールの大きな着想によって描き切られた作品だ。
歴史小説、伝奇物としての側面が、SFという輪郭で包まれているような。
また、作品が発表された1973年という当時の時代性も強く映し込まれている。
高度経済成長が終わりを迎えようとしており、その代償として、公害等の様々な問題も広く表面化していた頃。
国外に目を転ずれば、宗教観の対立と石油利権争いに端を発する中東戦争はお馴染みとなり、また完全に泥沼化していたヴェトナム戦争から生まれた厭戦ムードが伝播して、ヒッピーに代表されるライフスタイルが若年層の間に沈殿しつつあったであろう。
そういった時代背景も合わせてこの小説を懐古してみると、より理解は深まるのではないだろうか。
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[ 内容 ]
はるか古代から続く「ヒ」一族は、国が動乱期にさしかかると、特殊な能力を使って危機を救ってきたといわれる。
その能力とは、御鏡、依玉、伊吹と呼ばれる三種の神器を使ったテレパシー、テレポーテーションであった。
物語は戦国の世、織田信長の比叡山焼き討ちから始まり、関ヶ原、幕末、太平洋戦争、そして戦後の混乱期へと四百年の時を越える。
歴史の襞の中で動く「ヒ」一族を圧倒的スケールで描くSF伝奇ロマンの傑作。
[ 目次 ]
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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本能寺の変、関ヶ原、幕末、太平洋戦争と、約400年もの時をまたぐなんとも壮大な伝奇SF。
「ヒ」というサイキック忍者一族が、日本(世界)の歴史を動かしていたという設定が、多くの伏線を回収し、別の意図を浮かび上がらせていくさまは痛快。
下の巻、鼠小僧の「江戸地底城」と坂本龍馬の「幕末怪刀陣」が好み。