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紫式部が探偵役を務める平安ミステリー。中宮定子の消えた猫の謎、堀河院真夜中の笛の音の謎、といった「日常の謎」を解決しながら、自身の作品の失われた一帖「かかやく日の宮」にまつわる大きな謎の解明に挑む。すごく面白かった。
なお、紫式部という呼び名は本書では使われないが、ややこしくなるのでここでは紫式部と書くことにする。
三部構成の第一部は、紫式部のもとで働く女童(めのわらわ)あてき視点で進んでいく。十二、三歳くらいだろうか。西の京のはずれで生まれ、母を早くに亡くし、ばばさまに育てられ、十歳のときに紫式部の屋敷にきたというあてきは、猫好きのおてんば娘。お食事を運んだり、お手紙の取り次ぎをしたり、御主(おんあるじ)の話し相手になったりとお仕えしながらも、迷い猫を見つけては屋敷に連れてきて飼い慣らしたり、こっそり屋敷を抜け出して遊びに行ったりと、意外にのびのびと暮らしている様子が面白い。
あてきの初恋のゆくえと、中宮定子の消えた猫の謎解きとが第一部の本筋だが、それらを楽しむうちにすーっと物語の世界に入り込めていて、紫式部の人となり、左大臣藤原道長の政治力、後宮の人間関係などがわかってくる。それがこの後に控えるメインディッシュを楽しむための綿密な仕込みになっている。
紫式部年表(ただしどれも正確なところは不明)と、本書で描かれている年代は下記の通り。
九七三 誕生
九九八 藤原宣孝と結婚
九九九 賢子誕生 ←【第一部】
一〇〇一 宣孝と死別
一〇〇五 彰子宮に出仕 ←【第二部】
没年は、一〇一四年説から一〇三一年説まである。本書では、【第三部】で語られる一〇一三〜一〇二〇の間に、出仕をやめ、亡くなっている。
第二部、第三部と時を経るに従って、紫式部もあてきも、人生のステージが移り変わっていっているのがわかる。第二部ではついに、失われた一帖「かかやく日の宮」の謎に迫り、紫式部と道長の関係性にも変化が見られる。そして第三部は「決着」。紫式部は自分の作った物語が見舞われた運命に対しどう決着をつけたのか。また、「事はどのように成し遂げられたのか」という謎に対するミステリーとしての決着も鮮やか。見事としか言いようがない。
丸谷才一と同じ問いを立てながらも、全く異なるアプローチでの解決を見せてくれた。今この瞬間の気持ちとしては、森谷明子さんの描いてくれた世界の方が断然、断然好きだな。でも、人々の「読む楽しみ」や物語作家の「書く苦悩と覚悟」に対する強い思いはどちらにも共通していると感じた。
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あの紫式部が安楽椅子探偵!
3章の時間の流れも良い。
もちろん源氏物語のあの巻とあの巻の謎への解釈が良い。
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毎月参加している横浜読書会 KURIBOOKS で2020年から始まった源氏物語の読書会。
1年で源氏物語を読み通すというのを三年続け(つまり、3回読んで)、今は4年目(4週目)
ここにきて、だんだんわかってきた気がする。
というか、源氏物語の周辺本を読む余裕が出てきた。
紫式部の生きていた平安時代を舞台に、
行方不明になった中宮定子の愛猫探しなどの小さな謎を、紫式部がホームズ役となって解決していく、連作短編でありながら、各短編を通して「源氏物語」の研究者の中でも意見が分かれる 失われた帖「かかやく日の宮」は存在したのか?という謎も追う。というか、作品としてはこっちの謎に挑むというのが本編かな。
実際には「かかやく日の宮」の謎だけではなく、なぜ「雲隠」の帖が、題名だけが残り、本文が無い謎も解いてる。
源氏物語を読んでいなくても、読めるけれども、読んでいたら、「かかやく日の宮」の帖がなぜそんなに重要視されるのかがわかるかも