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林芙美子の短編小説と若干の詩を集めたアンソロジー。
「風琴と魚の町」と「清貧の書」は1931(昭和6)年、「晩菊」が1948(昭和23)年、「骨」「牛肉」「下町」は1949(昭和24)年の作。他の作品はデータが無く、分からない。
巻頭の「風琴と魚の町」は、確か『放浪記』(1930)の中でも言及のあった作品で、極貧で親の行商の旅に随行する少女時代を描いた自伝的小説。やはり、この辺りが良い。
ぎりぎりの、ひどい貧困生活を描きながらも不思議と林芙美子の筆致からは明るさが醸し出されており、人がいかに苦しみ悩んでいようともその頭上には抜けるように青い空が広がり陽光が全てを照らし尽くしている、という、そんな原始的な明るさが、生命の躍動を支えて温かい。不思議なまでに彼女の文体はそんな明るさを放っている。
文章は名文美文とは遠く、文法的にも怪しげな部分もあるのだが、時折イメージが軽やかに飛躍し、「おっ」と軽く驚かせるような表現がひらめく。それはまさしく文学の、詩の、醍醐味である。
もっとも、晩年の作品は戦争をくぐり抜け混乱した世相を反映してなのか、やや暗い。「骨」「下町」などは暗い作品だ。それでも、そこにはじめじめとした停滞は無く、どこかに救済の光が隠されているようにも思える。
何となく、この作家が好きだ。