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相当ベタな本ですが…(何
と言いながら好きな本です(更何
小林多喜二の母親である小林セキの半生(と言っても多喜二が死ぬまでの)を、セキの語り口調で書いた作品。
三浦綾子なので「貧しい者、弱い立場にある者に共感を寄せる」宗教色は強いです。
ですが、三浦綾子ならではな文体。子供をひたすら信じて想う母親の姿は涙なしには読めないでしょう。
小樽市文学館も北海道を嫌っていた石川啄木色を強めるのはやめて、収蔵庫に幽閉した多喜二のデスマスクをもう一度展示室に置いて、もっと小樽に深く関わった作家を大事にしてくれよー…。
とか思いつつ…。
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「蟹工船」を書いた小林多喜二が
こんなにも素直で、底なしに優しく、バカがつくほどの真面目であったのかと
そこに驚かずには居られなかった。
そしてこの多喜二を育てた母の天性のおおらかさ、
苦労を重ねてきながら少しもいじけたり、ひねくれたりしていない
明るく穏やかで情け深いその性質に
「ああ、こんな人間がいるのか、こんな家族があるのか」と
深く感じ入ったのである。
私にとってはこの小説のメインは
未洗礼だろうが、キリストを知らなかろうが、
貧しかろうが、学がなかろうが
美しく優しい、正直な心を持った人間がいた、という部分にある。
そしてその人間が営んだ家庭だからこそ、
経済的には豊かになれなくとも、こころは世界で一番豊かで、
おもいやりに満ちた美しい家族が育まれたのであろう。
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多喜二の時代では、政府の意にそぐわない考え方は排除されていた。本書を通し、現在、言論の自由が保障されていることを本当によかったと実感した。
しかし、現在でも自分の意見を自由に言えない国もあるんだろうなと思うと、少し恐ろしい気持ちになった。
<あらすじ>
小林多喜二の母、小林セキが多喜二について語る。多喜二が生まれてから拷問にかけられて殺されるまで、その死後。
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小林多喜二の母の語り調に記述されています。多喜二の優しい人柄や清潔感にも感動しますが、なにより近い過去に日本にも今の北朝鮮のような人身売買や貧困が現実的な問題としてあったことに気付かされて驚きます。
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名著「蟹工船」を残し、昭和8年に警察によって取り調べ中に虐殺された小林多喜二の母、セキ。
秋田の貧しい農村で生まれ育ち、13歳で結婚したセキが育てた子供たちはそれぞれが明るくやさしかったが、中でも多喜二の母や兄弟たちへのやさしさは特別なものがあった。
正直、冒頭の辺りでは、秋田なまりの方言の語りが全編続くのか、読みづらいなぁ…と思ったが、すぐに気にならなくなった。セキや多喜二をはじめとした登場人物たちの朴訥としていながらも力強い生き方がよく伝わってきた。特にセキと多喜二がお互いに寄せる信頼が清々しい。
「蟹工船」、実は読んだことがないのだが、その題名と時代の持つ暗澹とした雰囲気からはかけ離れた明るい家庭で多喜二が育ったことが意外であった。
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共産党弾圧のむごさ、キリスト教、母の愛と異なるテーマがまとまっていて、最後の結末は引き込まれて一気に読んでしまった。
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貧困の東北の農村から豊かさを求めて北海道に渡った家族。口減らしに身売りされ体でお金を稼ぐ娘たち。出稼ぎに出たきり戻ってこない父親。入ったらそれきり出て来れないタコ部屋の過酷な労働に耐えきれず死を覚悟で脱出しようとする人たち。小林多喜二の文学を読むにあたって参考になればと読み始めた本だったが、それ以上に日本の歴史の裏側を見せつけられて衝撃的だった。人権がゴミのように扱われていた。その人権を守ろうとした人が事もあろうに「国」によって弾圧されていた。その歴史的事実は隠蔽されてはならない。幼い頃のセキが親切にしてもらった駐在さんの記憶と彼女の息子を拷問で死に至らしめた特高警察の対比がすごく印象的だった。
