紙の本
オーケストラと指揮者を世界的なスケールで描く歴史ドラマ
2009/12/27 21:28
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界の十大オーケストラを並べて、それぞれの歴史を取りまとめたもので、新書500頁の労作である。労作というのは見るからに分厚いので、これだけのボリュームを執筆するのは大変だったであろうということである。しかし、それだけではない。実に中身の濃い新書であった。
十大オーケストラを選ぶ際には何らかの基準が必要であるが、オーケストラの基準といっても人によってどんな要素を重要と見るかがかなり異なるであろう。しかし、本書では思い切って誰もが納得するオーケストラを選択しているようである。ここに登場する十大オーケストラは主に欧州の都市に存在している。
例外はニューヨーク・フィルとイスラエル・フィルだけで、あとはすべてロシアを含む欧州の諸都市を本拠とする楽団ばかりである。これは仕方がないところだが、イスラエル・フィルよりもはるかに知名度の高いオーケストラが存在することも確かであろう。十の選択には中川もだいぶ心を悩ませたようだ。
もうひとつのポイントは、カラヤンの存在である。中川は以前からカラヤンをメインに置いた新書を著わしている。その蓄積を生かしたかったのかも知れないのだ。カラヤンの絡んだオーケストラといえば、ベルリンフィルとウィーンフィル、そしてロンドンのフィルハーモニア管弦楽団である。この3つとも入っている。
オーケストラを十挙げて、その歴史を一つずつ紐解いていくのだが、その紐解き方によっては面白くもつまらなくもなりそうだ。オーケストラに欠かせない存在は指揮者である。昔はオーケストラは指揮者に音楽監督や首席指揮者という称号を与えて、束縛していたものだ。近代の歴史を紐解く場合には、この束縛がかなり効いてくる。したがって、中川もオーケストラを描いているのだが、必然的に指揮者との結びつきから著名な指揮者と当該楽団との関わり合いを描くことになる。
都市、つまり地理的な要素も重要である。ここで挙げられているのは10のオーケストラであるが、世界的に著名なオーケストラが10しかないということではない。多くの都市には複数の世界的著名なオーケストラが存在する。そうすると必然的に地理的に近いオーケストラの競争が生まれる。競争とは市場としての聴衆の奪い合いと指揮者の奪い合いである。ここに取り上げられていないオーケストラも10のオーケストラにただならぬ大波を寄せていることが分かる。
これらを中川はオーケストラごとに10の章に分けて描いているのである。時間的(歴史的)、空間的(地理的)に、これらの十のオーケストラが相互に作用している様を描き出している。時間的な描写の中では戦争の落とした影がどこにも共通している。暗い影はもちろん、それがオーケストラと指揮者に及ぼした影響は運命とはいえ、壮絶なドラマをもたらしている。
本書はタイトルを見ると、単に世界の10大オーケストラを時間を追って概観しているようだ。しかし、実はオーケストラが誕生してから、オーケストラという音楽組織がどのように成立し、生き延びてきたかを描く壮大なドラマを描いているといっても過言ではないのだ。
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淡々と?オーケストラの歴史を書いているだけなので,参考にはなるけれど,面白みがない。
どのオーケストラについても1990年頃で話が終わっているため「?」と思うが,それ以降についてはエピローグという形で書かれている。
同じ指揮者の名前があちらこちらに出ていて,名指揮者は引っ張りだこだったということは分かる。
私のような素人向けではないかも・・・。
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1、シュターツカペレ・ベルリン
2、ニューヨーク・フィルハーモニック
3、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
4、レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
5、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
6、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
7、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
8、イスラエル・フィルハーモニック管弦楽団
9、フィルハーモニア管弦楽団
10、パリ管弦楽団
とても簡潔にまた詳細に、さらに指揮者のエピソードも淡々と述べられていて、面白かったです。全体的にカラヤンを軸としているので、その辺が公平ではないと思いますが、へぇ〜、とか、ほう〜、とか感心する場面がたくさんあります。
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世界の10大オーケストラと行っても、その選択は「有名な」「上手な」という観点だけではなく、この本のテーマの一つであるカラヤンに関係するオーケストラが選ばれている。この選択は悪くはない。例えば、ロンドン響はないが、フィルハーモニアはある。普通に実力を考えれば、ロンドン響だろう。しかし、エピソードを考えるとフィルハーモニアのほうがおもしろい。この本が主に描く第二次世界大戦前後のころは、オーケストラ力学という意味ではかなりおもしろかった時代だろう。現代はそれに比べれば平和だ。エピソードはいろいろとおもしろく、それなりに楽しく読めるが基本的には二次情報で、大きな発見はない。クラシック好きの薀蓄という感じもある。
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[ 内容 ]
長い歴史を誇るウィーン・フィルですら一八四二年の創立だから二百年に満たない。
つまりベートーヴェン(一七七〇‐一八二七)の時代には存在しなかったわけだ。
かように近代になって誕生した「オーケストラ」は、きわめて政治的な存在であり、戦争や革命といった歴史的大事件に翻弄されやすい。
「カラヤン」をキーワードに十の都市の十の楽団を選び、その歴史を、指揮者、経営者そして国家の視点で綴った、誰もが知る楽団の、知られざる物語。
[ 目次 ]
第1章 シュターツカペレ・ベルリン
第2章 ニューヨーク・フィルハーモニック
第3章 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
第4章 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団)
第5章 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
第6章 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
第7章 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
第8章 イスラエル・フィルハーモニック管弦楽団
第9章 フィルハーモニア管弦楽団
第10章 パリ管弦楽団
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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シュターツカペレベルリン、ニューヨーク、ウィーン、レニングラード、ベルリンフィル、ロイヤルコンセルトヘボウ、チェコ、イスラエル、フィルハーモニア、パリ。
の10のオーケストラを紹介している。
指揮者の変遷の一覧表がある。
10大を選んだ理由は、カラヤンを起点としているとのこと。
若干納得がいかないところもあるが、自分では実際に聞いたところもない。
CDなどで聞いたのもすべてではない。
とにかくCDを、一度、全部のオーケストラについて聞いてみようと思いました。
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下記10楽団を、カラヤンとの関わりを規準に、設立から現在に至る、各楽団の成り立ち、方向性、演奏史などを鳥瞰している。
①シュターツカペレ・ベルリン
②NYフィル
③レニングラード・フィル
④ベルリン・フィル
⑤ロイヤル・コンセルトヘボウ
⑥チェコ・フィル
⑦イスラエル・フィルハーモニック管弦楽団
⑧フィルハーモニア管弦楽団
⑨パリ管弦楽団
⑩ウィーン・フィル
世界の楽団には、歴史(戦争との関わり)やドラマ(指揮者の仲・タイミング)があるんだと学ばせてくれた1冊です。
それにしても、小澤征爾はラッキーな指揮者ですね。笑
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クラシック初心者が、どのオーケストラを聴けばいいのかなみたいな観点で、本書を読むと少し失望するかも。(私がそう)
そもそも、この十のオーケストラはかなり恣意的に選ばれている。特にカラヤンとの関係がポイントになっている。
どの章もその成り立ち、歴史を語るのに重きが置かれている。さながら世界史の現代史のお勉強をしているよう。
それでも名指揮者の人間臭いところや裏話的なところ、知られざる一面が分かってそれなりに楽しめました。