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面白かったー。大変恥ずかしながら登場人物をほとんど知らないし、ねじめ正一作品も初めてでしたが引き込まれました。実話を元に書いている小説のようですが、登場人物たちと著者の距離感が絶妙でなんとも言えない。あんな勝手な男どものそばに居るどの女性にも共感できないけど、詩人なんて、男なんて勝手なものなんだろうし身近でなければ勝手な人間の人生は面白いのだ。解説で西川美和が「夫を生かしているのは自分の支える<生活>であるという自負が妻達を生かしている。毒々しいまでのその自負が蔑ろにされることで、妻たちは壊れた」「生活を舐めたことで男は生活に復讐されたが代わりに生きた言葉の湧き出す人生を手にした」というようなことが書かれていて、その鋭さにまたまたうなってしまいました。
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田村隆一と北村太郎、田村の四番目の奥さん和子と詩友北村太郎の恋話、僕と死ぬまで付き合ってくれませんか、田村の詩も、田村の人生も、もしかしたら殺し文句で出来上がっている。詩は道楽からは生まれない。田村隆一は詩のためだけに生きている男である。−昭和53年に田村は二年ぶりに新しい詩ー水平球ーを出した。
ーきれいじゃないか、初夏の、五月の自然は。人間なんていい加減なものだ。天気ひとつでこんなにも気分が晴れ晴れとするんだからな。
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知る人ぞ知る「荒地」の代表的人格である田村隆一の奥さんと北村太郎の恋殺傷沙汰の話である。
非常に面白いのだが、ねじめ正一さんの赤裸々な描写は、本当の話なのか疑問があるところ。ですが、面白いこと間違いなし。
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初老の詩人が親友の奥さんと不倫してって話。展開で色々つっこみところあって、最後の一文でぞわっとした。解説読むと、実話だったのかーってのでビックリ。時代なのか、男性がここまでどっぷり女性の毒にはまってしまうってのは最近の小説では出会わないなー。三島とかはあるけれど。
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田村隆一、明子、北村太郎一が自分に素直でそれでいて、
ひたむきに生きたいきざまを描いている。
良質な映画とはよく言ったものだ。
北村の弟が阿子へ言った言葉
「北村太郎を幸せにしてくれて、ありがとうね」
心の中に残っています。
《文中より》
たしかに、それは、
スイートな、スイートな、終わりのな
い始まりでした。
朝の水が一滴、ほそい剃刀の
刃のうえに光って、落ちるーそれが
一生というものなのか。残酷だ。
あなたは偏狭になりながら次第に
魅惑を増してゆくふしぎな人だ
男は大きなため息をつく
「地獄へだってなかなか行けやしない」
ことしはフヨウの花は遅く咲いた
キンモクセイがもう追いついている
それらの花の夜はどのようにあるのか
ぼくは、とどのつまり、何になるのか
ぎりぎりまで押しつけられていた
ばねがはなる
なんと遠くへ来たことか
冬の山林
小道をゆっくり登ってゆく
一個の骸骨
(ゆうべ
感情のぜいたくを味わうための
キスをした
夏の手紙を封印するように)
わたくしはきっと顔面蒼白になっていたにちがいない
が馬場の先の大きなケヤキの網状組織の枝にやっと目
を移してこころいくばり放心し放心し放心しつくし
たのだった
食べつづける
膜をくちびるで
包まれている肉は、そして
肉の内側は、まだまだ熱いか 骨は
骨の内側は、そろそろ冷えていくか
モノをほしがる物欲、のほかに
ココロをほしがる心欲、まで持っているから
ヒトは怪物、なのだ
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ある種、エンタテインメント小説を読んでいる時のような物語の追いっぷりで、ものすごいスピードで読めてしまった。先が気になって気になってしょうがなかった。しかしまあ、話としてはドロッドロのひっちゃかめっちゃかで、時に痛みが伴う深みもある。詩人は、詩人の妻たちは、こうやって生きざるを得ないもんなのだろうか。“感じる”ことのプロは、生きにくい人生をこうやって、駆け抜けていかねばならんのだろうか。自分も周りもぐちゃぐちゃになりながらさせながら、それでも目の前にある現実からも目をそむけられずに。そんな人たちだからこそ、強烈に惹かれるものがあるし、猛烈にいとおしいし、恋とか老いとかの辛さが、痛みが、とても素晴らしいものに思えてくる。そして、詩を、読みたくなる。なんというか、、、実話だからこそのフィクション感覚(?)で、存分にのめりこめた。
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才能あふれる、放蕩三昧の詩人、田村と、
田村を愛し、愛を得ようとする妻、あきこ。
あきこを愛した詩人、北村。
田村は、女性にとってなんと魅惑的で、危険な男性だろうと感じた。
詩人は、女性を愛さない。だから女性から愛されるのだ。
愛に生きた、詩人たちを近くに感じることができた。
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朝日新聞読書欄で女優の富士真奈美さんが紹介していた。好きなんだよね、富士真奈美さん。華やかで、でもどこか土着的で、そして知的で。その富士さんが勧めてるんだから、これは読まなくちゃ。
