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ティベリウスからネロまで。
正直アウグストゥスの時代をややかったるく読んでしまったのでどうかな…と思ってたんですが、読んでみると案に相違して面白かった。
印象的なのはティベリウス、クラウディウスの堅実な代わりに華のない治世のあとのカリグラ、ネロの即位時の市民や元老院の熱狂。
特にネロの即位時はカリグラを彷彿とさせて、華々しいことばかりに終始しティベリウスの黒字財政を破綻させた、かつてのマスコットだった若き皇帝のことは思い? 出さな?? かったのか??? と首をひねってしまうのだけど、当時に生きるということはそういうことなのかもしれないなあ。
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ローマ人の物語は、塩野ファンのみならず、どなたにもお勧めしたいシリーズ。この巻では、悪名高い皇帝たち。ここまで、こんなダメ皇帝が続いてもびくともしないローマって?
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アウグストゥスの後を継いだ4人、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、そしてネロのお話。
これが「ある程度歳取ってて、地味だけど確実に成果を上げる人」と「若くて目新しいことを色々やるのだけど結果は無茶苦茶な人」が交互に皇帝になってるのが面白い。
そして後者は結局暗殺されたり自死に追い込まれたりしてるのが帝政のイメージとちと違うところ。
でもまあ、興味深いのはやっぱりネロ。
ローマ帝国のことを特に知らなくてもネロの名前は「暴君」の接頭辞で知ってる人が多いはず。
でも、後世にまで「暴君」として名が残っているのは、「キリスト教を(最初に)迫害したから」では?と示唆する内容、と言ってよかろう。
ネロより多くの血を流させた指導者はたくさんいたのだし。
それはタイトルの「悪名高き」という表現にも現れていると思う。悪名は高いけど、愚帝とか暴君とかは書いてないのよね。
(9)のタイトルが「賢帝の世紀」なのと対称的。
…ま、もちろん、塩野女史の解釈を受け入れるならば、ということなのだけど。
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20210509
ティベリウスはパクス・ロマーナを守り、帝政をシステム化して多くの人材を発掘した賢帝。カリグラはティベリウスの不人気を見て人気取りに固執して自滅。クラウディウスは歴史を鑑にすることで期待以上の成果を成し遂げたが、畏敬の念を起こさせることができないという弱点により近親者に倒された。ネロは権威の源泉であった母と妻を殺し、ローマ火災後の対応で誰も求めない都市改造とキリスト教徒へ罪をなすりつけた上での残虐行為を行い支持をなくす。さらに、ギリシャ文化に傾倒して、自ら歌うという奇行も重なり、元老院と近衛兵の支持を失って自殺する
・誰にも優しく、アウグストゥスの血を受け継ぎ、ゲルマン討伐でも功績のあったゲルマニクスへのティベリウスの冷遇に見える扱いと、彼の若い死は帝室に暗い影を落とした
・ゲルマニクスの妻であった大アグリッピーナとの確執で家族は崩壊し、最期の10年間はローマを離れカプリ島に隠棲した。そこに情報伝達網を築き、的確な指示で帝国統治は正常に機能したし、側近セイヤヌスの粛清も隠遁の地からやり遂げた。しかし、民衆と元老院の支持は失った
・歴史家タキトゥスの評価はローマに住む市民を代弁するものです、数で言えば圧倒的多数を占める属州民も含めた帝国全体の福祉に基づいた評価ではない。ニュースに基づく史学ではなく、細かなファクトの積み重ねである考古学の成果をもとにしたモムゼンの評価こそが全体の福祉を考慮に入れている
・カリグラはカリスマであるゲルマニクスの子供であり、自身も軍団のマスコットであった。彼の人気取りへの執着は凄まじく、神になろうとさえした。☆若くして全てを手にしたため、際限ない虚栄と、長く続くであろう治世への人々の恐怖を生み出した
・クラウディウスのガリア人への元老院議員の割当に対する賛成演説はローマの敗者をも同化させるポリシーの核心を表現。
・敬意を与えない立ち居振る舞いのために、解放奴隷たちと妻の放縦を許し、自分の息子を皇帝にしたい小アグリッピーナの野心によって殺されたのではないかといわれている
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1.ティベリウス おっさん
外観は共和政で内実は帝政を引き継ぐことに不明瞭さを感じる。誇り高き人で自分に厳しく周りにも冷徹。情で動かず着実に帝政の安全保障を進める。名門の出であることから、元老院との二人三脚を目指したが、阿呆に着いていけずむしろ帝政を盤石のものに進める。
2.カリグラ 若者
ティベリウスのように厳しく国益を追求すると民衆の不満を買うことが分かっていたため、民衆が喜ぶ政策を財政無視で行う。すぐさま膨大な国家黒字が赤字に。遠征に失敗し、手っ取り早い金策として元老院など富裕層から搾取するも、元老院はもちろん、民衆にも飽きられていた。統治4年目に殺害される。政治も人心も何もわかっていなかった皇帝ではなかろうか。
3.クラウディウス おっさん
担がれた形で即位したが、歴史学者で知識のあるクラウディウスはストア派に影響を受け公益へ奉仕する。真面目人間。
4.ネロ 若者
皇帝としての正当性担保として血は有効であったが、それを知らないネロは自らその後ろ盾をなくし、大したことない実力で勝負を挑む。カリグラと同じように、自己管理能力が甘く、承認欲求タイプ。空回りし、皆に煙たがれ退位。同時に、帝政にアウグストゥスの血が絶えることとなった。
勝者と敗者を決めるのはその人自体の資質の優劣ではなく、持っている資質をいかに活用するか。
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専門家や歴史好きの一部からは批判されているが、私はこのシリーズが好き。単純に面白いから。正確な歴史を知るというより、ローマ人に想いを巡らせる上で、とても役に立つと思っている。
「悪名高き皇帝たち」では、ローマ帝国第二代皇帝ティベリウスから第五代皇帝ネロまでの治世が描かれている。カエサルが道を開き、アウグストゥスが作り上げた帝政を、次代の皇帝たちがどのように治めていくのかがテーマになっている。
ローマ帝国の面白いところは、皇帝があくまで市民の中の第一人者であるところ。強大な権力が付与されるが、それには元老院と市民の支持が必要なのである。冠を被ったステレオタイプの王様とは全くの別物だ。どちらかというと大統領に近い。そして大統領と同じく、高度な統治能力が求められるわけだが、皇帝になる誰もがこの能力を持ち合わせているわけでもない。というのも、カリグラ、クラウディウス、ネロの3名は実力というよりは血統と都合により祭り上げられて皇帝になっているからだ。なので能力を測られもせず国のトップに立っている。その割にクラウディウスは優秀だったのがローマにとっては幸いだったかもしれない。カリグラみたいな皇帝が三連続してたら流石に帝国も崩壊していたかも。。いや、流石にその前に手は打たれただろう。何故ならネロ帝のヤバさを痛いほど感じた軍団や元老院は彼の殺害を画策したのだから。この時代のローマ人には、悪い状況を修正する気概と能力があったのだ。そして修正力は血統主義から能力主義への移行に生かされたようだ。
このシリーズの面白さは扱う時代に左右される。正直なところ、ハンニバル戦役を描く2や、カエサルを描く4、5の方が手に汗握って面白い。平和なローマとなると、どうしてもハラハラする展開が少なくなる。それでもそこそこ面白いヒューマンドラマが楽しめるので、これからもこのシリーズを読んでいきたいと思う。