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題名の「水のかたち」を見たときの印象は、水に形があるの?っていう小さな違和感であった。が、読み進めてゆくと作者がその題名に込めた前向きで、その環境に適応する柔軟な生き方が見えてくる。ジャズやコーヒーなどの小物も年代相応のスパイスとなっている。
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面白いけど…好きなセリフもたくさんあるんだけれど…いろいろ都合がよすぎやしないだろうか。主人公の人柄が呼び込む、人の輪とか幸運とか運命とか、そういうことなのかもしれないけれど。
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そんなアホな、と、言いたくなるような何もかもがうまく行き過ぎ、世間は狭いというか、あっちもこっちも実は知り合い、って。
でもずんずんと読み進むことができる。
そうだ、私は嫉妬しているのだ。ほぼ同い年のこのヒロインに。絶対に私とは真逆の資質を持ったこの50女に。
たまたま気に入った茶碗がすごい逸品で、大金が手に入ったり、その縁で趣味の良い喫茶店を始めることになったり、もうすべてのことが良いほうに良いほうにと回り始めるのだ。
だけど、私はいつも思う。こういう「運」はただの偶然などではないのだ。その人の持つ徳や資質が呼び寄せるのだ。だから私には絶対にそんな運はめぐってこない。きっと死ぬまで。それを再確認するのはちょっと辛い作業でもあるけれど半世紀も生きているとそんなことでもがいたり奮起したりはしないのだ。
致し方なし。というあきらめの境地だけである。
「横尾文之助」氏が実在の人物であり彼にまつわる逸話が実話であったことはこの本を読んだ中でいちばんの収穫で興味深いくだりであった。なにせ、文中に出てくる地名は私の故郷でもあるのだからより身近に思い入れを持ったとしても不思議ではない。
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色んなことが起きて、色んなことを考えて、読んで良かったと思えた小説。人間のつながり同士を読むのが小説。
ほんと宮本さんて、おじょうず。プロだから当たり前だけど。
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初の宮本輝
ゆったり、まったり時が流れていく感じ。
最初はこんなテンションで上下巻なんて最後まで読めるかなぁと思っていた。
ハラハラドキドキというのがほとんどなく、よくある日常というのでもなく、かと言って奇抜でもない。
それでいて、最後まで読ませてしまうのがすごい。
主人公は確かに運が良くて羨ましい。
そうそうガラクタのようなものの中から一攫千金の品に巡り合えるかな。
しまいにはハイセンスな喫茶店まで破格の賃料で貸してもらえて羨ましいけど、自分がその立場になっても、手に余すぎる。
その度量があるからこそ、それだけの幸運が舞い込むのかも。
主人公が人生を達観していく様を見ているようだった。
題名がぴったりおさまって、人生ってそういうことかもと考えさせられた。
きゅうりのサンドイッチがなんとも美味しそうだった。
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志乃子は鼠志野の茶碗に出会うことで、人生が動き出した。物との出会い、人との出会い、その時々で大きな決断を迫られながら、彼女はごく自然に歩むべき方向を選んでいく。そこに無理はなく、水が山から湧き、滝になり、川に流れ込み海に注いでいくように、環境に合わせて形を変えても、水がその本質を失わないように、彼女もその素直さ、謙虚さ、礼儀正しさを失わない。
自分を、自分以上のものに見せようとはせず、自分以下のものに見せようともしない、50歳の平凡な主婦として描き出される志乃子、ただものじゃない。
小さな茶碗をきっかけに喫茶店兼骨董品店のオーナーへの道が開かれるのが、決して偶然ではなく必然のように思えてくるから不思議。
志乃子だけではなく、苦労に苦労を重ねジャズシンガーとして花開いた友人・沙知代、地味だけど人間としての強さを持つ夫・琢己、喧嘩っ早いけど喧嘩相手といつの間にか仲良く心を通わせる横尾など、すべての登場人物が滋味に溢れ、魅力的なのもいい。
