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商人から賄賂を受け取り、過重な年貢を強いるー時代劇などで悪の権化のように描かれ続けてきた「代官」。しかしその実態は、部下の不始末に悩まされ、頻繁な転勤や多額の借金に苦労しながらも、全国400万石におよぶ幕府直轄領(天領)の徴税システムを支えた「江戸の中間管理職」であった。1200人を超える江戸幕府の代官たちの経歴を丹念に調査。悲喜こもごもの実態を通して、幕府という組織の本当の姿を照らし出す。(親本は2004年刊、2015年文庫化)
・序 章 代官の虚像と実像
・第一章 「代官」という仕事
・第二章 代官から見た幕政改革
・第三章 代官の転勤人生
・第四章 江戸の代官
・第五章 代官たちの危機管理
・終 章 したたかな農民と代官
本書を読むと、代官という職務がいかにリスクの高いものであったのかが良く分かる。幕政初期は、必要な経費が織り込まれておらず、多くの代官は年貢を使い込み、綱吉期の賞罰言明によって罷免(切腹・流罪・改易)に追い込まれる。また、代官を務めるには、手当以上に出費がかさみ、莫大な借財を負うこともある。その割に地位は高くない。旗本のなかでも役高150俵と最下層に属し、7割は罷免・死亡・勇退など代官のままで終わる。3割は布衣場(従六位相当)に出る。中には、勘定吟味役を経て、勘定奉行まで登るものもいる。仁政によりその功績を讃えられる人もいて悲喜こもごもであるが、代官の実像を知る上での、良書といえる。