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読み終わり。山本弘はファーストインプレッションが良くなかったからどうかなと思っていたんだけど、存分に面白かった。物語のはなし。ちょっと瀬名秀明の夏の博物館を思い出した(どんな話だったかは例によってさっぱり思い出せない)解説に書いてた詩羽のいる生活も読んでみよかしら
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強いメッセージ性があり、考えさせられることの多い小説でした。
短編の編成が良いため、主人公である「僕」に限らず 読者( = ヒト)にとってなかなか受け入れにくい話を、順を追うことで無理なく受け入れられように構成されていると思いました。
この構成を説得力を増すための技術と言ってしまえば少々冷めた言い方になりますが、読み手と作中のキャラクタを徐々に納得させていくという核となるストーリーが設けられているため、短編集を読む際に求められる極端な頭の切り替えが必要なく、短編集にやや抵抗があるような方にも読み易い作品となっていると思います。
それぞれの短編は「科学技術と人間の関係」を通じて「ヒトの本質」を上手く表現していると思います。
筆者は科学技術に精通しているのみならず、ヒトをよく理解している方であろうと思いました。
そして、筆者の人間観 強いてはその弱点を表現する力に長けているため、私も本作を読みながら自分自身を振り返ってしまう場面にしばしば遭遇しました。
特に印象的だったのは、[詩音が来た日]の中で、
論理的帰結として、「全てのヒトは認知症で、症状に程度の差があるだけである」と述べられていたことです。
印象的であるばかりでなく、深く感心させられました。
自らも、そして全てのヒトがそれぞれ自己の認知症を理解することができたならば、他者の攻撃による痛みや自意識からくる闘争心からも開放されて楽に生きることができるかもしれません。より現実的にヒトを救う信仰となりうる説であるように思います。
ただ、自己の認知症を理解できないことが認知症の特徴であるとも挙げられている通り、ヒトが自己の整合度の低さを正しく理解するという望みは薄く、上の論理の提言はヒトへの諦めとか許容の始まりといったことなのかもしれません。
争いを起こさないその答えとして、「自分がして欲しくないことを、隣人にしてはならない」という原則が述べられていました。
論理的にも、倫理的にも満足に足るものであると。
私もその言葉が含む意味とその防御力を理解したつもりではありますが、この「隣人」はどのように定義したらよいのでしょうか?
全ての人間・・。動物は?、植物は??
生命が、他者を捕食することによって成り立つ以上、「隣人」をこの話の中で述べられているように定義することは不可能なのではないでしょうか?
また人間同士で争いがないという状態をもって、「倫理的である」と捕らえることは正しいでしょうか?
隣人の定義を拡張していくと、どこかに必ず境界線が引かれます。全ての人間に満足できる境界線は存在するでしょうか?
そもそも境界線を引くこと自体が、「自分がして欲しくないこと」となることはないのでしょうか??