登場するすべての人に名前が与えられ、人物造形がしっかりなされているのも、この作品が「人間」を描いていると感じる一因。人間を描き、物や人との出会い、「縁」というものの不思議を描き、素直な心の強さを描いた作品でした。
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更年期障害を迎えようとしている平凡な主婦を主人公に、サッシの施工を生業としている夫、子供3人の一家と取り巻く善良な人々のお話。
なかなかあり得ない偶然の連鎖も、今の世の中の状況を鑑みると救いのお話でした。
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50歳の主婦がたまたま古美術品を手に入れたことから、日常の生活が大きく変化していくさまを描いた長編小説。
宮本輝の作品を手に取ったのは、何年ぶりだろう。その昔、『泥の河』をはじめ『青が散る』『錦繍』など10冊ほど読んだ記憶があるが、最近はとんとご無沙汰していた。
友人の薦めで借りたのだが、まずは安定感のある品のいい文章が心地よい。複数の大きなエピソードも違和感なく収まり、力まかせの作家からは得られない良質な穏やかさがある。そういえば芥川賞の選考委員も務めていたのだったっけと、改めて作者の力量を思い知った。
夫と3人の子どもと暮らす女性の視点から、更年期やら五十肩やらの身近な話題も取り入れているのは、初出がその年頃の女性をターゲットにしたファッション誌『エクラ』だったからかな。
それにしても、主人公は何と行動力のあることか。まっとうに生きていれば、人とのつながりの中から自然に幸せが生まれてくるという優しい眼差しにも励まされ、私もまだまだ何かできそうだと前向きな気持ちになった。
余談だが、再三登場するきゅうりのサンドイッチを早速作ってみた。厚手のキッチンペーパーで何度も絞れば、男性の手を借りずともかなり水気は切れる。玉子サンドに珈琲も添えて、優雅なランチタイムとなった。
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今まで読んだ宮本輝の中で1番好きかもしれない
水の流れのままにではなくて、水のかたちのままに
『善き人』の強さを最近強く感じる自分にとって、なんだか救われたような気持ちになる話だった
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自分を自分以上のものに見せようともしないし、自分以下のものにも見せようとしない、自然で素直でおっとりと話す、おそらく目立つ美人と言うわけでもないのだろうが、男女問わず人を惹きつける魅力のある、50歳の主婦・志乃子。
そう言う「善き人」は「善き人」を引き寄せるのだろう。沙知代も早苗も、夫・琢巳も魅力的な人達だ。そうして縁や出会いによって、それぞれの人生がまた新たな扉を開いていく。一見穏やかながら、50を過ぎてからまた人生が動き出す志乃子や沙知代には、希望のようなものをもらえるし、心地の良い作品だった。
『自分以上のものに見せようとしない。自分以下のものにも見せようとはしない。』
『自分を、自分以上のものに見せようとはせず、自分以下のものに見せようともしないというのは至難の業だ。人間はすぐにうぬぼれる。絶えず嫉妬する。他人の幸福や成功をねたんだり、そねんだりする。自分を周りからいい人だと思われようとする。』
それからもう一つ、志乃子が言っていた言葉で、印象に残った言葉があった。それは、家出をした娘に対して言った「私は、こんなことをしてやろうかってふと思ったことを、実際に行動に起こしてしまう人間が嫌いなの。それがいいことなら、すばらしい意志と行動力よ。でも、良くないことなら、その衝動を抑えるのが教養というものよ。」この言葉は、その通りだなあ、と思った。
そして、この作品の中のもう一つの軸である手文庫とその中にあった手記の持ち主・横尾文之助と家族の決死の38度線越え。文之助もまた非常に魅力的な人物だった。
何より、あとがきまで読んで驚くのが、この文之助一家の話は事実に基づいたものだと言うことだ。
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「善き人たちのつながり」
あとがきにあるこの言葉につきる物語でした。
余りにも良いことばかり?なので、どこかに落とし穴が?とうがった読み方をしていた自分を反省…
