紙の本
ほんとうの豊かさと、郷愁
2010/11/09 23:41
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikimaru - この投稿者のレビュー一覧を見る
台湾の上流階級で大家族の一員として生まれ育った著者は、二十歳のころ日本にやってきた。ピアノの才に恵まれ音楽を学びながら、台湾人の夫とのあいだに生まれた長男とともに暮らした日本。だがわずかな年数での離婚ののち、台湾の実家に帰ることなく、日本で息子を育てる決意をした。そのとき彼女の力となったのは、幼いころから大家族のなかで身に叩きこまれていた、料理と味覚だった。
1986年に文藝春秋から出版された、実に見事なエッセイである。最近になって作家の林真理子氏が思い出話として絶賛し、古本として入手した編集者が感銘を受けて24年ぶりに文庫化されたのだそうだ。
著者の家は料理屋でも宿屋でもないのだが、郊外に何十人もの家族がゆったりと住める大きな邸宅を構えており、中国の風習にしたがって、訪れた客にはかならず「食事が済んでいるか」という挨拶をして、いつ何時でももてなしてきたという。そして母親は(体力のいる豚はともかくとして)鶏くらいは首をはねて血を抜くところから料理ができなければ恥ずかしくて娘を嫁に出せないと、著者の上の姉たちまではとくに厳しく家事を叩きこんだ。その家では、料理を作る人間を雇いながらも主婦であった母が料理に目を光らせ、配膳や皿の交換など家族の食卓に関しては自分たちでおこなうよう娘らをしつけていたという。
すばらしい両親であり、周囲の人々である。何よりも、古きよき時代のぬくもりにあふれている。
大家族の長でありながら家族を平等に愛した父親は、全員が同じもので食卓を囲めないなら、贅沢なものを自分だけ食べるわけにはいかないという考えの持ち主であり、いくら家が裕福であっても人数分をそろえることが困難なこともある「燕の巣」料理を、母親が「お父様の誕生日にぜひ召し上がっていただきたいから」と家族一同にいいふくめ、遠いテーブルについた子供たちは、ほんとうは皿にないものを、食べるふりだけをしたこともあったという。
料理のレシピもところどころに出てくるが、この本の主役はあくまで著者の台湾時代の思い出である。
日本ではNHKの番組で料理講師をされたり、講演活動もおこなっていたという著者だが、2002年に残念ながらお亡くなりになった。もっと以前に、この本の存在を知っていたかった。
電子書籍
心が温かくなります
2016/02/29 23:37
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投稿者:くまのぷー - この投稿者のレビュー一覧を見る
食を通して、台湾のノスタルジックな情景が描かれていて、懐かしいような気持ちになりました。とても心が温かくなり、読んで優しい気持ちになれます。
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一昨年、旅行した時の台湾の熱気が懐かしくて、
手にとってみました。
著者の辛永清さんは、料理研究家として活躍され、
1992年に亡くなられています。
「安閑園」とよばれた、台南の
裕福な家庭に育った著者の、
少女時代の
ものを見る目の
確かさに感心させられました。
また、昔の台湾の、
もてなしの精神~情の濃さも、
今を生きる私たちが
学ぶべきことが
たくさんあるように思いました。
著者が亡くなった父の
パイプを一人でこっそり吸ってみる
場面が、特に心に残りました。
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徳島新聞2011.02.13朝刊。
《凛として優しく、美しく、そしてたくましく人生を生き抜かれた女性の言葉を、人生の副読本としておすすめします。》(江上栄子・評)
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古き佳き時代の台南の外省人家庭の食を中心とした暮らし。著者が料理研究家のため食べ物の描写が緻密。この年代の日本語を学んだ外国人特有の美しい日本語。使用人と雇い主の関係が日本や西洋と較べるとフラットだったのね。一夫多妻制度の名残か正妻と妾が同じ家に住んでるとは時代劇みたい。名家すぎて実家に戻れなくなるあたり中国の家制度も強力だ。豊かな家に生まれたことと、なにもさせないお姫様に育てるのは全くべつのことだ。という言葉がいい。
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ソーシャルランチで知り合った方が、著者の辛さんの息子さんで、最近文庫になったんですよ、といって戴いた本です。
戦争の前後、台南の広大な邸宅「安閑園」に暮らした娘時代の思い出とレシピの本。読んでいてこんなに幸せになる本はめったにないです。
そして、辛さんの台湾人でありながらも、美しい日本語の文章にハッとさせられます。
家長を頂点とした過剰なまでの大家族とたくさんの使用人、広大なお庭や畑や果樹園、様々な家畜、家族の行事、ベランダのお茶、入れ替わり立ち代わりのお客様、20畳程もある台所には6つの炉、それからもちろん、美味しい食卓!賑やかで、豊かで、心安らかな生活・・・それが安閑園。
私もパーティーに紛れ込みたい!
台湾の暮らしというのも、実は全然知らなかったけど、沖縄によく似ているように思いました。
「こんにちわ、ご飯は食べた?」と挨拶するそうです。なんという食いしん坊の国!
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Dean&delucaで平松洋子さんがオススメしてたので読む。
食についてのエッセイなんだけれど、
著者の人柄に魅力を感じる本。
品があり、知的で寛容な人という印象。
台湾のびっくりな習慣もあるけれど、あたたかい著者の心を随所に感じられて、安心する。
特に後半、お墓の話でじーんときて、きっとこの本は著者の父親に宛てたんだろうな、と思うのだった。
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著者の育った家庭環境は、私には想像できないことが多くて、読み進める速度が非常に遅かった。大家族の中国人家庭は、懐が深い。卒業旅行で旅した中国で、出会った市長さんの家でご馳走になったことがあり、よくもまあ見も知らずの人をここまで歓待してくれるなあと感激したことがあったが、歓待する側はこういうものだったのかと、本書を読んで少し物知りになった気分である。
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何度読み返しても胸を打たれる。料理家でもあった台湾女性の著者が、子供時代に享受した、大家族の愛と美味、大らかな台南の人情と自然を描くエッセイ。知らないのに懐かしく感じる。大好き。
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台湾出身の料理研究家の綴る文章は飽食時代の私たちが読んでも、なんて美味しそう・・・とため息が出そうな描写。でも一番は料理は誰と、どんな風に食べるかが大切なんだ、と思い出させてくれる温かくて切ないエッセイ。
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読んでいると、お腹が空いてくる。台湾のお金持ちのスケールの大きさと手間ひまをかけた食事の数々。一度も食べたことのない料理ばかりで、味を想像するのも楽しい。お姫様ではなく、精神的にも豊かな一人の人間を育てるポリシーに、名家の貫禄を見た。
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お腹減る。日本人には馴染みのないものもあるけど、とりあえず台湾に行っていろんなものを食べたくなる一冊。
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台南、料理というキーワードに惹かれて手に取る。戦争中、戦後の影のようなものは、よぎっているが政治的なメッセージは書かれていない。「中国人」という表記に違和感を感じるが筆者はどう考えていたのだろう。料理というのは食べるものだけのものではないと考えさせられる。