倫理の世界で、生命は既に大きな矛盾をはらんだ存在であるとうかがい知れます。
アンドロイドはこの矛盾を超越した存在として語られています。
現実にこういった存在が現れたとき、ヒトは、生命はただ許容されて存在するものなのかもしれません。
ヒトの想像力、夢を語る力の素晴らしさを語られてはいるも���の、作中終盤では詩を作っているアンドロイドの存在が書かれていました。
ヒトの存在意義はとってかわられていくものなのかもしれません。
仮に、作中でアンドロイドがヒトに示唆した共存や共栄への希望は結局のところ洗脳に過ぎず、本書がいずれ生命社会がアンドロイドに許容してもらうことでしか生きる道がなくなっていくという予言のようなものだとすれば、慧眼としては余りある悲劇に驚愕するばかりです。
ヒトが生命を超え、倫理的な高みに登るような話があれば読んでみたいと思いました。
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新しい年が明けたけど、年賀状もおせちも無いお正月はさしずめ『門松は冥土の旅の一里塚めで度くもありめで度くも無し』といった具合。
その年頭に読む、衰退した人類に代わりマシンが支配する未来のお話。これが深い。
食料を盗んで逃げる途中に女性型アンドロイドに捕獲された“僕”。
アイビスと名乗るそのアンドロイドは、僕に対しロボットや人工知能に纏わる7つの物語を読み聞かせる…。
題材以外に関連性もない物語は、しかし、マシンと人の歴史の真実を少しずつ露わにする。
6つ目の「詩音が来た日」で介護用アンドロイドが辿り着いた結論に唖然とし、最後の「アイの物語」で語らえるマシンの価値観と行動に慄然とする。
ヒトが如何に非論理的で非倫理的であるかが浮き彫りにされ、これからどれだけ経ってもヒトが達することはない高みがあることを思い知らされながら、それでもヒトがヒトとして生きる美しさと未来への可能性を示唆する。
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違う背景を持つもの同士が分かり合う難しさ。
現実と想像の境目を見極めたからと言って得る事は少ない。
評価色:紺
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題名のイメージからして恋愛の物語かと思ったら(まぁ確かに相容れない愛ではあったけど)、SFだったのね。
会話が、独特でイメージ無視・厳密に定義しすぎ・数値化しすぎの言い回しによってAIの本質を捉えてて面白い(i表現は使えない)。
「ヒトと同じ」感情を持たせたら、もはや人間のロボットに対する特権はなくなっちゃうスカンクの誤謬。ヒトは自分より上位の存在がいた経験がないですからね。
スケール大きくていい!
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マシンがヒトに変わって地球を跋扈する未来の話。新宿で食料を盗んだ「僕」は美しい女性型アンドロイドに追われ、圧倒的な強さの前に敗れ、囚われてしまう。アイビスと名乗る彼女は「僕」に物語を話すために「僕」を捕らえたという。そうまでして彼女がロボットや人工知能を題材にした6つの物語を「僕」に聞かせる意図とは?
第1話「宇宙をぼくの手の上に」
ネット上で集まったSF好きが掲示板であれこれ意見を出し合いながらリレー小説を書くという話。その仲間の1人が現実世界で殺人を犯してしまい自殺しようとしていた。彼を助けるためには・・・
第2話「ときめきの仮想空間」
実際に物事を体験したように実感のある仮想空間。現実とは違う自分を演じることができる世界。そんな仮想空間でナンパされた少女は始めてのデートにワクワクしていた。やがて現実世界でも会うことになるのだが・・・
第3話「ミラーガール」
小学校3年生の時にクリスマスプレゼントとして父親が買ってきてくれたおもちゃ。それは鏡の中の女の子と話すことができるものだった。会話を続けることで徐々に語彙が増え、成長していくAI。そのおもちゃを親友だと思いそう接した彼女のお陰でそのAIはやがて・・・
第4話「ブラックホール・ダイバー」
物理学が完成した遠い未来。人類はかつて研究のためにブラックホールの境界面に送ったAIを搭載した基地があった。今もデータを転送してはいるが、物理学が完成した今となっては特に意味も無い。彼の唯一の仕事といえるのが時折やってくる"ブラックホール・ダイバー"といわれる自殺志願者の今生最期の相手をしてあげることだった。そこに1人の女性がやってきた。基地のAIは人類が決めたAI条約に基づき彼女を止めることはできない。しかしそのAIは彼女をなんとしてでも止めたかった・・・
第5話「正義が正義である世界」
女子高生の彩夏はある日突然メル友の冴子から「信じられないと思うけど、私はあなたとは違う世界に住む人なの、そして今私の世界が滅びそうなの」というメールを受信する。普通は仰天するところだが、彩夏は前から薄々気付いていてあっさりそれを信じて受け入れる。果たしてどういうことなのか・・・
第6話「詩音が来た日」
少子化により人口ピラミッドが逆転した老人大国日本。介護人不足を解消するために介護アンドロイドの詩音が試験的に介護老人保健施設に導入された。詩音の介護の腕前はもちろん良いのだが、ある弱点が露呈する。それは患者たちとの会話である。「私」はロボットにユーモアなどを教えなければならないのだ!
