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2022年、フランスにイスラム政権が誕生。ファシストかイスラム主義か。キリスト教国には苦渋の決断だが、人々は適応していく。否、イスラム主義の寛容さに翻弄されているのかもしれない。ユイスマンス研究者である大学教授フランソワの視点で、逃げ出すユダヤ人、動き出すアラブ国家が淡々と描かれる。特に政治に興味を持たない彼が、いつの間にかイスラム主義の柔軟性に絡めとられる様に妙なリアリティがある。『0嬢の物語』を例に「服従」が肯定されるくだりには、つい納得してしまいそうだ。さて、本名を伏せられた翻訳者はあの人だろうか。
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2022年のフランスではイスラム教の国になってしまう。
そんなとき生きる目的に意味をあんまり見いだせていない冴えない大学教授の男はどうするのかを描いた本。
結局この男はイスラム教に何かを見たらしく、ちょうどイスラム教に改宗すれば大学教授に復職することができるので改宗するが。
イスラム教の国に仮になった場合、かなり世界が変わってしまうし、価値観すら変わってしまう。
服従することが幸福には必要だと説くルディジェ教授の言うことはごもっともな気がする。
私たちも知らず知らず無意識のうちに服従しているからだ。
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もっと政治政治した話かと思っていたけれど、かなり主人公個人の考えの変化が描かれていた。
社会がどうなるかの「シミュレーション」がなされているわけではないから、主人公の体験は主人公自身のものである。いくつかの評では、イスラム政権が成立したことを過大に扱っていたが、それは主人公にとって「きっかけ」もしくは「体の良い言い訳」だったのではないか。
もともと、家庭を求めていたのは主人公の方だったのではないか (彼の両親も、母は孤独に死んだのに対して父は愛する女性の下で死んだ)。
主人公は、そのような「俗世的」なものから逃れようと修道院に行くけれども、タバコ1本吸えない生活が耐えられず、結局パリに戻ってくる。イスラムとはいえどお酒も飲むし、逆にこちらが「世俗的」なのではないか。
最後に老いた教授が結婚しているのを、彼の教授就任パーティでしったことは、「自分にもできる」と主人公に最後の一押しをした。
環境でかくも簡単に思考の基盤が崩れてしまうのか?それともそんなものは元からなかったのか?
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[我が身と文明とを委ねて]2022年、フランス。その年に執り行われた大統領選は、社会の緊張という追い風を受けた極右政党と、カリスマ性を備える党首に率いられたイスラーム穏健派政党の一騎打ちに。国家のファシズム化を恐れた国民はイスラーム政党に傾き、フランス初のムスリム大統領が誕生するのだが、それとともに大学教授を務めるフランソワの身の回りにも変化が生じるようになり......。シャルリー・エブド事件当日に発売され、フランスを中心として大反響を巻き起こした作品です。著者は、本書の影響もあり、警察の保護下に置かれたとも言われているミシェル・ウエルベック。訳者は、現代フランス文学の翻訳を多数手がけられている大塚桃。
そのあらすじだけで若干引いてしまうぐらいの破壊力があるのですが、読んでみるとイスラームがどうというよりは、フランスないしはヨーロッパの「退潮」、もっと言ってしまえば「疲れ」のようなものがテーマにある作品だと感じました。11月も半ばに入りずいぶんと年も暮れてきましたが、2015年というタイミングで読んでおくべきものは何かと問われれば、私は間違いなくこの一冊を推します。
