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あの頃、想像されていた「人工知能」
2019/05/26 17:47
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投稿者:あられ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「アイ」は「AI」で、2010年代後半に「エーアイ」というカタカナ語が一般に広く浸透する前の本です。
7編の短編小説を、それぞれの間に挟んだインターミッションでひとつの大きな物語として綴り、さらにプロローグとエピローグを置いて、一冊の本としてパッケージしています。
初版がハードカバーで平成18年(2006年)に出ています。収録されている7編のうち2編は書き下ろし、ほか5編は1997年、99年、2003年、04年、05年に発表されたもの。
つまり2019年の今、この本を読むことは、かなり近い近過去においてやや遠い近未来を描いていた作品群を読むということにほかなりません。「人工知能」が「SFの世界に出てくるもの」だった時代はもう過去になっていますが、実際には、現実世界で(おそらく投資を呼び込むために)イメージだけで語られている「人工知能」像のほうが、この小説で描かれている「人工知能」よりよほどSFじみています。
そういう点、ある意味で足元を見直せる本かもしれませんね。
最後に、好みの問題かもしれませんが一応……。日本のSFがとっつきづらいのは、理屈云々ではなく、独特の「男目線」の臭みがあるせいだと思うのですが、この本も例外ではありません。本題以前に、「ぼーっとしている男子の世話を焼き、テキパキと指導する、可愛い(自分のタイプの)女の子ロボット」「男子の成長を促す女子」というプロトタイプの連続は、読むのが苦痛でした。(ハインラインにせよディックにせよ、翻訳もののSFではこんな苦痛は感じたことがないと思うのですが、それは私があまりたくさんSFを読んでいないせいかもしれません。)
あと、これも好みですが、情報量のわりに言葉数が多すぎて、読むのに時間がかかりました。人工知能はこういう文章をどう読むのだろうという感想を抱いています。
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ヒトが衰退しマシンが栄える未来の地球。
面白かった!!
「神は沈黙せず」の難しいイメージがあったので警戒してましたが一気読み。
布石を打って遠回りして意外な所に落とす!の趣向は似てましたがこちらの方が断然面白かった。
不思議なリズムのマシンの会話もなんか良かった。
なんかもう、人間馬鹿でスイマセンって感じ。
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長いけど、すぐ読めました。一つ一つは独立した物語ですが、終着点は全て同じ。機械とヒトの物語。面白いです。
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機械が地上に君臨し、戦いに敗北した人間は細々と暮らしながら衰退しつつある、数百年後の未来。
コロニーからコロニーへ流浪する一人の「語り部」は、ある日うつくしい女性型アンドロイドに捕らえられる。
彼女の名は、アイビス。
アイビスは「語り部」に、遠い過去に人間が作った物語を読んで聞かせる。
それは、人間とアンドロイドや人工知能との物語。
彼女が物語を聞かせる、真の目的とは?
機械と人間との、ほんとうの歴史とは?
はたして、物語は人間を救えるのか?
機械とヒトの千夜一夜物語。
とにかく、アイビスの語る物語の一つ一つが面白い。
共通しているのは、「物語とは」そして「AI(人工知能)とは」という問題。
後者は、「人間とは」という問題と表裏の関係にあると言えるだろう。
げんに、小説は終盤になると、この「人間とは」という問題に迫ってゆく。
知的存在としてのヒトの限界はどこにあるのか。
それに対する答えは、衝撃的だった。
ここ1〜2年で読んだ中で、もっとも素晴らしく感動した小説でした。
おすすめします。
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アンドロイド「アイビス」が人間の少年である「僕」に対して、アンドロイドと人間の関わりについての物語を聞かせる。それらの物語は単純にアンドロイドと人間との関係を綴ったものではなく、アンドロイド自身や人間自身の存在そのものについても示唆に富む。
「理解できないものは退けるのではなく、ただ許容すればいいだけのこと。」
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「衰退した人類の生き残りの少年と、地球の支配者となったアンドロイドの交流を通して、異種族間の理解と物語の力、人類の存在の意味まで語りきった異色作」
というと大上段な感じだが、短編集を独自の味付けで編み直して、人類の想像の産物としての人工知能を作者なりに意味づけたようなお話。
おそらくは普段から作者の考えていることがかなり一貫していて、様々な問題のある現実と、夢物語としてのサイエンスフィクションとしての解決に同様の理論、理想論があるから、このようなお話に編み直せるのだと思う。
このお話の中で「バカの壁」的に人類の限界が示されるのだが、衰退した人類の突きつけられる限界としては苦さが無く、腑に落ちる感じが面白い。
力が足りなくても、万能ではなくても、それを嘆くばかりでなくやれることをやろうという気にもさせてくれる、良作でした。
短編集として、一番印象に残った話をあげようかとも思ったけれど、短編部分もそれぞれの良さがありながら、やはりこの本は、こう編まれたから心に残るのだと、思うのですよね。
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いや凄い。
何の予備知識も無いまま、殆ど偶然的に手に取った本だったと云うこともあり、予想以上に色々吃驚した。
人と云うもの、一番の魅力。抱える自己矛盾。理想と現実。キレイ事と云われるものすら、創りだすのは人自身。その事実。
物語の力=人の力(数少ない美点)。
読者が、作者に愛されていると感じることのできる物語。
すごい!すごい!すごい!
