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村田沙耶香さんの本はすべて読んでて、全部好きです。新刊出るたび一番面白い作品が更新されて、今作はなかでも(私的TOP3はタダイマトビラ、マウス、ギンイロノウタ)さらに好きにな作品だ。村田さんの作品すべてに統一するテーマは性。そして大きく分けると純文学とYAになる。これはYAにあたる。
小学校と中学校の二部作に分かれる。
初潮が訪れる女の子が増えていく年頃。ニュータウンに暮らす谷沢結佳は種類の違う女の子三人組。若葉はおしゃれでおとなびている。信子はぽっちゃりでダサい。幼いながらも女子特有のひみつごっこや、確執はあり、そんなのにうんざりするなか結佳は習字教室で伊吹陽太と会話が増えるようになる。
伊吹は小柄で子供、女子から男としてみられない嫌味のない人気者。幼いながらも性に敏感な結佳は伊吹に舌を絡めたキスをする、何度も。うぶで純粋な伊吹にはそれがなんなのか分からない。
場面が変わり中学校。
結佳は初めて伊吹と同じクラスになる。若葉と信子とも同じクラスになる。クラスの中のカースト制度は立派に確立されており、伊吹は上位グループの一員で小柄だけどサッカー部の副部長とあり女子から男として見られる人気者。結佳は下から二番目のグループ。若葉は一番派手なグループ。そして信子は一番下の地位。
結佳とは伊吹に無理やり、自分のものであるという証拠を残すように唇を重ね続ける。それがなにかわかる年頃であり、関係は変わりながらも続いてて、伊吹を独占したくて、けれどランクが違うことを意識してしまう結佳と、そうではない伊吹は思うようにはいかない。さらに性に目覚め、目まぐるしい中学校生活で--
ほんと息苦しくなった。
わたしはそういう下位にはいなかったけれど、痛いくらいに分かるなにかがあって、伊吹が真っ直ぐで、痛いくらいに正し過ぎて、涙を抑えることができなかった。こういうヒーローはいるんだよね、どこにでも。伊吹はヒーローだ、間違いなく。純真無垢な残酷すぎるヒーロー。クラスにカースト制度があることにも気付かず、どんな人にも優しく分け隔てない伊吹の態度は残酷すぎる。みんな伊吹を好きになるのはあたりまえだ。
うまく説明できないのがもどかしいけど、ずっと手元に残しておきたい一冊。人間関係とか格差とか、そういう周りの評価を気にしてしまう、または気にした過去のあるひとにはぐわっと掴まれるのでは。
今年刊行された小説で一番は同じ著者のタダイマトビラだと思ってたけど、これも素晴らしいなぁ。これから村田沙耶香さんどんな風に進化していくんだろうか。怖い。怖いけど楽しみ。もっと驚かせて脅かせて欲しい。
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書評家藤田香織さんのオススメ本は外れが少ないんだけど、そのツイート見て買い、読み終えたけどなんかずっしり疲れて痛くてすごい良かった。
スクールカースト題材の話って結構あるけど、その中でもなんというか、特別な感じ。
ちょっとくらくらする。表現出来ない。
いい年してもまだ、カースト意識しまくりの自意識過剰なわたしが20年後にこれ読んだらどう思うんだろうなぁ
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「伊吹は私のおもちゃなんだから。」
なんて言いつつ同級生の男の子に無理やりディープキスする小学4年生女子の図は、結構すごい。
でもそれを「異常」だと切り捨てられないのは、自分でもどうして良いかわからない行き場のない感情をそういう形でしか表せない彼女の姿があまりにも切実で、胸に迫ってくるから。
学校では人気者の男子・伊吹と、目立たない女子・結佳。
でも陰では彼女が彼に命令して、支配している。クラスで地位のある子がない子を言い様に扱うのならわかるけど、それが逆っていうのが興味深い。
キスの仕方さえわからないのに、ひたすら彼の唇を無理やり奪う。ぶつけようのない気持ちが、伊吹を独占したい気持ちが、どんどん捻れて歪んでいく。
ただ伊吹が健全過ぎるのが、気になる。
どこまでもまっすぐで、正しくて。健全過ぎて、何だか少しうそ臭い。
あれだけ結佳に散々色々されたにも関わらず、まったく彼の人格形成に影響を及ぼしてないなんておかしい。
二人の関係のどこかで、彼にも壊れて欲しかったなぁ。
「『伊吹は私のおもちゃだもん。だから、いつ触ってもいいの。そうじゃないとだめなの』
私は掠れた声で言いながら、伊吹の制服のシャツに手を伸ばし、その裾を握りしめた。
『おれのこと嫌いなの?好きなの?』
『だいっ嫌い』
呟いた私は、そのまま伊吹を引き寄せようとした。伊吹の力は強くて、今までみたいに簡単にこちらに吸い寄せることはできなかった。
『じゃ、駄目だよ』
伊吹はもう私の思い通りになる小さな男の子ではない。子供の頃は身体だけは自由にできたのに、それもできなくなっていく。
私は伊吹の熱に触れられない指を、骨が痛むまで強く握りしめた。」
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読んで気持ちがいい話ではない。
むしろキモチガワルイ!
