紙の本
家庭という密室
2016/02/10 07:32
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
角田光代はまたひとつ金字塔を打ち立てた。
きっと多くの女性読者の共感を呼ぶだろうこの長編小説に男性読者は震撼とするだろう。
女性は怖い。いや、違う。怖いのは、絶対にわかりあえない個としての人。
その点では女性であろうと男性であろうと変わりはしない。もしいえるとすれば、角田光代という作家が女性の方にいることだ。
33歳の専業主婦里沙子。2歳年上の陽一郎は優しい。もうすぐ3歳になる文香のお風呂にもちゃんと手伝う。義父母とは適度に距離を置き、ママ友とのどうということのない会話も楽しむ。
きっとどこにでもいるだろう、若い夫婦。
里沙子のもとに裁判員制度の候補者になったという手紙が届いたところから、二人の間に少しずつ亀裂がはいっていく。
里沙子が担当することになった裁判は30代の母親が浴槽で八カ月になる赤ん坊を殺めてしまった事件。
被告の裁判を通じて、里沙子の心は少しずつ崩れていく。
崩れていく、のではない。露わになっていくということだ。
母乳の出なかった自分は何気ない義母の言葉に傷ついたことがあった。被告と同じではないか。陽一郎の優しい言葉に棘が隠されていたことにも気づく。被告が夫の言葉に恐怖を感じていたように。そして、里沙子も泣き止まぬ文香を床に落としたことがある。被告がその子を浴槽に落としたように。
被告席に座っているのは、事件の被告ではなく、里沙子本人であるかのように思えてくる。裁判席に座っているのは、読者である私たち。
私たちは里沙子を裁けるのか。
陽一郎に罪はないのか。幼子をお風呂にいれることで育児に協力しているなんて言わないで欲しい。
義父母に罪はないのか。あなたたちが心配なのは自分の生んだ息子だけではないか。
里沙子に罪はないのか。一体あなたは何におびえているというのだ。夫か。義父母か。それとも小さな娘なのか。
公判中、里沙子がずっと気になっていたことは、食い違う被告と夫や義母の証言の本当のことがわからないことだ。何故なら、家とは密室だから。
この事件にどんな結審がなされるのか、それは物語の最後に明かされる。
紙の本
他者に見る私
2022/01/29 10:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みっつー - この投稿者のレビュー一覧を見る
裁判員に選ばれた主人公の新米ママは、子育てに悩み、夫婦関係や親子関係に微妙な問題を抱えるフツーの女性。そんな彼女が臨む事件は、自分とさほど変わらない環境に暮らす新米ママによる幼児虐待殺人事件。
フツーの女性が同じ様な環境の中で犯した事件をどの様に捉え、どの様に裁判員としての役割を果たすのかが見物。愛娘との対峙、夫や義父母との間に生じる摩擦、そしと角田光代文学の真骨頂である主人公自身の葛藤がリアルに津波の様に読者を襲う。主人公の感覚に読者である私が呑み込まれる感覚、事件の渦に巻き込まれるゾクゾク感をお楽しみください。
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重かった、重たすぎて何度か挫折しかけた。読みきるのに6日ほどかかった、わたしにしてはかなりかけた方だ。
ごく普通の日常を生きていたイヤイヤ期の娘と温厚な旦那と暮らする里沙子は虐待死の補充裁判員になった。幼い子どもを風呂の中に落とし殺した母親をめぐる証言が飛び交う中で里沙子はその女の境遇と自身を重ねていく。
ほんとね。重ねすぎ。重なりすぎというか。精神が思いっきり病んでいく過程がわかりすぎて読んでるのが苦痛だった。まだ独身で子どもを持ったことがないわたしでさえも里沙子に、そして被告人の女性の境遇に自らを重ねてしまった。この先結婚したらわたしもこうなるのかもしれない。子どもができたら…わたしは一体なにがしたくてなにをしてたんだろうなエンドレス。気が狂いそうになる小説だった。これが誰の話か、誰もが本当を語っていて、誰もが誤魔化しているのが、あるいは誤魔化そうとしているのか、なにが事実で誰が本当で。
読者も傍聴席にいる気分に、や、あるいは自分自身が里沙子と同じように裁かれている気分になってしまうそんな話でした。
毎度思うのは角田さん、子どもいないのによくもまぁここまで母親の視点を描けるなってこと。