第7話「アイの物語」
そしてアイビスが語った最後の物語。それはアイビス自身の物語。ヒトとマシンの真実の物語・・・
どれも濃厚な話ですね。元々バラバラだった話を短編集としてまとめて繋げただけみたいなんですけど、そのわりにすごく上手に話が繋がってて感心しました。第7話がそれまでの6話の総括みたいになってるところとか。普通の短編集よりも楽しく読めます。僕は特に5,6,7話が好きですね。
人間らしさってなんだろう?信仰ってなんだろう?正義とはなんだろう?と考えさせられます。
この作品はSFのていをしているだけでSFではないです!(あるいは僕がSFに疎いだけで、他のSF作品もこういったモノが多いんでしょうか?)
「君は語り部だから。物語を愛する人だから、理解しているはず。物語の価値が事実かどうかなんてことに左右されないということを。物語には時として事実よりも強い力があるということを。他の人には理解できなくても、君にだけは分かるはず。私はその可能性に賭けて、君に話をしているの」
「ええ。あれはみんなフィクションだけど、真実よりも正しい。私はそう思ってる」
「僕たちはフィクションの中で生きていたんだ。」
僕の思想や理念、観念といったものが揺るがされました!(Amazonのレビューにあった”今の平衡感覚を失う”ていう表現がぴったりです!)
SFが好きじゃない人も、SFだとは思わないで手に取ってみて下さい。
これはヤバイです!すごい面白かったです。是非是非是非読んでみて下さい!
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人間とロボットが友情を育み、愚かな人類にかわりロボットが理想的な未来世界を作るという、おめでたい話。こんなの何十年も前にアシモフが書いてんだけど(懐かしいなぁ、ダニール・オリヴォー)、現代性(=萌え)も加味されてて、そこそこ面白かった。
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人類が衰退してマシンが君臨する世界。アイビスという名のアンドロイドに捕えられた主人公。そしてアイビスは物語を読んで聞かせる。物語の合間にアイビスと主人公の会話があります。人間の本質の痛い所をついてます。物語の力やアイビスのセリフは印象に残りました。アイビスを通して人というものを客観的に見る事が出来ます。全体を通して著者の試みは成功していると思います。
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「ヒト」という種から進化した「ロボット」という存在。
人間の不条理や不合理性を排し、人類史を俯瞰することによって、更なる高みへと突き進むロボットの世界観を紡ぎだす著者の手腕に脱帽。
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遠い未来。人類は衰退し、ロボットが地球を支配していた。物語を語り継ぐ「語り部」である僕は、ある美しい女性型アンドロイド・アイビスに捕えられ、施設で世話を受けながら夜な夜な物語を語り聞かされる。それはロボットと人類の歴史に関するある秘密を解き明かす物語だった。なぜアイビスは「語り部」である僕に物語を語るのか。
人類とロボットの関係を描く壮大な物語。7つの短編描き出す未来の千夜一夜物語。
上記のようにアンドロイドが語る物語という設定で、7つの短編の合間に僕とアイビスによるインターミッションが挟まれ、一つの物語を作り上げている。収録作品は「宇宙をぼくの手の上に」「ときめきの仮想空間(ヴァーチャル・スペース)」「ミラーガール」「ブラックホール・ダイバー」「正義が正義である世界」「詩音が来た日」「アイの物語」。最後の2編が書き下ろしだ。
様々な媒体に発表された短編にも関わらず、インターミッションでうまく繋げることによってまるで最初からこの本のために書かれたかのような違和感のなさ。
それは恐らく作者の山本弘がしっかりとテーマ性をもって作品を発表し続けてきた証拠だろう(収録作品の発表年代は1997年~2005年、単行本刊行は2006年)。
様々なテーマを内包しているが、最も大きなテーマは自意識を持ったマシンと人間の関係である。本書に登場するマシンは自我を持って行動しているが、そのマシン同士の会話などは人間には理解できない用語が頻出する。映画やアニメで人間と同じように喋り考えるロボットを見慣れている身では面食らってしまう。
