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目次
はじめに
第一章 大野耐一さんの教えに学ぶ
教え1 説明しても理解できる人はいなかったので、 現地で細かく指導するしかなかった
教え2 改善とは最終工程に近づくこと
教え3 今、組み立てる車両以外の部品はラインサイドには要らない
教え4 ロット形成はモノづくりの進歩を妨げる (かんばんをためてつくるな)
教え5 十人中九人、十人中一人
教え6 班長は標準を壊す人 改善してラインから一人減らすことができた時は一番優秀な作業者をライン外に出しなさい
教え7 多能工化とは次の工程もできるように教え、 モノの流れを最終工程へと進めること
教え8 そのグラフの右上の赤丸は何だ?
教え9 課長の君がやらせているのか、作業者が勝手にやっているのか、どちらだ?
教え10 アンドンの標準作業は点灯したら行く
教え11 標準作業はかんばんのルーツ
教え12 起動スイッチを押す時、作業者の動きが 止まっている。歩きながら押せないか
教え13 高い設備を買った上に、その操作を優秀で給料の高い班長にやらせるとは何事だ
教え14 製造の技術員は横糸になれ
教え15 かんばんの最小収容数は五個
第二章 トップの役割―トヨタ生産方式を成功裡に定着させるためのマネジメント
▼1 トヨタ生産方式を成功裡に定着させるためのマネジメントと組織
▼2 トップの役割
―モノづくりの変化に応じて組織(制度・機構・運営)を変えることができる人
▼3 モノづくりの基本
―トップのモノの見方「モノの4つの状態」
・モノの4つの状態―「トヨタ生産方式」は「モノの流れ化」が最重点
・停滞・検査・運搬を削減させる方法
第三章 管理者の役割―部下の仕事がうまくできるようにする人
▼1 管理者のみなさんへ
▼2 管理者とは、モノの流れ化を推進する環境を部下のためにつくる人
▼3 現場への権限移譲
―任せることができる監督者の育成
・徹底的な標準化
・管理者は監督者に異常時の行動方法を教える
・異常情報を共有化する
▼4 管理者は「やる気を起こす・やる気を持続するライン」をつくる
・後工程引き取り・補充方式ライン
・補充方式の専用ライン
・専用ラインでさらなる発展
・整流化
・多回引き取り
第四章 海外駐在トップの役割
▼1 各国の駐在トップ・赴任経験者から話を聞く
▼2 海外メーカーの経営は三階建てのビルと思うこと
▼3 すみませんと言える職場の文化をつくる
▼4 経営の柱を「トヨタ生産方式」にする
▼5 トップは社内外にトヨタ生産方式を推進する
▼6 仕入先の指導員は現地の管理者から選ぶ
▼7 仕入先におけるトヨタ生産方式の進め方
▼8 トップは年三回以上仕入先を指導訪問すること
▼9 工場は工場長以下全員その国の管理監督者で運営
▼10 会社の公用語は日本語にする
▼11 信頼されるトップになってくださ���
―相手を尊重する・あなたも信頼される
あとがきに代えて―素晴らしいモノづくりのためトヨタ生産方式を導入しようと考えているトップの方へ
はじめに
大野耐一氏が第二次世界大戦後、トヨタ自動車工業の本社機械部の課長に異動したのをきっかけに、自身の課を課全員の反対の中で、当時としては考えもつかない「生産性向上」の目標を達成するスローガンとして「つくりすぎのムダを抑え、必要なだけつくる」「少人数でつくる」ことを決めて挑戦に向かわせ、画期的な生産性向上を実現しました。
それは、不良品はつくらない・後工程に送らないという「異常は止まる」人の機能を持った「自働化」機械を使って、機械が自動送りで加工している時は、人には別の仕事を与える「人の仕事と機械の仕事の分離」を実現し、粗材から完成品まで「一個流しの工程順配置」の一貫生産ラインで「人の流れ化」と「モノの流れ化」を進めて、従来よりもはるかに「少人数」で必要な数量を生産できる方式をつくり上げることで達成されたものです。
「流れ化ライン」ができ上がっていく過程で、「つくりすぎのムダを抑える」ために、米国のスーパーマーケットをヒントに、後工程が、必要な時に必要な量だけ取りに行く「後工程引き取り」を考案しました。モノができ上がったら持っていくという従来の運搬の方式とはまったく逆のやり方です。昭和二十年代後半のことでした。
「モノの買い取り券」を「引き取りかんばん」、そして「引き取られたモノを仕掛けてつくる券」を「仕掛けかんばん」と名づけ、ジャスト・イン・タイムを実現する「かんばん方式」がここに誕生しました。