原著のタイトルが「Soumission」(注:「イスラーム」というアラビア語の単語が持つ意味をフランス語に置き換えたもので、英語にすると「Submission」に相当)であることから「服従」という日本語訳タイトルが付けられているのだと思いますが、下記の一文などと合わせて、なぜ著者がそれをタイトルに持ってきたかを考えながら読むのも興味深いのではないかと思います。まだまだ書きたいことはたくさんあるのですが、とりあえずオススメですのでぜひ読んでみてください。
〜人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力を持って表明されたことがなかった。それがすべてを反転させる思想なのです。〜
読んだ誰かとすぐに話をしたくなる類の一冊です☆5つ
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レビューはブログにて
http://ameblo.jp/w92-3/entry-12095941577.html
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私の周りにはウェルベック好きが意外に多い。そうしてこの作家が好きだという人たちはみな、ウェルベックのことをキワ物、クセ者として捉えていて、だからこそ好きだというへそ曲りな読者が多い。荒唐無稽な設定や決して上品ではない性描写から、例えばノーベル文学賞を与えられるような正統派とは全然違うところが魅力であるらしい。
一方でこの最新作の『服従』は、2015年の1月7日が本国での発売日だった。イスラム過激派に12人の編集者や風刺画家が射殺されたまさに凶行当日の紙面は、ウェルベックの顔が第一面を飾った。そこで彼はいかにも意地悪な毒舌家らしく醜く誇張して描かれていた。ウェルベックを知る人たちはその偶然にしては出来すぎの紙面をニュース映像で見て驚き、それ以外の人は一体これは誰だ、と思った。フランスにイスラム政権が誕生するという物語の設定と相まって、一冊の本としては異例なくらいのセンセーションを巻き起こしている。翻訳版の発売直後東京の大型書店では、最新の芥川賞作品2冊、直木賞作品1冊と並んで一番目立つところに平積みにされていたところもあった。又吉の受賞や秀作揃いの受賞作だったことから、大盛り上がりだった日本の出版界だが、そこに、話題のエンタメ系物語やビジネスの指南書なんかじゃない純然たる翻訳小説が肩を並べて売られていることはとても珍しい。
今まで敬遠していたこのアクの強すぎる作家の作品を私が初めて読んだのも、やっぱりこの事件があったからだ。興味本位からの入り方だったと馬鹿にされても仕方ない。しかし、一読後の私の感想は、キワ物作家の話題作という印象とは全く反対極の、コレはヨーロッパの歴史と未来を大上段から捕えた正統派文豪の一大傑作ではないのか、というものだ。
そこまでの褒め言葉が相応しい作品かどうかは、ぜひ実際に読んで各々が判断してほしいのだが、私からは象徴的なシーンをひとつだけ紹介する。
主人公の失職した大学教授が、イスラム政権発足後に就任したイスラム教徒の学長から改宗を迫られる終盤のシーンだ。主人公は、アラーに帰依すれば国立大学への復職も、元の3倍の給与も、何人もの妻を同時に持つことも可能になると勧誘される。
それに先立つ物語の前半、主人公は様々な事柄の“衰えと終焉の予感”を痛感する。
文学研究者として、研究対象としてきた作家にも作家としての頂点とその後の凋落期があったこと。
常に繰り返してきた、二十代の若い教え子と自由な恋愛関係を維持して行く“自らの男性機能の衰え、男としての情熱の衰え”。
自らの研究者としての“仕事の頂点にあることの自覚とその後の没落の予感”。