だけど読んでしまう。そしてムカムカしてキモチワルイ。
なぜか?お話的には思春期のころのあの意味の分からない“上”“下”のグループとか、性的なあれこれなんだけど、
大人になった今でも同じ感覚を思うことが多々あるから。
そして書かれていることの気持ち悪さは
自分にも当てはまる気持ち悪さだから、
読んでしまうのだ。
ムカムカするのは図星だからだ。
そして思う。
ちっとも変わってなくて、相変わらずイヤなヤツだな、あたしって。
でもそれを自覚していることが、
そして同じ想いを共有している人がいることに
なんだかほっとするのだ。
この気持ち悪い感覚をこうも的確に、
そして多彩な言葉で綴る作者の表現力にただただ脱帽。
積極的に“いい本だよ”とは薦めがたいけど
私は好きな一冊。
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綿矢りさ『蹴りたい背中』に似ていると思ったが、こちらの方が性的に生々しい。主人公の機微がよく描かれていると思う。読みやすいけど読み応えがあった。
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女がよめば自分の中学時代を思い出す。
どこにでもあるような女の子の世界。
主人公の女の子の隠されたわがままさや攻撃的な感じに好感が持てた。
文章にくせもなく読みやすくてさらさらと読めた。
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見事に少女の心を書ききっている。圧巻だった。
そのあまりのリアリティに自分の子供時代の思いと主人公の結佳の気持ちがないまぜになって、読めば読むほど苦しくなる。
辛い辛い小説だった。
誰もがきっと経験したことがあるのではないだろうか。
子供は決して無邪気で純粋なんかじゃない。
幼いなりに、いや幼いからこそその未熟さから、残酷になるのだ。
小さな世界でぐらぐらと危うい自分の居場所を必死に守るために、他人を傷つける。その痛みに気付かないふりをする。
結佳と正反対の性格を持つ幼馴染の伊吹は、まるで太陽のような存在。結佳の心の描き方から見ると、純真無垢に過ぎる気もするがここまで突き抜けた存在ではないと物語が成り立たないのだろう。
これも作者の意図するところか。
現実の小学生、中学生は結佳のように冷静な行動なんかできないし、毎日を過ごすのに必死になっていると思う。
ましてや伊吹のように救いとなる存在なんていない子供たちが大半だろうと思う。
でも伊吹じゃなくてもいい、小説でも、音楽でも、アイドルでもなんだっていい。自らを肯定し未来へと進んでいく勇気を何処かで見つけてくれることを願ってやまない。
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ベッドタウンとして開発が進む東京都下のニュータウン。同じような一戸建てが建ち並び、団地が広がるその向こうには、まだまだ工事現場のような荒地の風景が広がっている。次から次へとやってくる転校生の流入で、季節ごとに規模が大きくなる小学校。そこでクラスメイトとなった少女と少年のその後が、痛く鋭く描かれる。
小学4年生の時点でも、その後に亀裂を生む格差意識や優劣の感情の種は心の中に埋め込まれていたのだ、、、
作品途中からは出だしのストーリーから4年後、中学2年のクラスで起きるグループの上下関係といじめなど、自意識過剰な中学2年生たちの日常が主人公女子の目から描かれる。
自らの美醜にこだわる自己嫌悪が外へ向かうとき、内部で発する熱はいびつな形でかつての「おもちゃ」へと向かうのだった。
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作者と、題名に惹かれて手にした本。
中学生の性と自意識を、的確にとらえていると思う。
新しい街の白さが、骨の白さと重なり合う感覚は、映像的な印象を残す。
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途中までは良かった。
正直胸が苦しくなり、泣けてくるほどだった。
「あの頃」特有の感情、と言いますかね。
自分を取り巻く全てがぶっ壊れてしまえばいいと思いながら、それを「誰かがやってくれる」のを無意識に待ってしまう狡さとか。
自分の全てが醜く感じられたり、傍観者であろうとする姿勢とか。
体の中に渦巻くコントロールしきれない「黒」とか。
まぁ、もろもろ。
でも最後がいただけない。
内容ではない。
救いはあっていい。
表現の仕方っつうかな……。
セックスを音楽、てどうなの?