以来、大野耐一氏の管轄範囲が広がるのに応じて、流れと後工程引き取りの範囲が広がっていきます。粗形材ラインと部品加工ライン、部品加工ラインとユニット・アッセンブリー・ライン、ユニット・アッセンブリー・ラインでつくられたユニットおよび仕入部品と車両組立ラインをそれぞれ後工程引き取りでつないで、「引き取りかんばん」と「仕掛けかんばん」の連鎖ができ上がったのは昭和五十年代のことです。約三十年をかけた大事業でした。
実に長い年月をかけて、言い尽くすことができないほどの多くの従業員の苦労と労苦、そしてその環境の中で、考えに考え抜き、絞りに絞り出した知恵と工夫の数々の結果です。
これができたのも、言わずもがなですが強固な意志を持ち、ゆるがない精神力を持ち続け、あるべき姿に向けて強力なリーダーシップを発揮し続けた大野耐一氏の「付加価値を高めてくれる従業員に対する感謝の思い」がその源にあったと私は考えています。
このようにしてつくり上げられた「トヨタ生産方式」ですので、生半可な知識と態度でやり始めますと、まず、うまくいかず、失敗に終わる確率の方が大きい。そればかりか失敗の結果として、現場が管理者の言うことも聞かず、口も出せない現場となり、モノづくりの現場が荒廃していきます。立て直すのに数倍の労力がかかることになります。
私たち「トヨタ生産方式」を大野耐一氏に指導された者にとっては、一カ所でもこのような現場ができることは大変不本意です。
長年トヨタ生産方式を推進している企業でも、自社の現場で��われているモノづくりのしくみでありながら、いまだにトヨタ生産方式のマネジメントがトップ・管理者に落とし込めていないために、職制が交替することで維持が危ぶまれ、ひいてはしくみだけの方式となってしまう例があるのを、非常に残念な思いで見てきました。
改善はやりがいのある職場をつくり上げていきます。このような職場にとって実に重要な運営をトップおよび管理監督者に落とし込む術は、「トヨタ生産方式のためのマネジメント」の一番重要な点ですので、本書を読んでぜひ実行していただきたい。やるからには是が非でも従業員から絶えず笑顔が出て、改善活動が絶え間なく続く現場をつくっていただきたいと考えます。
この本はそんな素晴らしい現場づくり、企業づくりの実現を願って、トヨタ自動車㈱、トヨタ台湾現地法人・國瑞汽車、中央発條㈱での私の四十年余りの「トヨタ生産方式」の人生で得た秘訣を書き下ろしたものです。
第一章では、大野さんから直接聞いたり、上司より聞かされたりした十五の言葉を通じて、大野さん自身が何を考え、どのようにトヨタ生産方式を展開したかを書きました。ここではトップの役割がいかに大事であるかをつかんでいただきたい。
第二章では、トヨタ生産方式を成功に導くためのトップの役割を明確に描きます。実に重要な役割ですが、大野さんはトップとしてこの役割を十分認識し、その都度対応してきました。また、トップが現場を回る時の見方を「モノの4つの状態」で説明しました。
第三章は管理者の役割です。モノづくり現場の管理者層にとって、本当に必要な役割を書きました。監督者の役割はかなり明確に決められて運営されてきていますが、一般的な集合教育では管理監督者とひとくくりにされて、管理者とは何か、その役割は何か、監督者との違いはどこにあるかが、わかりにくくなっているように思うからです。
さらに重要なのは、活気ある現場をつくるための「トヨタ生産方式のためのマネジメント」です。トヨタ生産方式には「モノづくりのしくみ」「管理の道具」にやる気を喚起するものが組み込まれていますが、徐々に使われなくなっているようです。明るく生き生きとした現場をつくるため、管理者にうまいマネジメントを習得してほしいと願って書きました。
第四章は、海外に駐在するトップのために、現地で「トヨタ生産方式」を導入、展開するに際して必要なことを書きました。日本とは文化も習慣も異なるところです。日本の成功体験は通じる部分もありますが、通じない部分もあります。国によって大きく異なることもありますので、慎重に進めてください。
トップと管理者はトヨタ式を成功裡に導く大変重要な役割を担う人です。私の拙い文章と内容で、それがどこまで理解していただけるかは心配ですけれども、第一章から第四章まで書いてあるのはすべて、トップと管理者こそが生き生きした、継続して改善が進む職場づくりの推進者ということです。