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評価が難しい本。本書でまず目につくのは、巻末に附された厖大な量の註である。これは、著者が丹念に取材にあたった証左ではなく、むしろその逆で、事実の誤認などがかなり多いために訳註を増やさざるをえないのだ。まずこの時点で、高い評価をためらってしまう。当時日本論がほとんど世に出ていないことや、取材時は戦時下で、情報を容易に得ることができないという背景は理解しているものの、それでも日本人からすれば常識的な部分にまであまりにも誤りが多く、積極的に肯定する気にはなれない。それを差し引いても、内容もはたして妥当なのかどうか。いわんとしていることはたしかにわかるのだが、どうにも腑に落ちない部分も多多ある。時代背景が違うため理解することが難しいということもあるのだろうけど、ちょっと偏見が過ぎる印象ももった。ただ、今日でもたとえば「空気」を重んじたりするようなところなどはよくいわれることであるが、そういった記述にかんしてはよく理解できるし、そのほかの部分と比較・対象すれば、その的確さにはむしろ舌を巻くばかりである。現代でもなかなかこういう民族論はかけないのではないかとも思う。なにより、戦時中日本に対してこういう見方があったのだということは非常に興味深い。正確性については疑問符はつくけれど、それはそれとして、この時代の日本人論として白眉であることは間違いないと思う。
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以前読んだ長谷川松治訳(講談社学術文庫版)よりかなり読みやすい.光文社文庫版もチェックしたいところ.
「菊と刀」の評価は過去にも多くなされているが,ベネディクトの見方に正しいものがあるというところは感覚的には理解できる.ただ,それは単純に結論として正しくなっているだけである.結論にいたる過程については荒削りであり,また不正確でもある.だからこそ大枠だけは正しいというところである.日本人の研究者は日本文化になじみすぎており,これまで,敢えてその「大枠」に眼を向けることがなかった.本書の価値はこの過去に抜け落ちていた視点があったというところであろう.
ただ,やはり彼女がつかんだ直感的なものだけでは学問としての位置づけは高く評価できない.結論は面白いし,結果としては正しくもあるだろうが,それで十分であろうか?
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日本語学関連の本に引用があった「菊と刀」
第二次世界大戦中の米国による日本の調査のひとつで、日本文化の把握が主眼となっている。
増刷されることからも、その貴重さは伺える…ものの、読了にはかなりの忍耐力がいる…。
なんせ、当然原文を尊重しているためか、注釈という形で誤認識補正に数十頁割いている。
しかも、結構な誤認で、必ず目を通しながら読む必要がある。
なお、言語に関する記述は、第三章76頁にありました。
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異なる文化圏の人が書いているのだということがひしひしと感じられる文章だった。自分たちの使う視点とは大きく異なる場所から自分たちの文化を見つめられる違和感が大きく、読んでいて脳に心地よい負荷がかかった。
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戦後すぐに出版された日本人論なので、現代では「?」な部分もありますが、おおむね的を得ているように感じます。ただ、一つの論点をだらだら書いててわかりにくい部分が多くみられます。
1.この本を一言で表すと?
・大きくはずれてないが、細部で間違いが多い、アメリカ人による終戦直後の日本人分析
2.よかった点を3〜5つ
・罪の文化、恥の文化(p272)
→現代の日本では、恥の文化が薄れてきているのが問題なのではないか?と考えさせられた
・身からでた錆への責任(p361)
→刀を比喩的に使った、大和魂をわかりやすく表現している。
・乃木将軍とロシアのステッセル将軍とのエピソード(p375)
→単純にいい話。相手を嘲笑するのは恥ということか。
2.参考にならなかった所(つっこみ所)
・注釈をみる限り、あまりにも勘違い、調査不足が多いと感じました
・そもそも、この本を読んだ欧米人はどれくらいいるのか、甚だ疑問
・義務と義理について、現代ではそれほど区別されていないのではないか?