そうして何よりも“キリスト教を土台にしたフランスの、ひいてはヨーロッパの凋落の実感”。
以上のような諸々の事柄を前提として、主人公が学長から「人類の文明の頂点にあったこのヨーロッパは、この何十年かで完全に自殺してしまったのです」と説得される。学長はまた、「古代ローマ人は、自らの帝国が崩壊する直前まで、自分たちが永遠の文明であると感じていたであろう」とも言う。
そうしてそのシーンの舞台となったのは、ソルボンヌ大学にほど近いリュ���ス闘技場を窓から見下ろす学長の家の一室なのだ。私はこのシーンのこの場所の一点に注目する。
パリの史跡のひとつリュテス闘技場は日本語のガイドブックには一切記述がない。だから日本人観光客は誰も行かない。しかし、パリが古代ローマ帝国の辺境であったことの証であるこのコロッセイウムのミニチュア版の遺跡は、パリの地元では小中学校の移動教室で必須の見学場所である。
「ここは、パリが古代ローマ帝国の一部であったことの証です。そうしてこの建築様式はローマがギリシアから受け継いだものです。そして、ここが発見され発掘された150年前、パリは文明の完成度では世界の頂点にあったのです」
と説明を受けたことがパリジャンならば必ずあるはずなのだ。
それは東京の子供たちが、現在の皇居は150年前には江戸城だったと自明に知り切っているのと同じなのだ。
また、ヨーロッパの人々にとってイスラムの脅威が歴史的潜在意識であるのと同時に今そこにある危機であることも自明だ。
主人公がヨーロッパ文明の「自殺」を思い知らさられる場面の舞台は、ギリシアもローマも近代フランスの栄華も一瞬の幻に過ぎなかったことを象徴する場所であるのだ。しかも、その瞬間に、主人公自らの肉体の衰えの始まりと、精神の終焉の始まりとがぴったりと重ね合わされているのだ。
これほどの壮大なスケールの物語を見事に巧みな舞台設定で描いているこの作品を、私は正当な文豪の大作だと思わないではいられない。
テロ事件や難民の大流入で欧州全体が揺れている今よりむしろ、この一冊の真価が証明されるのは、何十年か後なのかもしれない。
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2022年にフランスにイスラーム政権が誕生するという仕立ての小説。主人公はなんともダメな大学教員で、他人事とは思われない展開。
戦慄したのは下記の部分。知っていたことだけれども。
「彼らは、通常の政治的に重要な点にはほとんど関心がなく、特に、経済をすべての中心に置くことはありません。彼らにとって不可欠な課題は人口と教育です。出生率を高め、自分たちの価値を次代に高らかに伝えるものたちが勝つのです。彼らにとっては、事態はそれほど簡単なのです。経済や地政学などは目くらましにすぎません。子どもを制するものが未来を制する、それ以外にはありえないのです。」(p.78)
解説にもあるように、イスラームの脅威というよりは自滅するヨーロッパの物語だった。
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出た時に話題になってるのは知ってたんだけど、ウェルベックって前に何か読んでちょっと合わなかった気がしてたんでスルーしてました。そこへパリの同時多発テロが起こって、ふらふらっと買ってしまいましたとさ。
オモロい。極右vs穏健イスラムってのはなかなかにおもしろい思考実験。そしてイスラム政権下のフランスの描写の不気味さ。なるほどね、という感じ。
唯一難を言うなら、解説佐藤優はないわ。何か読後感全否定されたような。普通に訳者解説でええやん。
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2022年、フランスにイスラム政権が誕生し、その流れが欧州・中東・アフリカを巻き込んで加速していくとしたら?