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大感激。
「蟹工船」の作者小林多喜二の母、セキの波瀾万丈な生涯を描いた作品。厳しい生活環境でも、子を愛することの素晴らしさを教えてくれる。多喜二の非業の死に打ちひしがれながらも、気丈で美しい魂を維持し続けるセキさんの姿に涙が溢れる。久しぶりに心打たれた作品。
ぐっと来たセリフを引用しておきます。
夫の安月給では弟三吾にバイオリンを買ってあげられない窮乏を見かねた多喜二は、初任給でバイオリンを買う。その思いに触れたセキの言葉、
「わだしらは貧乏かもしれん。亭主の体は弱いかもしれん。人から見れば、何の値もない一家かもしれん。しかし、人間生きていれば、こんなうれしい目にも遇える。」
結婚式で借りた小林一家にとっては高価な指輪を失くすも、周囲の力を借りて発見、
「金持ちなら決してしない苦労を、貧乏人は苦労するんだなあ。」
蟹工船のブームの陰で特高に追われる息子を心配するセキに多喜二より、
「世の中っていうのは、一時だって同じままでいることはないんだよ。世の中は必ず変わっていくもんだ。悪く変わるか、よく変わるかはわからんけど、変わるもんだよ母さん。そう思うとおれは、よく変わるようにと思って、体張ってでも小説書かにゃあと思うんだ」
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死因・心臓まひ。実は特高警察による過剰な暴行が原因で、小林多
喜二は築地署で命を落とした。
その多喜二の母が本書の主役である小林キセ。88歳のキセが自分の生い
立ちから息子・多喜二の死、その死後の生活を読み手に語る。
生まれは秋田県角館。貧農であった生家から嫁いだ先も、貧困にあえぐ
一家だった。
明治のこの時代、東北地方の貧しさは今とは比べものにならない。家族の
生活を支える為に娘たちは人買いの手に渡される。
そう、あの頃は普通にそんなことが行われていたんだよね。女性が学校に
行くことすら叶わなかった時代だ。
貧しいながらも温かい嫁ぎ先、優しく思いやりのある夫。そして子供たちに
囲まれた幸せな頃もあった。
それなのに、親思い・兄弟思いの優しい孝行息子は小説を書いたことが
原因で無残な死を迎える。
「そうそう、多喜二がよく言っていた話があったけ。
昔々、仁徳天皇っていう情け深い天皇さんがいたんだと。お城の上から
眺めたら、かまどの煙が、細々と数えるほどしか上がっていなかったんだと。
それで天皇さんは、国民はみな貧乏だと可哀想に思って、税金ば取らん
ようになったんだと。したらば、何年か経って見たらば、どこの家からも
白い煙が盛んに立ち昇っていたんだと。天皇さんは大喜びで、国民が
豊かになったのは、わしが豊かになったのと同じことだって、喜んだ
んだと。
この天皇さんと、多喜二の気持ちと、わだしにはおんなじ気持ちに思え
るどもね。天皇さんとおなんなじことを、多喜二も考えたっちゅうことにな
らんべか。ねえ、そういう理屈にならんべか。天皇さんば喜ばすことをして、
なんで多喜二は殺されてしまったんか、そこんところがわだしには、どうし
てもよくわかんない。学問のある人にはわかることだべか。」
小説を書いただけで殺される時代だった。しかも、死因さえも誤魔化され、
特高を恐れて司法解剖を引き受ける病院も医師もいない時代があった。
日本の暗黒の時代は、決して癒えることない哀しみを抱えた母を生み
出した。
セキは文盲であった。それでも獄に繋がれた多喜二に手紙を書きたくて、
ひらがなを覚えた。同じように文盲だった野口英世の母・シカが、息子に
金釘流で書いた手紙のことを思い出した。
貧しい家に生まれ、学校へも行けず、子守りで駄賃を稼ぎ、年端も行か
ないうちに嫁ぐ。
きっとセキの時代には多くあった女性の生き方だろう。ただ違ったのは、
セキの息子が小林多喜二だったことなのだろう。
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蟹工船「小林多喜二」の母のお話。
貧乏でも心が豊かなら幸せな人生が送れる。
他がためにを改めて気付かせてくれた。
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小林多喜二の母・セキさんが生涯を語り聞かせる形を取った物語。