いや参った。圧倒された。息を詰めて一息に読んでしまった。この内容からして話題になったはずなのに、まったく引っかからなかったのはなんでだろ?戦後詩史に名を刻んだ人たちが実名で描かれるモデル小説で、北村太郎(あまり知らない…)を主人公に、詩誌「荒地」同人で友人の田村隆一(好きだー)や鮎川信夫、そして、彼らをめぐる女性たちや家族の姿が描かれている。
ここにあるのは事実そのままではないだろうが、かなりそれに近いと思われる。そのことにまず凄味がある。北村が、朝日新聞校閲部長という職も、長年連れ添った妻や子どもも、郊外の家も、何もかも捨てて恋に走る、その相手は高校時代からの親友田村の妻なのだ。しかも彼にとってこれが最後の恋というわけではなく、田村の妻明子も、一筋縄でいくような人物ではない。そしてまた、田村隆一の存在感たるやすさまじい。あの珠玉の言葉はこういう破滅的な生活から生み出されていたのか。
なんとまあ、と凡人の小市民は思うのである。この人たちはこんな風にしか生きられないのか。誰も幸せにはしない、そういう生き方をしなければならないほどに、心の自由が大事なのか。北村の甥が、詩人は嫌いと言いながら何故北村のことは好きなのかと尋ねられて、「おじちゃんは体を張ってるからね」と答えていた。各章の冒頭に北村の詩句が掲げられているが、通読後に見直すと、一つ一つの言葉がずしりと重い。
自身詩人である作者ねじめ正一さんの筆致は、端正で、抑制が効いている。こういうものを少しでも下品に語られたら、読むに堪えないだろう。北村の内面への入り込み方も絶妙で、多くを語らない所にかえって説得力があるように思った。
五十過ぎの北村が明子に対して子どものように駄々をこねる。「分別をなくすとは何と楽しいことだろう、と北村は思った」 この一文が忘れられない。
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50歳すぎた詩人の色恋と友情と生活の話だ。親友の妻と恋に落ち、それをわざわざ自分の妻に告白して、仕事を追われ、家を出るのだからまったく駄目なオヤジだ。色恋と貧乏と、彼の友人たちはそれに酒が加わって、文学者というのはどうしようもない。でもそれだからこそ魅力的だ。金や権力が大好きで立派な服を着て偉そうにしている人達より、ずっとチャーミングだ。人間なんてほんとはみんなダメダメだ。文学者(芸術家)というのは素直な人達だ。みんな体裁を整えようなんて思わずに、素直な人生を送ればいい。
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やっと読み終わりました。
家族を捨て友人の奥さんと暮らし始め
その奥さんが壊れていく
さらに別の女性とも恋をする。
68歳まで恋をし続けた詩人さんの人生は幸せだったのかな?
最後の阿子さん、え?
ま、どこまでも不倫の話でした。
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初老の詩人が親友の妻に恋をすると言う
一見激しそうな内容なのだけれど、意外と淡々と物語は進んでいきます。
私は北村太郎という詩人が居たことすら知らず、
フィクションだと思って読んでいたのですが
実在していた方なのですね。
どこまでが事実なんだろう。
身勝手に思えるけれど、どこか愛おしい男性。
こんな風に自由に生きるってどんな感じがするのだろう。
自由だけれど孤独を物凄く私は感じました。
最後の数行で、ぎょっとさせられました。
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詩人・田村隆一の妻を奪ったのは、親友であり詩人の北村太郎。
奪い、奪われ、また、取り戻す。
取り戻したのに、次の女を手繰り寄せる。
そうだよ、表現者って、奔放で然りなのだと思う。
ゲス不倫とか、騒がないでー。
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ねじめ正一さん、初めて読みました。
好きな内容、好きな文章でした。
詩人だから奔放なのか、奔放だからこそ詩人なのか。
詩の良さは正直良くわかりませんが、あの時代に、これほど自由人がいらっしゃったのね〜と、驚きとともに感動。
年をとってもオトコとオンナ、何があるかわからない。どうせなら、正直に生きた者勝ち。
周りを気にしない、強いココロが必要ではありますが。
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読んだ後、解説を見て主人公「北村太郎」が実在する詩人だと知った。 まー、主人公の好き勝手加減ったら。家庭捨てたり親友の嫁はんに手を出したり愛人作ったり…病に侵されてもなお愛人の体を欲しがったり… 昔の男はエネルギッシュやのぉー。 好き勝手やってもやはりベースは家族にあるんやなぁ
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なんだか癖になるかも。
これは実話?
詩の引用が多いし、環境もそれっぽい。
理解できない世界だけど、静かに、でもエキセントリックな印象。
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五十三歳の男が親友の妻と恋に落ちた時、彼らの地獄は始まった。詩神と酒神に愛された男・田村隆一。感受性の強いその妻・明子。そして、北村太郎は明子に出会って家庭も職場も捨て、「言葉」を得るーー。宿命で結ばれた「荒地派」の詩人たちの軌跡を直木賞作家が描く傑作長篇小説。第三回中央公論文芸賞受賞。