第一級の扇動者かつ快楽主義者であるミシェル・ウエルベックの最新作。彼の作品はどれも高いクオリティを保っており、読んで損をすることはないが、本作もそのクオリティの高さに舌を巻く。
ウエルベックの多くの作品がそうであるように、フランスにおける実在の人物や現代を出発点とする本作では、フランソワ・オランド率いる社会党とジャン=マリー・ル・ペン率いる国民戦線という左派の政治対立の中で、イスラム穏健派政党が躍進し、ついには社会党との連立という形でイスラム穏健派政党による政権が成立する架空のフランスの姿を描く。その歴史の中で、一人の文学者を主人公として、彼が属するアカデミックな世界がどのようにイスラム化の流れに対抗しつつも飲まれてしまうかを戯画的に暴きだす。
ウエルベックの多くの作品においてはセックスが重要なモチーフとなるが、本作でも主人公の自由な性愛が描かれる。社会のイスラム化が進行する中で、大学教授の職を継続して得るために主人公がイスラム教への改悛を迫られるが、その決め手となるのが一夫多妻制であり、そこにはつまるところ、「キリスト教であれ、イスラム教であれ、結局男は快楽を求めるだけだ」というウエルベックの悪意が表れている。
伝統的な西欧社会、来るかもしれないイスラム社会の双方に唾を吐き捨てるウエルベックの悪意はたまらなく美しい。
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パリでのテロ事件が起こり、今読むべき本として読んだ。
今回のテロ事件のため、この小説のように現実はいかないだろうが、ヨーロッパ特にフランスにおいてイスラムが勢力を増している状況はよく理解できた。
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聖職者の教えを歴史人はどう解釈していったのか。
今までも多くは男性が解釈し、文章化されて宗教として成り立っている。
「服従」を読んで宗教というものを考えさせられた。
多くの女性は、この本を読んでどのように感じるのか
宗教的文化圏によってさまざまであろう。
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フランスを舞台にした近未来小説。本当にあり得るかもと思わせる設定、流れの緻密さと、そこで生きる主人公の大学教授の生き方に対するなんとも言い尽くせぬ皮肉感。最後の選択の理由はそれなのか?!となるけども、実際そうなのかもな…と思う自分もいたり。この帰結がウェルベックのヨーロッパ的なもの、自由主義的なものに対する正直な印象なのかも。それがいいとか、わるいとかでなく。
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このディストピアはあまりにも唐突すぎる。イスラームとこのディストピアを結びつける説明がまったくない。
この部分がこの小説のトゲ。
以下引用
チェスタートンとベロックが導入していた政治哲学の根本的な要素のひとつは「補完性原理」だった。その原理によれば、どんな実体(社会的、経済的、政治的)も、それより小さい単位の機関に任せうる機能を担ってはならない。教皇ピウス十一世は、回勅「クアドラゲシモ・アンノ」にて、この原理に次のような定義を与えている。「個人企業や工場が達成しうることを個人から取り上げて共同体に与えるのが良くないことであるように、より上位で大きな組織が、より下位の小さい単位によって効率よく実現されうる機能を剥奪することは、不公平で、真剣な悪であり、あるべき秩序を妨げる」。ベン・アッベスが思いついた新しい機能とは、この場合「あるべき秩序を妨げる」のは、国という大きすぎる単位による割り当て、つまり社会保障そのものであるという内容だった。p202
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近い将来、この本に書かれている展開は全世界で、とりわけ閉塞感で息詰まる寸前の日本でも起こるかもしれないと肌で感じさせる小説だ。日本人の一部はそれを恐怖と思い、他の一部は期待に胸を震わせるのなら、すでに日本社会は、また価値観は断絶しているのである。金属疲労したすべての資本主義社会への警鐘か。
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近未来を扱ったフィクションだけど、とてもリアルな感じがする作品。
この本にあるように本当にイスラーム政権がフランスで近未来に登場するとは思えないです。ですが、次のような点で本当に起こりうる未来の描写であるように個人的には思われます。
昨今、アメリカでのトランプ氏の台頭や、ヨーロッパでの反移民・極右勢力の躍進など、これまで欧米諸国が自らを誇ってきた自由や平等、人道主義的な価値観はかなり崩壊しつつあるように端からみていると思います。そしてそういった価値観を信じ守り続けている人たちにとっても、本書の極右代表と(穏健だが)イスラーム代表の決選投票というような、まさにどうしようもない選択をせまられる未来と言うのは間近に迫っているような気がします。そのような選択を迫られたとき、民主主義というこれまで絶対的であった価値観にも崩壊が起きたと感じそうな気がします。
自由や平等、人道主義、そして民主主義など、これまで誇りに思ってきた価値観が次々に崩壊したときに、欧米の人たちはどのような気持ちになるのでしょうか。その一つの大きな可能性として、まさに「服従」、従う・信じることによる心の安寧、を著者は提示しているように思われました。
また、自分にも通じますが、現代社会に生きる人間がふとした瞬間に感じる虚無感もうまく描いた作品だなぁと思いました。