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2017.1.読了。
子育てってこんなに大変なのか…不安になる。
何故か経験したことがないのに里沙子、水穂の気持ちが理解できる。自分でコントロールしきれないイライラとか。
途中読むのが辛くなるくらい苦しかったけど
角田光代さんって本当に女性の気持ちを表現するのが上手。
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いつも、角田さんの小説には考えさせられる。主人公に共感できるわけではないんだけど、深く入り込まされる。
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2016.2.20予約
泣き止まない娘の凜を浴槽に落として、殺害した安藤水穂の裁判員に選ばれた、里沙子。自分も幼いこども、文香を育てている。
里沙子は、数々の自分の通ってきた過去を裁判を通して思いだす。母乳なんて吸わせていれば誰でも出る、と言われたこと。夫の陽一郎の母親の連帯感にいらついたこと。
里沙子は、水穂の感じたことや経験が自分にも当てはまるように感じ、一体化してしまい、自分で自分を追いつめるように。
P350
わかってほしかっただけだ。なのに、いつもおかしな方向に話が着地する。
P368
きみはおかしい、間違っている、ただそれだけをずっと言い続けていた。おかしいところをなおせ、でもない、間違っていることを正せ、でもない。ただたんに、私に劣等感を植えつけただけだと今になって、やっと他人事のように理解する。
P373
裁判で私が見ていたのは水穂ではない。私が見ていたのは自分自身だった。躍起になって味方したかったのは、かばいたかったのは裁判員にわかってほしかったのは、私自身だった。
水穂や、里沙子は、私かと思う。寿士や、陽一郎は、夫。
見たくない気付きたくないことが、たくさんありすぎて、とても怖い。
自分の思ってる不満、違和感をうまく言葉にしてあり、恐ろしいほどだった。
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すごすぎます。
裁判員制度。
罪を犯したヒトと自分を比べた時、そんなにヒドイひととは思えない。
ひとつ間違えれば、そこに自分が立たされていたのでは?とも思う。
ほんの小さな紙一重の何かの違いで人生が大きく変わってくる。
そんな恐ろしさを感じました。
これから子育てに関わる男性はよく読んで、奥さまに育児プレッシャー与えないようにしてください!
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(2016/4/5読了)
星は3.5というところでしょうか。うまいんだけど、うまいだけに、あまりにもリアルで。
誰に向けての、何のための小説なのかと、なぜこんな報われない辛い本を書いたのだろうと、読書中ずっと思っていた。でも、ギブアップもできなかった。
辛かったのは、里沙子が水穂に自分を投影していたように、里紗子に自分を投影していたからだ。
自分の意見ではなく誰のための「正解」、「そのような愛し方しか知らない人に、愛されるために」「だれかに従うことは楽だった」
近しい中では必ずある。その時のすべての状況で感じ方が個々に違うという事を、改めて覚えておこうと思った。
(内容)
刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、いつしか彼女の境遇にみずからを重ねていくのだった―。社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの心と闇に迫る心理サスペンス。
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20年前の私がこの本を読んでいたらものすごく共感していたと思う。子育てとは外からみるだけでは分からない閉塞感と自分のやってる事に全て自信が無くなったりするものだと思う。放り投げ出したくなる事も。その時誰か。じゃなく1番理解してくれるはずの旦那さんに否定されると逃げ場所がなくなるのもわかる。この本を読んでいて当時の事を思い出すが、1番思い出すのは寝たと思ったら直ぐ泣いて起き、こっちもイライラして何度も旦那に当たったりしてた事だな。辛かったなあ。ふと昔のアルバムを開きこの本の文香ちゃん2歳と同じ歳の凜の写真を観て涙が出てきた。なぜ?自分みたいな良い加減な母親の元で育った子なのに飛び切りの笑顔で写ってる写真ばかりだったから。有難かった。子供を殺してしまった母親はもう私みたいに過去を振り返り涙する事もないのかと思うと哀れな気がする。この本はそう言う意味で母親なら誰しも自分と重ね合わせたり比較せざる得ない凄い小説だと思った。なんか、読んだ後の後味の悪さも否めない。
