投稿元:
レビューを見る
タイトルになっている“デフ・ヴォイス“とは、ろう者が発する独特の声のこと。本書は聴覚障害、そして手話のことが全体に通底するテーマとして流れてはいるけど、ジャンルとしてはミステリに当たるか。私自身は小説として興味深く読んだ。文体は読みやすく、流れもスムーズで最後まで一気に読むことができた。
主人公はコーダ(ろう者家庭に育った聴者の子ども)で、かつて警察に勤めていた中年男性。職探しの果てに「何か特技や資格はないのか」とハロワの人からにべもなく言われ、半ば“仕方なく“手話通訳士の資格を取る、というのが何だか時代を映しているようでやるせない。
ミステリなのでいくつかの事件が絡んでくる。メインは主人公がかつての職場で一度だけ手話通訳“のようなこと“をした時の傷害致死事件と、どうやらその時の関係者がかかわっているらしきもうひとつの殺人事件。ストーリーに深く関わる部分はある程度予想がつき、あまり奇想天外なものではない。どちらかというと、そういった結末を予想しつつ物語の展開を味わっていくものであるだろう。主人公の心の動きは丁寧に描かれており、無理矢理な辻褄合わせなどもなく、“安心して読める小説“だと思う。
手話サークルに参加していたことがあって、その時に少しだけ“日本手話と日本語対応手話“のことやコーダという存在について聞いたことがある。また、ろう学校では長いこと手話を教えられずに来た(ので、年配の方は先天性のろう者であるのに日本語対応手話を使う方も珍しくない)し、むしろ手話は使わないよう指導されていたことなども知った。ふたつの“手話“に関する議論は難しく、そういうことが存在する、という形でしか知ることはできないわけだけど、少なくとも何も知らないよりは知っている人が増える方がたぶんいい。
本書は「読書メーター」で火がついたのだそうだ。寡聞にして知らなかったが、障害者にかかわる話だからと構えずに読む方がストーリーを味わえるのではないかと思う。
投稿元:
レビューを見る
聴覚障害を巡るあれこれに、ミステリーで味付け。本当に伝えたいのはたぶん前者の方で、コーダとかろう者の教育の問題とか自分には新しかった。
ろう者のスマホ活用事情とかが気になる。本編中に携帯を使った筆談とか全然出てこなかったので不自然に思えて。こんなものなのでしょうか?面と向かってLINEとか便利そう。
投稿元:
レビューを見る
ろう者が手話で、ろう者同士、または手話ができる人と話しをするという事は知っている。けど、ろう者と話しができるのは、手話ができる人だけ、(もしくは筆談)…くらいにしか考えたことはなかった。
けれど、手話にも「日本語対応手話」(日本語にあてはめていく手話)「日本手話」(日本語の文法とは全く違った独自の言語体系をもっていて、ろう者が昔から使っている手話。聴者や難聴者、中途失聴者などで使いこす人はまれ)があることも知らなかった。
そして、
公的な場や文書で「聞こえない者」を表すのに「聾唖者」と表記されてきたが、差別的だということで、「聴覚障害者」という表現になったが、実際に聞こえない者側は自分たちのことを「ろう者」というのを好むということもはじめて知った。
「健常者」「健聴者」のことは、ただ「聴者」と言っているというのも。
ろう者が日常生活で聴者たちとどう意思疎通させるのか、
それが、警察に取り調べを受ける時、法廷に立つ時だとどうすのか・・・手話通訳が必要です。
ろう者やろう者たちを取り囲む人たちの事情や、それゆえの苦悩を知ることが出来てよかった。
投稿元:
レビューを見る
手話通訳士の男性が、刑事事件を通して、
聴覚障害の世界を様々な角度から見せてくれます。
聞こえる/聞こえない、
二つの世界を繋ぐ男性の生々しいまでの想いが、
色んなことを考えさせます。
投稿元:
レビューを見る
山田太一おすすめ
色々考えさせられた。
