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小説『悪人』吉田修一著(朝日新聞)を先日読了。
殺人事件がどうやって起こったか、そして犯人は誰か?
こう書くと何の変哲もないただの犯罪小説だと思うだろう。
しかし、この小説はそんな類のものでないというのが最後まで読んで初めて気がつくのだった。
殺人事件が起きた舞台は福岡市と佐賀市を結ぶ国道263号線、背振山地の三瀬峠である。
登場人物は短大を卒業し保険の外交員となった佳乃、裕福な旅館の息子で大学生の増尾圭吾、長崎市の郊外に住む土木作業員の祐一、紳士服の販売員の光代である。
そして彼らを取り囲むように配置された友人や父母、祖父母などである。
保険外交員の女性が殺される。
彼女はその夜、モテモテ男の大学生とデートすると行って出かけたが相手は出会い系サイトで知り合った土木作業員の男。
友だちにはみえをはって大学生とデートすると嘘をつく。
このみえからでた嘘と現実の食い違いが殺人を招くことになる。
殺人犯のそれからを追っていくうちに加害者と関わりあっていく女性たちをからめて話は加速していくのであるが、いつも視点は登場人物自身であるところがこの小説を常にニュートラルにしている。
つまり誰が『悪人』かというきめつけるようなまなざしがないのである。
常にその登場人物側から物語りは語られている。
ひとは一つの事件が起きるとその結果から犯罪にたいする罪を判断しようとする。
しかし、ことのあらましをあらゆる角度からみることなしに裁くことはそれこそ「罪」である。
昨今のワイドショーや新聞の記事から我々は事件を知ったような気になる。
しかし、それはほんの少しの情報から得た判断をもとにワイドショーの記者や新聞記者が記事にしたものであることを知るべきだろう。
それを証拠にすぐ判断は二転三転する。
そしてそれにしたがって我々読者、視聴者の判断も二転三転するのである。
昨日犯人だったものは今日は無実の人として「独占インタビュー」などと銘打って放映されたりする。
そんなマスコミのあり方に一石を投じた小説ともいえよう。
それと同時に我々の真実を見る力、判断力にもである。
陪審員制度ができるとなるとそれこそ単眼的物の見方、思考のありかたは大きな問題点となる。
マスメディァに対する読者、視聴者の複眼的思考のレベルアップと批判精神を忘れてはいけないことも示唆している小説であった。
また恋するチャンスも場もないまま、ただ無為に働いて一日が終わってしまう若者が出会い系サイトにアクセスする気持ちや、豊かでない暮らしの中、地道に生きていく人たちを丹念に描いていて、そうした視点から社会を見たとき、「豊かさ」と呼ばれるものの空虚さを描き出した作品でもある。
「悪」というものの種はどこから生じるのだろうか。
そして「悪人」とは一体どんな人をさすのだろうかを問う小説であった。
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登場人物それぞれのストーリーが長くて、全体の流れが切れる気がする。だから、最初はそれになれてすいすい読めるまで時間がかかった。
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タイトル『悪人』と帯に写る妻夫木聡の悲しげな怒りを含んだような表情に惹かれて手にとった。
三瀬峠で殺されたOLがついていた見栄を張るための嘘、その嘘が彼女を苛立たせ、醜くしていることに気づけない。
彼女が殺されたことは他人事じゃない気がした。
福岡、佐賀、長崎と懐かしい空気に包まれて一気に読めた。
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感情移入しているのかどうかの実感なく、こんなに泣かされたのは初めてだ。後半、本を持つ手が震えていた。
読み進めるうちに、登場人物の印象をぐらぐら揺さぶられる構成もまた醍醐味。戸惑いつつも、ぞくぞくした。
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一気読み。詳細な描写・・・人物、視点、九州北部の空気感がよく出てリアリティーを感じる。
誰が悪人なのか・・・?下巻へ続く。
2010/3/11(70-15)
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妻夫木くんの金髪の理由はコレか。
女の見栄の張り合いから始まって、誰が「悪人」なのか翻弄される。
すごく読みやすい。
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なんたら賞受賞の傑作長編って書いてましたが、面白いのは面白いですがそこまででは無いと思います。
最後にちょっとモヤモヤする感じが残りました。
本当の悪人がそのままのうのうと暮らしているのがこの世の中なのでしょうか?
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今まで何回も挫折して、文庫になったから再度挑戦。後半にかけて続きが気になるようになって来た。下巻はどうなるかな?
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今度映画化するらしいですね。
吉田修一らしい(?)独特のアンニュイ感を感じた。
下巻を読んでみないと何とも言えないが、映画じゃこういう心理的な悲しみとか虚無感とかは表しにくいんじゃないかなと思った。
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~内容(「BOOK」データベースより)~
九州地方に珍しく雪が降った夜、土木作業員の清水祐一は、携帯サイトで知り合った女性を殺害してしまう。母親に捨てられ、幼くして祖父母に引き取られた。ヘルス嬢を真剣に好きになり、祖父母の手伝いに明け暮れる日々。そんな彼を殺人に走らせたものとは、一体何か―。
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最初は今ドキの恋愛をモチーフにしたサスペンスだと思っていたし、
登場人物の誰をも好きになれなかったけれど、読み進むうちに印象が違ってきた。
孤独を抱えた人間は、時として間違いを起こしてしまうのかもしれない。
悪人は環境が作る魔物なのだ。
最後に救われた思いがして、読み進んでよかった。
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ミステリーのつもりで読んでいると、単なるミステリーじゃないと途中で気がつく。
舞台は九州。登場人物は全員方言を使っている。
吉田修一は、人間の書き方が深い。出てくる全ての人間が、どこにでもいそうな人物で、ひきこまれる。噛みしめるように読んだ。
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映画化され、主人公の殺人者が妻夫木聡。上巻を読んだが、映画予告の「いったい誰が悪人なのか」が気になり、下巻で新たな展開が期待できる。
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吉田修一の中では最高かも
ミステリー?恋愛?これのジャンルはよくわからないけど
テーマがわかりやすい!悪人とは誰なのか
誰かと語りつくしたくなる
崖っぷちに追いつめられるとはまさにこのことか
ぽにょ
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許されないことをした祐一が愛しくて仕方なかった。
殺人は、逃亡は、どうしたって正当化してはいけないことで。でもきっとわたしも、光代と同じようにしてしまう。そうありたいとさえ、思ってしまう。
「わたしはこんな女じゃないのになぁ…」って戸惑いながら、相手の弱さも罪も受け止めたいと願う、そういう女のやわらかさ、広さ。
彼女の母性と身勝手が、自分のことみたいに理解できる。
>>下巻