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苦しくて息がつまりそうでした。子どもを産み育てた経験があれば誰もがそうなるでしょう。
産まれた瞬間のあの世界中から祝福されているような絶対的な幸福感が、自宅に帰った瞬間から日常の中で薄れていく。理由のわからない泣き声にとまどい、二時間ごとに起こされる夜中の授乳にうんざりし、自分では泣き止まないのに祖母に抱かれるとすぐに泣きやむことに敗北感を感じ、保育雑誌との成長の違いに落ち込む。過ぎてしまえばどれもこれも笑い話にできるのに、あのときのあの絶望の深さたるや。その絶望の淵から抜け出せるかどうかは、そばにいる誰かとの関係による。夫や、実母や、義母。その中のだれかとしっかりと手を取り合って助け合っていられるなら、絶望はいつかまた幸福感へと戻っていくのに。ここにいる不幸な2人の母親。なぜ我が子に手を上げるのか、なぜ虐待は無くならないのか。私はそんなこと絶対しない、なんて絶対言えない。
夜中に泣きやまない子どもを抱いたまま、マンションの窓から飛び降りそうになったことくらいあるよね、スーパーでだだをこねる子どもの頭を叩きたくなったことあるよね、言う事をきかない子どもに腹を立てて無視したことあるよね、そう、誰もが彼女たちと紙一重なんですよね。
と書いて来て、ふと思い出しました。この夫たちの許せなさたるや。けど、この夫たちを作ったのはまぎれもない「母親」なんですよね。結局、ぐるぐるとこの連鎖は続いていくということなのでしょうか。
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幼児を虐待死させた水穂とその事件の補充裁判員になった里沙子の二人の母親のお話。裁判の進行と共に展開する物語は息苦しい。物事の見方によって風景が変化していく心理描写は見事。育児や家族や母娘や夫婦の歪んだ闇が重い。無意識の悪意は怖い。映像化を希望。
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小さい娘との子育てに格闘している理沙子に裁判員裁判の知らせが。
娘と同じ位の子を風呂場で溺死させたとする母親が被告。
被告人と理沙子の距離が公判の日を追うごとに近付き、さらにはクロスオーバーしていく。
この辺りの丁寧な心理描写や二人の距離感は流石、角田光代だと改めて思う。
二人の距離感を絶妙に描いているという意味では直木賞を受賞した『対岸の彼女』と並び立つ程の良作だと思う。
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補充裁判員になった里沙子
子供を殺した母親をめぐる証言に里沙子自身を重ねていく
暗くダラダラとしたはなしだなーと思いながら読み進め最後30ページ位からきたー角田光代ならではの展開
読み終わって…その後これからの里莎子と文香が心配になったけど
赤ん坊からトイレトレーニングの最中振り返れば孤独感ってあったよなー
真面目にやらず適当にやっときー
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いつか自分の身にもあるかもしれない裁判員裁判。主人公が裁判を通して自分の生活を深く考えていく様がリアル。普通の生活をしていると案外、考える時間なんてなくて気付いてないことも、非日常の裁判という場で考えて唖然とする。そんなことってあると思う。
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重かった。何度も読み進めるのを止めようと思った。嫁、妻、姑どの立場にもある自分。怖かった。裁判員ってここまでしてやらなければならないのか?自分にお鉢が回って来ない事を祈らずにいられない。