恋する気持ちを吐瀉物とまで書いてくれてるのに、セックス、オナニーが、音楽とか、神秘的な儀式とか。
そこだけが肌に合わず、気持ちがスッと冷めてしまった。
自分や他人の体と向き合うのは素晴らしいと思う。
でもそれは、情けなくて、しょうもなくて、みっともない、馬鹿げていて愛しいものなんではないかと個人的には感ぜられる。
信子ちゃんを「美しい」と思った主人公が、ただ単に綺麗綺麗な表現でそれをするのが、なんか違うんでないかい、と。
滑稽でカッコ悪い、そのものとして受け止めて。でも尚!
なーんてなってくれてたら良かったなぁと、思いました。
まぁ、作者の個性なのかな。
仕方ないか。
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30年ほど前に教室にいた私にも、覚えのある教室の中の身分のランク・・・これを痛烈に感じ、それを支える自分ごと拒否している主人公を、作者はどこへもっていくのか。。。
いつしかひきこまれて、そして、読み終わった。
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第二十六回三島由紀夫賞受賞作。「女の子」から思春期の「少女」に成長して行く女子の変化とその年頃のもやもや感、鬱積する感情、まだ大人になりきれない未熟で残酷でそれでいてどこか純粋な心模様を表現している。今よく聞く「スクールカースト」のようなクラスメイトたちの関係は私が思春期の頃はこのように顕著ではなかった。しかし時代は変われど常に女子には友人でありながらライバルでもあるクラスメイトとの人間関係、すべてに対して鬱々とした感情、自分への劣等感を持つ時期ーー思春期ーーというものがあるのだと思った。
著者は開発途上のニュータウンという登場人物たちの環境と感情を絡ませながら、少女の感情を綴っていく。思春期のもやもやとした感情はなかなか表現しにくいものだが、著者は驚くほど的確に言葉で表現し、小説していると感心する。女性でなくては書けない小説だ。
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村田沙耶香はいやらしい。人間関係、そこに渦巻く感情の醜さ、肉体そのものの醜さ。そんな人間の醜さを丁寧に丁寧に描き出していく。「気持ち悪い」小説であるが、それと同じくらい「美しい」。結末の神々しさは川上未映子『ヘヴン』を思い出した。
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タイトルと表紙に何故かずっと惹かれてた。
三島由紀夫賞を受賞したと知って読んでみる事にした。
小学生から中学生にかけての複雑な思春期時代。
結佳の矢吹への歪んだ思い。おもちゃにしたいなんて。
そのままもてあそばれる矢吹も幼かったが、
さすがに中学生になって、そうもいかなくなる。
冷めた結佳の思考が少し恐ろしかった。
自分でもどうにも出来なかったのだろうが。
大人すぎる考えに体がついていかなかったのかな。
いや、その逆なのかもしれない。
不思議な女の子だ。
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今年の三島賞受賞作。
女性作家版スクールカースト。「桐島、部活やめるってよ」と違って、小学校の頃からの5年あまりの関係性を描いている。
こうやって、共学の小中学校のヒエラルキーを俯瞰的かつ繊細な女子目線で描かれると、とても新鮮で発見が多い。しかし、やっぱり僕には、この主人公の早熟すぎる他人への視線や、好きな男子に対する支配的な欲望を「理解」できないばかりでなく「懐疑」をおぼえてしまった。少なくとも自分はこのような女性に会ったことがない。それは、自分の対人関係が狭いだけなのだろうか?
女性作家の描く「色彩」や、自分の肉体を感情に溶け込ませる能力に関しては、川上未映子の文章に対して感じた美しさと同様の種類のものを作者にも覚えた。女性は全身で感じ、呼吸している。自分の骨が壊れたり軋んだり成長が止まったり・・・僕には無縁だが、男性が自分の肉体に対して感情的に自覚的なのは、せいぜいそのマッチョさぐらいではないか?と思ったりした。官能性の性差、みたいなものをふと考えてしまった。