・恩とそれに対する返済一覧表(p147)
→義務は等価返済?返済期限あり?自分の名に対する義理=名誉?どれも少しずれている気がする
・降伏後の日本について、平和国家になるか、好戦的な国になるか、状況次第と纏めているが、後に制定される憲法に影響されることになってしまった。
・人情の領域
→睡眠、食事等は個人的には当たっていると感じたが、現代の日本人一般的には外れている部分が多いと思う。
・タイトルの「菊」はどこからきているのか?
3.みんなで議論したいこと
・恥の文化がなくなった場合、宗教なき日本人にとっては、何が内なる神になるのか?
4.全体の感想・その他
・終戦前後の時代背景を考えると、日本に来ることなく、文献調査と聞き取りのみでここまで分析できたのはすごいと思うが、事実誤認も多く、なぜ現代まで語り継がれる本になったのかは疑問
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対比の例が面白い。
日本人の義理と、アメリカ人の借金(契約)
日本人の天皇と、アメリカ人の星条旗
侮辱に対する最後の反撃が自殺である日本に対し、絶望への屈服が自殺であると取るアメリカ
「睡眠と風呂と食事が娯楽であり、鍛錬が娯楽を経つ事なので、明日へのパフォーマンスを損なうにも関わらず、徹夜をするし食事を抜くし冷水浴を行う」下りはまだ現代にも残っている価値観だと感じる。
また、ピューリタン的価値観で善悪を計ろうとする著者は、すり合わせにかなり苦労した様子も感じる。
幼少期の他者と比較してからかい・脅すしつけと、決まりを守らないと仲間外れにされる恐怖感が社会の根底を作るという分析は現代もまだ残っていて変化していないのではないか。
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戦後日本の占領統治を効果的なものとするため、日本の土地を踏むことなく文化研究学者ルース・ベネディクトがまとめた日本人論。脚注において誤りも多数あるが、日本人の精神構造をアメリカ人と比較しながら論述することで、特徴的に描き出している。ほとんどが今でも有効なものではないか。
日本人は社会の中で自分に与えられた役割「其ノ所」を得てその役割を失わないよう努力する。相手に対する責務は契約関係に基づく「義務」よりはるかに広く概念的な「義理」であり、その義理を目立たぬ形で果たすことが美しいとされる。競争的に自分の貢献をアピールすることは相手の「其ノ所」を犯し恥をかかせることとなり、社会的に許容されない。日本人にとっては恥をかかされた場合、相手に見えない形での報復、相手への暴力を自分に転嫁した形での自殺により名誉回復をすることが義務とされていることから、見える形での競争を避け、相手に恥をかかせないことが重要である。そのため、事前の根回しや見合いにおける仲介人が本人を介することなく事前のお断りをすることにより、公衆の目に触れることなく社会的地位の調整がなされる。
天皇に対しては無条件の「恩」があり忠誠を誓う。これに対して一般から受けた「恩」に対しては、恩返しをしなくてはならず、なにか恩返しをしても相手からの恩は簡単につきるものではない。(これだけのことでは頂いた恩への返しは)すみません。返せないことが申し訳ないし、感謝していることを忝ないといって表現している。
日本人は自らの生き様を「刀」になぞらえており、自らの義理を果たしたいないことから生ずる恥「身から出た錆」を注ぐことは自己責任上重要な課題とされている。
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アメリカとの比較が面白かった。恥の文化と罪の文化。義理と愛。睡眠と食べ物について。人生の自由線がアメリカとは正反対であること。日本人の二面性について。斜め読み箇所も多かったが、目を通して良かったと思えた一冊だった。
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約40年前の古典。今の20代たちが見れば、祖父母、父親、母親がどういう日本人であったかがわかるでしょう。
特に子どもの育て方、祖先に対する考えなどわかりやすいと思います。
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戦前・戦争直後の日本の文化、日本人の考え方や人との関わり方など、日本人以上に理解したものと思われる。
菊と刀という相反するものを愛でたり、尊厳・尊皇、階級序列、義務、恩と礼、責任、義理、プライド、徳、鍛錬、教育など、外国人には理解し難い考え方を分析。
いかに犠牲を少なく戦争を終結させるために、日本人というものを理解することが重要となり研究されたことからとは驚き。
とはいえ、今の日本に失いつつあるものばかりの気もして、どれだけ共感を得られるのだろうか。
16冊目読了。