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労働者の悲哀 不条理への憎しみと怒り
暗い、臭い、汚い場所で、疲れ果てボロ切れのようになって死を待つ その描写にゾッとする
船乗りだった元彼が、海の上は法律が適用されないから、なんて冗談めかして言っていたのを思い出した
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小林多喜二と並ぶプロレタリアート文学の旗手、ということで読んでみた。
小林多喜二よりも、モダンな感じがする。
同じ福岡県出身ということもあって、夢野久作っぽいところもあるが、気のせいかもしれない(夢野は福岡市、葉山は京都郡)。
短篇が8編収められているが、最後の「氷雨」が秀逸。
小林にしても葉山にしても、共産主義革命家として国家の弾圧化での芸術活動は冗談事ではなく、小林多喜二は警察に拷問で殺されるし、葉山は拘留中に二人の子供が餓死している。
「氷雨」は共産主義から「転向」後の作品と言われているが、窮迫状態の中で書かれたこの哀切きわまりない心境の作品を「転向」と結びつけて語ってしまうところに、日本の(日本だけではないかもしれないが)共産主義運動の芸術観の貧しさ、ということはつまり人間把握の貧しさがあって、そうした痩せ細った思想の極限状態での暴走が、閉じた世界の中の異物排除の論理―内ゲバの世界―を産んでしまうのだろうと思う。
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興味を持ったのは『蟹工船』の小林多喜二が影響を受けた文学ということ。『蟹工船』を読んで思った、いわゆるプロレタリア文学の思想とともに、リアリズムだけではない、臨場感のある生き生きした表現の、よってくるところを知りたかったからです。
期待通り、鮮烈な文章でした。表題作『セメント樽の中の手紙』(青空文庫で読めます)は1970年~80年にかけて高校の教科書に載ったそうですが、短い文ながらたしかに、しまりのある一編です。
セメントの中に入っていた手紙の文面も鮮烈ですが、その手紙を読むことになるセメント袋をあけるのが仕事の労働者の様子に圧倒されました。またその生活が溜まりたまったものがこもっているのには、なんとも言い得ない気持ちになります。
この文庫に収められている他の短編も『死屍を食う男』というホラーものを含め秀逸だと思います。『労働者の居ない船』が『蟹工船』に似ているかもしれませんね。わたしは『浚渫船』も使い捨てにされる労働者の荒んだ気持ちがよく表されていい作品と思いました。『淫売婦』は底辺の人々のうごめく様がすご過ぎるのですが、やはり小林多喜二が文学上の転進をした作品というのもうなずけます。
なお、いまのところあと『淫売婦』『死屍を食う男』『氷雨』が青空文庫で読めますね。
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悲惨な現実を知ることになっても
たまたまだとか、それが普通だとか、自分はまだましだとかいう思いが心のどこかで自分自身を縛りつけて
これまでの生活から抜け出そうと何かを変えようと行動に移すということが出来ないのは、今も昔も変わらないのかもしれない