高齢の方が語って聞かせる昔話というのは、文章で読んでも、ゆったりと、しみじみと、染み込まれていくように感じるものなのだろうか。
文中でも語られているが、話が前後したり、同じことを繰り返したりというのはある。物語ならば読みにくいと感じるところだが、おばあちゃんが語る話ということで、すんなりと受け入れられた。
小林多喜二についての予備知識は何もなかったのだが、読み進めるごとに、こんな明るくマジメで、家族思いの人だったのかと知って、胸が温かくなった。
そんな息子が、あんな惨い死に方をするなんて。
セキさんがたびたび嘆き、白黒つけてほしいと願った気持ちを思うと、たまらなくなる。
あらためて、蟹工船など、小林多喜二の本を読みたくなった。
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最初は課題だからと、だらだらと読んでいるだけだったが
しだいに語り手である「母」の優しさにひかれ、夢中になって読んだ。
最後の母の語りには思わず目頭が熱くなった。
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学生時代、大事なことは三浦綾子の小説から学びました。人とは、赦し赦されるとは…。今の自分に活きているかは、まあおいといて。
最近受けた講義で先生が紹介していて懐かしくて再読。
階級とはなにか、解放されていきるとはなにか。
そして、そうすることを阻もうとする社会、人がどれだけ多いか。
それをも越えて闘おうとする多喜二、多喜二を奪った社会を許そうとする母の姿をかなり強烈に描いています。
多喜二の地元は秋田。貧しくて、女性は身売りに出され、男性はボロボロになるまで働き、それでも税としてほとんどが奪われる。
「こんな時代もあったんだ。うちら幸せだね。」
って話ではないハズ。
胃腸炎でぐるぐるになりながら読む拷問から帰ってきた多喜二の描写…。
しんどかったわ。
大学時代、階級を鮮烈に教えてくれたのはこの本と「ダンサーインザダーク」だったと思われます。
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随分前に買いカバーのまますっかり忘れていたこの本。何に惹かれてこれを買ったのかも忘れていました。
小林多喜二のお母さんが人生を語り口調で伝えるので、よりその心情が伝わり引き込まれてました。
小林多喜二が『蟹工船』を書いた作家と言うことぐらいしか記憶になかったけれど、あまりに悲惨な最期を迎えた時代背景が本当にやるせない。
時代と言う権力の恐ろしさ。権力と戦い自分の命も惜しまなかった多喜二。信仰によって悲痛な想いから救われる母親の気持ちも素直に受け入れられました。
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お母さんが、誰かに語りかける口調で昔を思い出しながら話す文体です。東北弁ではありますが、分かりやすいです。
私はこの本を読むまでは、小林多喜二といえば、文学史で習った「蟹工船」しか思い浮かばず、実際に蟹工船を読んだこともないので、どういう思想の持ち主だったか全く知りませんでした。言論の規制の厳しい時代に、共産党だということで、拷問でなくなったそうです。
物語は、多喜二の生まれ育った、秋田の貧しい村と、移り住んだ北海道小樽を舞台に展開します。昔はどの家も、貧しくても7人などたくさんの子供がいたのですね。一人ひとりの子どもへの負担や、犠牲も大きく、特に先に生まれた子は、後から生まれる幼子を食べさせていくというプレッシャーもあったようで、読んでいてとても気の毒でした。よくこんなに貧しいのに次々産むもんだ、と感心するというか、3人くらいにしておけばそこまで貧しくならないのにと思ったりします。でも、とても温かいというか、家族全員がお互いに思いやり、それぞれ家族のために努力し、貧しいながらも惨めな感じが無く、幸せだったことは伝わってきました。多喜二は、家族のために風俗店で働く女性を不憫に思い、助け出し、長年恋人だったもののついに結婚できませんでした。でも、これは時代背景上、仕方なかったのかなとも思います。多喜二が警察の拷問で殺された時の母の悲しみや悔しさは壮絶で、親より早く死んではいけないと、当たり前のことを改めて感じました。多喜二の母が、息子を失ってから入信した、小樽の教会の牧師さんが素晴らしい方で、最後は救われてほっとしました。