ろう者が自分たちを障害者だと思っていないことはなんとなく知っていた気がするけど、手話が1つの言語として認められつつあることや、日本手話と日本語対応手話があり、文法が全く異なることなど、初めて知ったことも多かった。
投稿元:
レビューを見る
一気読み。「ろう者」「聴者」「コーダ」「日本手話」「日本語対応手話」等々…一冊の小説を読んだだけで、知らなかった様々な概念と、知ってたつもりの事が、一気にアップデートされた(無論これで全部知ったつもりにもならないが)。ろう者を、独自の文化と言語を持つ集団として捉える思考など、目から鱗が落ちるスライドもされ、「レインツリーの国」を読んだ時とも違う発見が幾つもあり、また小説から新しい思索の端緒を預かった気分。かように、ミステリーとして成立させながら、社会の課題をつまびらかにしていく筆力に感服。
投稿元:
レビューを見る
手話仲間に紹介された読んだのが、丸山正樹さんの「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 (文春文庫)」という一冊。手話での会話がふんだんに出てくるこの物語は、手話を学んでいる人には手話通訳士の働きぶりが興味深いと思うし、手話がわからない人でも”ろう者”の置かれている現状がわかる興味深い一冊だ。
《あらすじ》
警察関係の仕事についていた主人公の荒井は、自らの正義感が仇となって職場を追われ、さらに結婚にも失敗するという過去を持つ中年男だ。生活するために働き口を探す荒井は、本人的には不本意ながらも手話通訳士の資格を取得し、瞬く間に人気のある売れっ子手話通訳士として活動するようになる。
荒井は自らの生い立ちから自然と手話が身についたのだが、そのことで16年前にろう者が起こした殺人事件に関わることになり苦い経験をしていた。しかし、再び16年前の殺人事件と関連した新たな殺人事件が発生し、意図せず新たな殺人事件の謎に立ち向かっていくことになってしまう。
はたして16年前の殺人事件は自首したろう者が本当の犯人だったのか、新たな達人事件との関連はなにかあるのか。そして、16年前から荒井の中に残っていた苦悩を解決する術があるのか。事件の真相を追う荒井の前に、事件の真相を阻もうととする見えない壁が立ちはだかってくるが、徐々に真相に近づいていく荒井の前に意外な事実と16年前の事件の謎が明らかになってくる。
手話の勉強をしている者にとっては、手話を流暢に使う手話通訳士は一種憧れの存在だ。しかし、この物語を読み進めるうちに、単に「手話が上手だ」というだけではろう者との本当の意味でのコミュニケーションはできないということを感じることになる。
この物語を読み進めていくうちに、警察での取り調べや法廷での裁判などにおいて、手話通訳士が重要な役割を担っていることが徐々にわかってくる。だからといって、単にろう者の置かれている立場や社会的な課題に深く触れるのではなく、「聴こえない」ということが事件にどのように関連してくるのかなど、様々な伏線が随所に張り巡らされていて面白い。
福祉関連施設の持つ課題や社会を支えるNPOの活動、手話通訳者の置かれている現状などを的確に押さえつつ、親子の愛情や人と人との絆をも描いている、本格的な社会派ミステリー作品として読む者の心を掴む一冊だ。
読後は心の中に温かいものが流れてきて、秋の夜長に一気読みするには最適のこの一冊。文庫化されて書店の平台に並んでいることが多いので、皆さんにもぜひオススメしたい一冊だ。
投稿元:
レビューを見る
この本はただのミステリーでは無かった。キーポイントになる「手話」について、またそれを必要とする人たちや「手話」さえ出来ない「ろう者」もいる事。その人たちを取り巻く人や環境などの現状に無知だった自分を恥じた。ある男が職も妻も失い、唯一の特技の手話を使って仕事に就く。そこから男は事件にまきこまれてゆく。終盤で人生最良の日に「彼女」が見せた「声の無い告白」のシーンが美しい。事件は終わった。だが、作者のあとがきを読み、この世界を知る「入口」を教えてもらったのを、自分がどう生かしていくのか立ち止まって考えてみたい。
