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紙の本
これを書いたのが、ハメットの後継者だって?
2002/02/27 22:45
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投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
コロンブス以前の貴重な美術品であり、アメリカ大陸に存在するというデスカルソ国が誇る象徴でもある《踊る黄金像》が奪われ、アメリカに空輸された。100万ドルともそれ以上とも評価される高価な美術品は、その身をそっくりな15体の模造品の中に隠しているらしい。
お宝の情報を得た何人もの人間たちが、必死の追跡を繰り返すのだが、発見されるのは彼らをあざ笑うかのように踊っている偽の黄金像。いったいどれが本物なのか?
いくつかのペンネームを使い分け、様々なジャンルの作品を手がけているアメリカの作家ドナルド・E・ウェストレイク。元々は正統なハードボイルドを書く作家としてデビューし、ハメットの系譜を受け継ぐとして期待されていたというが、突如としてユーモア溢れる作風に転換してしまった彼。以降はコミカルな作品を多く手がけ、本領を発揮している。
が、その一方、スターク名義では、《悪党パーカー》という暴力的で極悪非道な犯罪者を主人公とした、ハードな犯罪小説シリーズを発表しており、ユーモアを書ける作家としてのみではなく、暴力までも書くことができる作家としての活躍を見せている。
全三章に別れたこの作品では、繰り返すことによって笑いを誘う技法がふんだんに使用されている。各賞の冒頭には、あるルールに則った文章が必ず書かれており、二度目があったのだから三度目もきっとあるのだろうとわかっていても、笑わずにはいられない。さらに、この文章自体も短い文の繰り返しで、しつこいと思うほどに笑いを誘っている。
同じことを繰り返すことによって笑いを誘うという、笑いにおける方法は、使用するのに勇気がいるらしい。センスのないことを繰り返したとしても、ただ不興を買うだけで、まったくつまらないこととなってしまう恐れがあるからだ。その点、ウェストレイクの繰り返しは、しつこくて上手い。
本作で繰り返されることは、章の冒頭に書かれた文章だけではない。この小説は、連続する出来事をさらに連続させて成立している小説だと言っても過言ではないだろう。踊る黄金像は16体もあり、それぞれが同じように踊っている。彼らは、ホームズ譚の『六つのナポレオン像』に登場する石膏の胸像よりも、10体も多く連続し、宝探しに興ずる人間たちを翻弄し続ける。
16体でも相当だが、出版される際にページ数の関係から、6体の黄金像が登場する箇所を削っているらしい。もしも、全部で22体もの黄金像が踊り続けていたら……、そのしつこさにぞっとしてしまうが、どうせなら22体が揃った状態で読みたかったと思う。いったいどうなっていたんだろうか。
1体だけの本物を求めて、像のまわりで踊っている人間たちも大勢でドタバタと立ち回っている。彼らは、入れ替わり立ち替わりで同一の黄金像の真贋を確かめるために、哀れな持ち主の部屋に闖入し、せっかく修理したばかりだというのに偽の像の手足を折ってしまう。ここにも連続がある。
宝探しの過程で、繰り返し逮捕される人間もいれば、繰り返し素朴な感想を述べる人間、おかしな性癖や思考を繰り返す人間も登場する。差別を笑いにした箇所も繰り返され、豪華な葬式のシーンでは、偽物の有名人が行列をつくり、それを見ているチンピラが偽スターたちの本当の姿を繰り返し言い当てる。ナット・キング・コールが中年の女性、ダイアナ・ロスが若い男だという記述には、濃さを感じながらも吹き出してしまった。
本物の黄金像はどれなのか、そのために繰り返される贋作の破壊も連続している。この連続の中に、一見ミステリーだとは思えない本作の、唯一ミステリー的な仕掛けが施されている。トリックの点からも、作品全体の構成からも、連続が最も重要な小説なのだ。だから、『六つのナポレオン像』を彷彿とさせる宝探しということもできるだろうか。
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