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消費税が今年(2014)の4月に4%増税されましたが、景気は順調であるという新聞記事を見かけました。今年後半には10%への増税の是非を判断するので、それまでは日本の景気は良いとされるデータが並ぶのでしょうか?
アベノミクスは2012年末から始まっていますが、景気を操作できる(インフレ率をプラスに制御する)というもので、株が上昇したり円安になったり大企業にとってはかなりの追い風になっていると思われます。
しかしこの本の著者である増田氏が述べられているポイントは、そのようなことはあり得ない、として今までの歴史を引き合いにして述べています。その歴史のスパンが中には600年以上に亘るものもあり、いつもながらの多くの生データを解析されてできた本です。
いつもの本と比較して図表が少なく文章中心の様に感じましたが、そのためか随分読み応えがありました。
以下は気になったポイントです。
・14世紀を通じて、当時の先進地域だったイタリアの地代利回り(毎年支払う利用料の土地売却価格に対する比)が一番低かった。15世紀には英国が、18世紀にはフランスが最も低くなる(p21)
・イギリスの産業革命は製造業の技術革新レベルに留まっていた、風車を動力に使って当時の他国比較ではるかに高い自由度で灌漑排水をしていたオランダの農地生産力にはイギリスは太刀打ちできなかった(p21)
・人口増加率で制約された労働の対価は次第に高くなり、無限に自己増殖する意思を持って増えすぎる傾向のある資本の対価である利回りは低下する(p22)
・イギリスでは19世紀最後の40年間だけでじつに9回の金融恐慌が起きている、その後にはデフレが起きた(p24)
・経済現象率を緩和する方法は3つしかない、1)貨幣を供給過剰するインフレ政策、2)特定産業分野をてこ入れする産業政策、3)国が直接カネを払う公共事業(p27)
・インフレは決してあらゆるモノ・サービスが均等に値上がりするわけではない、ほかのもので代用できないもの(ヘルスケアサービス等)は値上がりが大きい(p32)
・アメリカでは一流大学のPhDやMBAを持っていないと優良企業の幹部になれない、その教育を受けるためには年率7.8%という値上げが続いている大学授業料を払う必要がある。一流私立大学の授業料は年間400-500万円(p34)
・ゴンドラチェフ波動を過去三回分まとめてみると、戦時インフレの後に株価が大幅に上昇している(p41)
・スタンダードオイルがかなり細かい企業34社に分割されたアメリカ石油業界は、傑出した巨大企業1-3社が牛耳る市場構造にならなかったので、世界の主要企業の地位を維持できたのだろう(p48)
・アメリカ自動車市場にも、若い世代の年収が低すぎて車もガソリンも買えないという切実な理由による需要激減の大型台風が今後2-3年のうちに襲来するだろう(p50)
・政府が持ち株を売り抜けるまではGMは好業績に見せかけていた、在庫が激増していること、リコールをせざるを得ない事がこれから出てくる(p50)
・30年前まで50社が支配していたアメリカのメディア業界は、今やたった6グループに統合、なかでも、GE+CBS、ディズニー+ABC、NBC、タイムワーナー、リバティ、AMC。これらの重役232人がアメリカ国民が何を見て聴いて読むかを決めている(p61)
・アメリカの新聞業界は収入の8割が広告料(購読料は2割)、日本はいまだに6-7割が購読料が占めている(p62)
・出版業界の組合が昔にはあって、一種のカルテルをつくっていて、ふつうの書物は1500部程度に発行部数を抑えていたが、バイブルとあるマナック(暦)だけは例外(p92)
・日本企業の採算点為替レートは2012年度において、83.9円。これは公表値なので、実際には80円でも利益が出ているはず(p102)
・12-13世紀初めには地球は今よりも暖かかった、16-17世紀はずっと寒かったことが、どちらも人類が排出する二酸化炭素とは全く無関係であると認めるようになってきた。明らかに西暦2000年頃から地球は寒冷化に向かっている(p113,114)
・アメリカでは1946年に「連邦ロビング規制法」というのができてから、企業が潤沢な資金を使って有能なロビイストを雇い、政治家にカネをばらまいて自産業に有利な法律や制度をつくり、逆に不利な制度はつぶす事ができる(p116)
・IPCCも最近では風向きが変わってきた、21世紀末までに2.5度上昇しても、被害は世界GDPの0.2-2.0%どまりと述べている。従来の5-20%という推計より大幅に低い(p121)
・クリミア半島危機は、世界最大の原油輸出国でありながら原油生産コストが高いロシア、シェールオイルというコスト高の石油開発をしているアメリカ石油業界が結託したもの(p124)
・スペインが中南米から大量の金銀を略奪したにもかかわらず、貧困化したのは金銀流入で物価水準が上がったからではなく、スペイン王室が戦費に使ったから(p127)
・第一次世界大戦後の1920-50年代にイギリスが必死でためこんだゴールドは、ポンドを守るためという不毛な戦いの中で、2250→750トンと激減した。植民地利権防衛のために5億ポンド使ったがGDP比250%という借金をつくり、ポンド下落のキッカケにもなった(p156)
・マネーストック自体がGDPを左右するのではなく、それに「貨幣の流通速度=カネの回転率」を掛けた数字が左右する(p179)
・アメリカ経済は、1953-84年までは1ドルの債務でGDPが0.63ドル増えていたが、2001年以降は、8セントしか増えなくなり明らかに社会全体がおかしくなってきている(p207)
・アメリカの医療費の馬鹿げた高さの最大の理由は、国民皆保険制度が存在しない事、だが医療行為を必要とするほどの肥満体の人間があまりにも多いことも一因、とくに肥満症発生率の多い州は、同時に貧富の格差が大きい(p252)
・アメリカの飲料は、炭酸飲料だけで10位まで固めている、過去40-50年での唯一の変化は、定番ブランドにダイエット版が出たのみ、日本は毎年売れ筋が変わっている程、選択肢が多い(p271)
・官公需法という悪法は、数え切れないほどの深刻な問題が派生している。規模の拡大を���ない経営方針をとって中小企業でいつづける、元請した公共工事を大きな業者に丸投げ(上請)して儲けている会社もある(p309)
・東京圏住民一人当たりのGDP成長への貢献度が全国の1.5倍にとどまっているのは、東京に移住する人が多く競争が激しいからである。集中度が低ければ全国平均の2-3倍になっていただろう(p317)
2014年6月15日作成
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経済政策というものは無益であるか有害であるかのどちらかだということを、歴史や豊富な事例をもとに解明していく。
反エリート、反大企業で一般庶民の側に立つ論理展開は痛快だが、迫りくる金融危機を素直に受け入れるしかない(あれこれやるとかえって被害が大きくなる)というのも歴史と言ってしまえばそれまでだが、庶民が安心できる着実な低成長(あるいは現状維持でもいいが)持続さえも夢にすぎないということか。
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2014/08/19:読了
タイトル通りの本
しいていうなら、「景気はダメになるようになら操作できる」だろうな。
良い方向に操作するには、政治家が強く善良で「国民を守り、かつ、他国に干渉されず、国を富ませる」ことができるかどうかであり、その政治家に、官僚、経営者、学者などが従うような体制ができないと無理