少しも後ろめたいことをしたくないという気持ち、その思いに正しく生きていきたいという気持ちは、自分が生きる上で大切にしたい事と一緒だなと思った。
とはいえ、実際にそこまで正しく真っ直ぐにはできていないから、ついついうがった読み方をしてしまったのだろうな。
更年期、今までの自分、これからの自分を考える主人公には共感できる部分もありつつ、やはり、男性が描く女性という気も。可愛らしすぎて、嫉妬を感じてしまっただけかなぁ…いや、実際、幸運に恵まれて、また新しい世界に飛び込むことになった、主人公は羨ましい限り。
歳をとっても、希望の持てる物語でした。
夫や、周りの人たちの深みに改めて気づくシーンがあったけれど、本当にそうだなと。他者への尊敬の念と、善く生きるということを改めて考えるきっかけになった。
あと、京都に行きたくなります…
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それぞれの人間模様と幸せの連鎖。それぞれバラバラなのが人の個性なのでそれがそのまま表現されていて安心します。
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主人公の志乃子が50歳とちょうど私と同年代で、親近感を覚えながら読み始めました。
働き者の夫と3人の子供を持つ主婦の志乃子が、たまたま古美術品を手に入れたことから人生が動き出すお話。
平凡な主婦という設定だけど、実はただ者ではない気がしたよ。良いものを見分ける目利きの天性の才能がある。
すなおで謙虚で礼儀正しく、自分を自分以上のものに見せようとはせず、自分以下のものに見せようともしない、そんな善き人である志乃子。彼女が物との出会い、人との出会いで新たな人生を切り開いていくのだけど、これは偶然ではなく彼女が引き寄せたものなんじゃないかなという気がした。
50歳でこんな風に人生の風向きが変わることがあるのかなぁ。ご縁もあるけど、自分次第なのかなぁ。私の後半の人生はどうなるんだろうと思ったりもした読書となりました。私の身にも何か起きて何か変わらないかなぁ。漫然と生きているだけでは何も変わらないかぁ…
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2023年5月6日
一気読み。
真っ当な人には真っ当な人がくる。
秀でた人には秀でた人がくる
朱に交われば赤くなるの言葉通り。
もしや利を狙った輩が蔓延るのでは?
とか、騙す組織が現れるのでは、と心配したが、信頼できる人たちの繋がりだった。
戦争の爪痕は語りついでいくべきと思う。
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ロダンはいう「石に一滴一滴と喰い込む水の遅い静かな力を持たなければならない」
水には、そんな力強さがある。
志乃子は、「私は水の流れに乗って、それに身を任せて今日まできたと思っていたが、そうではないのだ。流れとともにかたちを変え続ける水に沿って生きてきて、今日の自分というものを得たのだ。どんな尖った細い難所でも、水はそのかたちになってくぐり抜けていく。私も水のかたちと同化して、微笑みながら難所をくぐり抜ける」
志乃子には、春のひだまりのような柔らかさがある。
志乃子は、ヒビが入った古備前の壺を見て、5万円で購入する。それが、実際には300万円で売れたのだ。志乃子には、本物を見分けるセンスがあると三好老人はいう。そして、病気のために閉店となっていた喫茶店グールドで、骨董品を売りながら、喫茶店を任される。
また、手文庫からは、手紙とリュックサックが見つかり、その持ち主が横尾文之介。北朝鮮から日本脱出する時の手記だった。彼は自分の家族だけでなく、150人近くの人を脱出させようとした。その脱出した時の女のお腹の中に子供がいた。それは、志乃子の息子が就職した美容師の兄だった。人々は繋がって、それぞれの幸せを追い求めていくのだった。
志乃子、美乃、沙知代。アラファイブの女たちの活躍を祈る。
ある意味では、北朝鮮脱出劇などは、戦争体験の人たちの語り継ぐ物語だ。1947年生まれという戦後世代の作者が、父親や母親が潜ってきた物語を受け継いでいる。私の父親は大正15年生まれ。よく考えたら、父親の戦争経験を全く聞かなかった。お爺は、明治23年生まれ。お爺とは、一緒に生活したけど、戦争の話をしたことがなかった。なぜか、今頃になって、そのことが残念だと思う。