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物語の力かあ。確かにこの物語には、世の中を変える力があるかもしれない。
詩音の告白も、フィーバス宣言も、アイビスの言葉も、納得してしまった。
ヒトのコミュニケーション能力が極めて低いことに、実はもうみんな気付いているんだと思う。でも結局、ゲドシールドの内側は心地いい。
『理解できないものは退けるのではなく、ただ許容すればいいだけのこと。
それだけで世界から争いは消える。』
とのこと。そうかもなあ。
他の山本弘さんの小説を読んでみようと思う。
世の中を変える力に触れてみよう思う。
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自分と異なるものを、拒絶するのではなく、ただ許容する。
ヒトのコミュニケーションの限界を示唆しながら、その壁の向こうの希望を感じさせるSF作品です。
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山本弘さんの作品はこれで二冊目。
前に読んだのは詩羽のいる町とはまるで雰囲気が違って、驚きました。
荒廃した世界に、主人公の頑な先入観、アイビスの不思議なキャラクター。
アンドロイド(AI)とヒト、被創造物と創造者という立場から、共存というテーマが
7編の短編を通して描かれています。
必ずしも共存に理解は必要ない。
理解できない事も許容できる寛容さ、それが大事なのだと。
そう諭すように語るアイビスに、ヒトの理想像が確かに見えました。
手に汗握ったり、大声で笑ったり、涙が流れる。
そんな一冊ではありません。
でも、静かだけど、確かに心を打つ力を秘めている一冊だと思いました。
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久々に本を読んで感動した。
こんな愛に溢れた話は人間には毒だ。
酸素だって100パーセントは毒であるように、美しすぎる倫理論は人間にとってまぶしすぎる。
物語の力、フィクションで在ることの強さ。
書き綴ったのは人間
この矛盾
異なるモノを許容する事
多分みんな心の中の片隅にあると思う
答えは出ているが
実行することの難しさ
無意識下で行えるようになれば・・・
理想的結末に至れるのかもしれない
3プラス10i
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読み進めて行くうちにこれは短編集なんだなと思っていたらやはり各所で発表した作品を集めてストーリーテラーに語らせたという形式の短編集だった。
バーチャルな出会いやAIが人の心を持つことは20年前なら「斬新」、10年前で「普通」だったと思うが、このタイミングでは少し出遅れている感を感じてしまうし、古典的なSFのように感じてしまう。
ただひとつひとつ話が組み上がって行く様を楽しむ娯楽作品としては楽しめるだろう。
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本書は1体の女性型ロボットが5つの物語を1人の少年に読み聞かせるという体を取っており、その1つ1つが独立した物語として楽しめ、最終的にある大きな物語へと繋がってゆく。
人とロボットのふれあいというありがちな展開ではなく、多角的な視点で仮想現実やAIをより"現実的"に捉えており、中でも「詩音が来た日」(詩音=ジオンのモジリ?)はオススメ。
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人類が衰退し、マシンと呼ばれる機械に世界を明け渡してしまった未来。
人間は機械の目を盗み、食糧や物資を奪うことでなんとか生き延びている…
食糧を盗んで逃げる際、美しい女性型戦闘用アンドロイドに見つかり、捕まってしまった青年。
しかし彼女は青年に危害を加えるつもりは無いらしく、それどころかケガをした青年に治療を施します。
動けない青年のベットの横で物語を語って聞かせる美しきアンドロイド。
それは人間と機械の交流を描いた、はるか昔の物語…
テーブルトークRPGが好きで、山本弘さんの名前は以前から知っていたのですが、本格的なSF作品を読むのは初めて。
人間とロボットの戦い。
果たしてロボットに心はあるのか?
といった古典的なテーマも含まれていますが、
果たして人間はそれほど優れた生き物なのか?
という疑問にスパッと切り込み、アッと思わせる結末で締めくくっています♪
アンドロイドから見た人間の評価というのがとっても興味深いです。
ちょっと後半、格闘ゲームの描写が多いのには辟易しましたが、共感できるところも多々ありました。
何より、「物語」の持つ力について書かれているところには強く同意!!
日本のSFも頑張ってるなぁ☆
他の作品も読んでみたくなりました♪
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人とロボットとをテーマにした連作短編集。
あまりSFを読まないからかもしれないけれど、こんなに深く真正面からロボットを扱った話は初めて。
特にロボットの意識感覚についての記述は面白かった。ロボットの意識が人間とは違う方向に発達して、人とは理解できない領域に達してしまう、というのはあり得ない話じゃないかもしれない。
それと、一つ一つの話は人とロボットの話なんだけど、全体としてみると、同時に物語を語ることそのものがテーマでもある。千夜一夜物語と同じような構図で、ここではロボットが人に対して人とロボットの話を語る。
何かを物語ることは、他人に自分の中の何かを伝えようとすることで、何かしらを相手と共感したい、ってことだと思う。だから、ロボットが人に何かを物語るってことは、それこそ人とロボットとの一つの物語ってことなのかもしれない。