紙の本
極めて上質なアンサンブル
2009/09/17 17:32
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:analog純 - この投稿者のレビュー一覧を見る
僕がこんな本を読むとは、僕自身、数年前は想像もつかなかったですね。
バッハやベートーヴェンとかの作家論や作品論ならまぁ、判らないでもないですが、これは五線譜とオタマジャクシのある本です。
しかしこの本の作者は、極めて丁寧に書いてくれています。ただし、僕の理解が及ぶ前半については。いやこの書き方はおそらく間違っていますね。きっと後半も丁寧に書いてくれていらっしゃるんでしょうが、いかんせん、もはや私の理解が及ばないわけです。
例えば冒頭にこんなことが書かれてあります。
「音楽が存在するためには、まずある程度の静かな環境を必要とする。たとえば、鐘もしくはそれに類似する音が鳴り響いているなかで、鐘の音を素材とした音楽を演奏しても、その音は環境に同化してしまうので、音楽としては聞こえない。ちょうど、赤い紙に赤色のクレヨンで絵を描こうとするのと同じである。
しかし、程度を越えた静けさは、連続性の轟音を聴くのに似て、人間にとっては異常な精神的苦痛を伴うものである。」
これは、お父上譲りの異色の文才の発露でしょうかね。
前半部の取り上げた事例のオリジナルな諧謔みに加えて、あらずもがなの後半部。このアンサンブルは極めて上質なユーモアを創り出していますね。
さらに続けて、こんなことが書かれます。
「作曲家は自分の書いたある旋律が気に入らないとき、ただちにそれを消し去ってしまうだろう。書いた音を消し去るということは、とりもなおさずふたたび静寂に戻ることであり、その行為は、もとの静寂のほうがより美しいことを、自ら認めた結果にほかならない。
音楽は静寂の美に対立し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことの中にある。」
上質で明快で見事な説明ですね。
こんな書き出しの本は、この後の内容に対して大いに期待できますよね。
ただし、しっかりと五線譜の読める人にとってなら。
しかしどうして、僕には五線譜が読めないんでしょうか。
これは例えば、もはや僕に三角関数が理解できそうもないのと同じなんでしょうかね。
実際、人生には、何気ない分岐点が星の数ほどありますね。
きっと僕は、何を認識・予想することなく、そんな曲がり角の一つをすっと曲がったんだと思います。そして僕は、いつの間にか五線譜を理解できる街から、大きく隔たった人生の街角にひとり佇んでいます。
もしも人生をリセットし直すことができるならば、そんな大きなことでなくても、この五線譜の読める街へ続く小道を改めて見つけ出すというのも、なんだかとてもステキそうな気がしますね。
紙の本
芥川也寸志による音楽の哲学書
2015/09/28 01:05
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投稿者:みい - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は単なる音楽理論の本ではない。タイトルこそ「音楽の基礎」ではあるが、「基礎」は筆者の「根本的世界観」とでもいうべき内容である。いわば哲学書なのだ。
ヘーゲルが存在論を質と量から始めたように、あるいはマルクスが資本論を商品と貨幣から始めたように、この本も、もっとも単純な概念から始まる。
最初の章が「音楽の素材」で「静寂」と「音」が取り上げられている。しかも静寂の前提として、無音にまで言及しているのだ。その結果、音楽は、静寂を美しいと認めるところから出発する、とまで述べている。「静寂は音楽の基礎」なのだ。
このようなことは、音楽を聴くうえでも、演奏するうえでも必要なことではないかもしれない。しかし、この本を読み終えたときには、音楽に対する意識は今までとは違ったものになっているかもしれない。
紙の本
簡潔さが心地よい
2001/12/12 12:35
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投稿者:白井道也 - この投稿者のレビュー一覧を見る
はしがきもあとがきもない。いきなり本題に入る。その潔さが、まずもって心地よい。
述べられるのは、「リズム」「和音」「旋律」「記譜法」など、基礎中の基礎。歴史的な記述はほとんどないのだけれど、ドビュッシーやストラビンスキーの音楽はいかに革命的だったのかが簡潔に語られていて興味深かった。
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かの武満徹氏も、生前御代田の作曲小屋の机上にこの本を常に置かれて時々ページを開かれていたといいます。名著です。
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クラッシクから現代音楽、邦楽にいたるまで、音楽の素材(静寂・音)、音楽の原則、音楽の形成、音楽の構成とミクロからマクロに展開する。俗説に対しては心理学の実験などをひいて、かなり説得的に展開している。第二章からは、記譜・音名・音階・調性(原則)、リズム・旋律・テンポ(形成)、音程・和声・対位法・形式(構成)という構成で、教科書的な基礎がしっかり学べる。しかし、第4章の音程と和声は難解で、ピアノかシンセサイザーで試してみないとよく分からない。譜例が100以上もあり実際の音楽に触れながら学べるのはよい点である。
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文学的、心理的にも音楽を分析している本です。法学やクラシックなど、さまざまなジャンルの音楽から基礎を解析しています。はっきりいってとても難しいけど、その分とても勉強になると思います。音楽について奥深く知りたい方や、その道に進むうえで勉強する方にとっては、とても向いている本だと思いました。でも、初心者の方や興味本位だけでこの本を読もうというのは、避けたほうがいいかもしれません…。
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ブーレーズのハルサイ分析に批判的な感じですね。