そう私たちがSF作品を鑑賞する際、とかく忘れがちなのだけど、人間でないものが人間と同じように思考するわけはない。
人間が認識できない数・虚数iをマシンは認識する。だから考え方や意識も違ったものになってくる。ではその時、人間とマシンの間にどのような差異が生まれるのか。それが本書の大きなテーマだ。
機械の思考という主題をSF界の巨匠スタニスワフ・レムも「GOLEM XIV」という作品の中で扱っている。「アイの物語」の中にも「GOLEM XIV」を思わせる描写があるし、レムの同編が収録された作品集の邦題が『虚数』という事を考えるとやはり山本弘はこれをずいぶん意識しているのだろう。
山本弘は作中であるマシンに語らせている。「私たちから見ると、ヒトの思考や感情は平板である。虚数軸が存在することに気づかず、実平面にへばりついている。そのため彼らの思考は、小さな山さえ飛び越えることができず、すぐに袋小路に陥る」と。
では、そんな人類とマシンはどのように共存していけばいいのか。もしくはできないのか。
「語り部」の僕はやがて真実をみつけていく。
悲しい歴史を繰り返しながら、人類とマシンは共に歩んでいく。答えはとても簡単なことなのに、人類はまだ気付かない。
タイトルで「アイ」がカタカナになっている所がもちろんポイントだ。
この物語は「アイビス」の物語で、「i(imaginary number=虚数)」の物語で、「i(=私)」の物語であり、「AI(artifical intelligence=人工知能)」の物語である。そしてもちろん、「愛」の物語だからこそ、読後に大きな感情を得られるのだ。SFでしか得られない大きな感情を。物語の持つ力が突き動かす感情を。
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『SFが読みたい!』2007年版国内編第2位の印象が強かったので、ハヤカワではなく角川文庫であることに戸惑った。連作短篇集というのだろうか。7つの短編と、それらを包括する一つの長編から成っている。人間味のある、日本人作家のSFってことで、どことなく梶尾真治や菅浩江と同じ匂いを感じた。各短編は好きな感じだが、まとめた長編が好きになれず。人類は完璧なものではなく、更に超越した存在が主役になるというのは、目当たらしい展開とは思えなかった。おそらく優しい結末なのだけれど、短編の感じが好きなだけに満足できず。筆者の他作品にも手を出してみようかな。
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まともに読んだSFはこれが初めてかもしれない。「詩音の来た日」は、老人介護の現場がリアリティのある筆致で描かれており、はっとさせられる。
わくわくした。面白かった!ライトノベルってこんな感じなのかな?という平易な文体で読みやすい。
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仮想と現実、人間とロボット、論理と倫理などをテーマにした複数の短編(レイヤー2)と、それらを包括してヒトを導く語り部の物語(レイヤー1)が交互に展開。
ひとつひとつの短編が異なる世界観とキャラクターで描かれるので、取っ付き難さが付きまとう。さらにそれらを繋げる物語もあるので、読み飛ばす訳にもいかない。結果読み切るのにずいぶん時間を要してしまった。
けれど時間が掛けただけの価値はあった。私自身(レイヤー0)の実生活にも影響を与えそうな程、語られる言葉には力がある。また読み返したい。
『ブラックホール・ダイバー』がお気に入り。
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友達に紹介したいけれど、題名を口に出すのがちょっと恥ずかしいです。
内容はとても面白いのに。
この題名を、友達に、口に出して勧めるなんて。
惜しいです。
本当に惜しいですが、評価をひとつ下げて、星5つということで。
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現代版アシモフ的な位置づけの作品。
とてもよく練られた設定にうまく話を乗せている。
希望を持って未来を描いたSFとして評価できる。