投稿元:
レビューを見る
ミステリー小説としての評価というより、聾唖についての理解が深まる。基本的にひとくくりにできな聾唖者のタイプと、手話の種類による分類、いろいろと考えさせられる内容だった。
投稿元:
レビューを見る
自分の知らない世界。
手話を日本語と別の言語と捉えて考えるのは恥ずかしながら知らなかった
。
ただ、法廷ものではないね
投稿元:
レビューを見る
ミステリーとしても十分読めるが、それ以上に啓蒙的な本だ。
いわゆる聴覚障害者は自らを「ろう者」と呼び、健聴者のことを「聴者」と呼ぶ。
これは単に耳が聞こえるか否かの違いだから、合理的だ。
日本で使われる手話にも2通りあり、ろう者独自の言語である「日本手話」と聴者が話す日本語の逐語訳である「日本語対応手話」だ。
両者は文法からして違うらしい。
ろう者の両親からはろう者も聴者も生まれるが、後者のことを「CODA」と呼ぶ。
CODAは必然的に日本手話を生来的に学習し、自身は聴者でありつつ、ろう者と聴者との橋渡しの役割を否応なく担わされる。
ろう者と何の関わりを持たない著者が、CODAの立場にたった内容の小説を書けた、しかも違和感や説教臭を全く感じさせないというのは、大変なことだと思う。
投稿元:
レビューを見る
本屋さんでふと見かけ、購入。一気読み。
福祉の世界というとどうも鼻につくイメージ(失礼)だったが、この作品は良い意味で裏切ってくれ、さらに深く考えさせてくれた。
書店でPOPを作ってくれた店員のみなさん。
感謝しております♪
投稿元:
レビューを見る
何も知らなかった。
ろう者に対して聴者と呼ばれること。ろう者をデフと呼ぶこと。ろう者を親に持つ聴者をコーダと呼ぶこと。日本語対応手話と日本手話という全く異なる手話言語が存在すること。“日本手話という少数言語を母語とする人々なのだ”という考え方。
知ったからといって、直接的に何かをすることはないかもしれないけれど、そういったことを知っているだけで今後の物事の受け止め方が幅広くなると思ったし、知れて良かったと思う。
本書の主人公である“手話通訳士”の男性はコーダである。彼のアイデンティティに関する哲学的な要素も含みつつ、ミステリーとしても面白かった。
“概念を知らないことや、固有名詞を手話で伝えることは難しいこと”など、散りばめられた伏線も綺麗に回収されていったし、読後感も良かった。
筆者の視点がとてもフラット。“ろう者は大変なんだよ!理解してよ!”と迫るわけでもなく、“障害じゃない、個性だ!”と声高に主張するわけでもなく、上手く言えないけれど、“ろう者の存在が聴者と対等だ”と素直に感じられた。
投稿元:
レビューを見る
ミステリーは基本的に読まない事にしているのですが、参加している本のSNSで紹介があり手に取りました。
確かにミステリーですが、純粋にミステリーとしての出来で見れば標準的レベルでは無いかと思います。やはりこの作品の一番良いところは「ろう者」の世界を描いた事でしょう。
日本で使われている手話には先天的ろう者はよく使う「日本手話」と、日本語を翻訳する形でできた「日本語対応手話」があることなど全く知りませんでした。
日本手話は独自の言語・文化であること。ろう者の両親の下に生まれた子は、聴者であっても、日本語に接する前に「日本手話」を理解することになること。家族の中に一人聴者として存在することの苦悩。言われてみればそうだけど、これまで全く考えた事も無かったろう者の世界が見事に描き出されます。
また、そうしたろう者の世界を、変な感情に流されず、きっちり描こうとする姿勢にも好感が湧きます。
とても読み応えがありました。
投稿元:
レビューを見る
全然、ろう者に対して分からないことが多く、
考えさせられた。
手話でも、二通りあったり、
聾啞者ではなく、ろう者という呼び方など。
展開的には、半分ぐらい読んだところで、
人間関係が見えてしまったのが、
ちょっと残念。