私はブーレーズのハルサイが自演より好きなので、それは同意しかねる。
しかしとりあえずは、体系的にまとまってて面白く読めました。
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[ 内容 ]
人それぞれに音楽を聞き演奏して楽しむ。
しかしさらに深く音楽の世界へわけ入るには、音楽の基礎的な規則を知る必要がある。
本書は、作曲家としての豊かな体験にもとづいて音楽の基礎を一般向けに解説したユニークな音楽入門。
静寂と音との関係から、調性・和声・対位法までを現代音楽や民族音楽を視野に入れつつ詳述する。
[ 目次 ]
1 音楽の素材(静寂音)
2 音楽の原則(記譜法音名 ほか)
3 音楽の形成(リズム旋律 ほか)
4 音楽の構成(音程和声 ほか)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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1971年出版ながら、内容の素晴らしさは色あせない。音楽理論の基礎を広くカバーし、そして深く理解できる。音楽に触れている人なら読んでおきたい。芥川也寸志氏の名著。
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いわゆる音楽“教養”書。
音楽好き一般向けの名著、ということに一応なっております。
楽典説明が中心なので、ポップスやジャズしか聴いたことのないかたが通読するには、ちとツラいかもしれません。
それでも冒頭「静寂」(無音の価値)箇所は、40年経た今でもやはり白眉。
音楽好きはこの冒頭1節だけでも目を通していただければな、と思います。
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音楽の素材(静寂、音)に始まり、記譜法、音名、音階、調整といった音楽の原則や、リズム、旋律、速度などの音楽の形成を、名曲や名作曲家のエピソードを交えつつ紹介する。所々に表れる、著者の世界観が秀逸だと思う。基礎音楽理論入門のための良書。
うるさくなく、それでいて所々でニヤリとさせてくれるいい読書だった。理論の話では、歌謡形式や、拍子とリズムの話が面白かった。それ以外にも、あまり覚えようとして読んではいないのに、この本を読みはじめてからピアノを弾いたら、どうもいつもと響きが違うように・視点が変わったように感じた。
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タイトル通り、音楽の基礎について説明してある。
内容も充実しているが、この手の本で気を付けなければならないのが、読み手がこの内容に「実感」を伴わせなければ意味がないということ(※だから「基礎」としてあるのだが)。
ただ、見落としがちな「音色」についての解説をしっかりと行っていることが個人的に評価できる。
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タイトルのごとく音楽を構成する基礎の基礎から話は始まりますが、図表が多く使われていて割と分かりやすくホイホイと読めます。
ただし音楽のほぼすべての構成要素に触れていくので、深いところには全くつっこまないし、難しい話をさらりと説明だけして終わるので身になった気はあまりしません。
また、著者の音楽に関する考え方も文章中に散見されるのですが、同意できるところもあれば明らかに間違っていると思われるものもあり、あまり参考にはなりませんでした。
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芥川龍之介のご子息が書いた音楽理論の本。
たまたまアマゾンで見つけたところ、非常にレビューが良いので気になって購入した。
現在、読んでいる最中。
音楽理論というよりも、音楽を通じて論理的思考法を養えるような本なのかな。ぶっちゃけ、難しい。
楽譜が読めない人には、本書はちょっと厳しいかも。
私は幼少期のピアノ歴が10年で、30歳を過ぎてからピアノレッスンを再開した。改めて理論を学びたいと思って本書を手にした。
感性だけで捉えていたことを、理論として明確に定義づけることによって、様々な発見がある。まだ読み途中なので、レビューは後日改正したい。
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むずいよ(笑)なので,そういうところはトリヴィア的なネタをかいつまんで。モーツァルトの逆さまからも読めるヴァイオリンデュエット面白いなあ,とか,ドレミの由来ってこんなだったのかあ,とか。音階については,理系の僕としてはぜひとも理解して話のネタに・・・と思ったのだが,なんだかわからん。むしろこれはピュタゴラス学派について書かれてる(横書きの)本を読んだほうが分かるかも知れない。サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』にもこんな話があった気がするが。。スティルウェルの『数学のあゆみ』にも載ってるかなー。索引があることは評価。楽譜には,作品番号つけてくれればいいのに。結びの文を引用。「この世に何十万種類の植物や動物たちが生きていようとも、「植物」という名の植物、「動物」という名の動物、「生物」という名の生きものは実在しえないのと同じように、「音楽」という名の音楽、いわば<音楽そのもの>はつねに私たち自身の内部にしか存在しない。それは遠い昔においても、オーディオが発達した今日においても、また将来においても変るところはない。私たちの内部にある音楽とは、いわばネガティヴの音楽世界であり、作曲する、演奏するという行為は、それをポジティヴな世界におきかえる作業にほかならない。音楽を聞こうとする態度もまた、新たなネガティヴの音楽世界の喚起を期待することであり、作り手→弾き手→聞き手→作り手という循環のなかにこそ音楽の営みがあるということは、遠い昔もいまも変りがない。積極的に聞くという行為、そして聞かないという行為は、常に想像の世界へつながっている。 この創造的な営みこそ、あらゆる意味で音楽の基礎である。」うーん,文章自体も抽象的で難解だ。